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冨樫義博短編集『狼なんて怖くない!!』紹介/“ちょい外しの天才”の片鱗

【これさえ押さえておけば知ったかぶれる三つのポイント】
「王道」のように思われているかもだけど、実は「ちょい外し」こそが真骨頂
スポーツ、推理、ラブコメ、オカルトなど多様なジャンルの「ちょい外し」が楽しめる
天才が駆け出しだった頃に考えていたこと


【紙の本】
狼なんて怖くない!!―冨樫義博短編集1 (ジャンプコミックス)

【キンドル本】
狼なんて怖くない!! (ジャンプコミックスDIGITAL)

【苦手な人もいそうなNG項目の有無】
この記事に書いたNG項目があるかないかを、リスト化しています。ネタバレ防止のため、それぞれ気になるところを読みたい人だけ反転させて読んでください。
※ 記号は「◎」が一番「その要素がある」で、「○」「△」と続いて、「×」が「その要素はない」です。

・シリアス展開:△(どれも明るい話としてまとめられてるけど)
・恥をかく&嘲笑シーン:◎(『HORROR ANGEL』は共感性羞恥な人はキツイかも)
・寝取られ:×
・極端な男性蔑視・女性蔑視:×
・動物が死ぬ:×
・人体欠損などのグロ描写:◎(ホラー映画などの描写として出てくる)
・人が食われるグロ描写:○(ホラー的な演出としてそれっぽいシーンはある)
・グロ表現としての虫:○(ホラー的な演出としてそれっぽいシーンはある)
・百合要素:×
・BL要素:×
・ラッキースケベ:×
・セックスシーン:×

↓1↓

◇ 「王道」のように思われているかもだけど、実は「ちょい外し」こそが真骨頂
 今日はいつもとは趣を変えて、漫画短編集の紹介です。
 紹介するのは、後に『幽☆遊☆白書』や『HUNTER×HUNTER』で国民的人気を博す冨樫義博先生が1989年に発売していた短編集になります。1989年というのは、『幽☆遊☆白書』も『HUNTER×HUNTER』も連載開始になっておらず、連載デビュー作である『てんで性悪キューピッド』が始まった頃です。

 つまり、後に超人気作家になっていく冨樫義博先生が、まだ連載を持てていない駆け出しの頃に描いた読切漫画を集めた本なんですね。時系列順に並べると、こんなカンジになります。

・1986年:読切『センセーは年下!!』 投稿作、ホップ☆ステップ賞最終候補
 (『てんで性悪キューピッド』最終巻に収録)
・1987年:読切『ジュラのミヅキ』 投稿作、ホップ☆ステップ賞佳作
 (『てんで性悪キューピッド』最終巻に収録)

・1987年:読切『ぶっとびストレート』 投稿作、手塚賞準入選
・1987年:読切『とんだバースディプレゼント』 プロデビュー作
・1988年:読切『オカルト探偵団 PART1』
・1989年:読切『HORROR ANGEL』
・1989年:読切『オカルト探偵団 PART2』
・1989年:読切『狼なんて怖くない!!』
・1989~1990年:連載『てんで性悪キューピッド』 連載デビュー作
・1990~1994年:連載『幽☆遊☆白書』
・1995~1997年:連載『レベルE』
・1998年~:連載『HUNTER×HUNTER』


 短編集に収録されているのは、薄字になっていない6作品です。
 手塚賞に準入選した投稿作から、プロデビュー作、連載枠獲得へとつながったと思われる読切までが入っています。言ってしまえば、後に超人気作家になっていく前の「原点」が読める1冊なんですね。



 さて。
 『幽☆遊☆白書』や『HUNTER×HUNTER』といった大ヒット作を生み出した人ということで、「冨樫義博という漫画家」を「王道ど真ん中」な作家だと思っている人も多いかと思うのですが……私は、冨樫義博先生は本質的には「パロディ作家」だと思っています。
 「パロディ」という言葉だと「コメディ」のように受け取られるかも知れないので適当ではないとしたら、「“漫画のお決まりごと”を読者が知っていることを前提に、そこから絶妙な具合だけ外す」のが得意な作家だと思うんですね。


 例えば、連載デビュー作である『てんで性悪キューピッド』―――
 「冴えない男主人公」の元に「可愛いヒロイン」がやってくるというド王道のラブコメなのだけど、その男主人公は「現実の女性に興味がない」ために、男主人公がエロに目覚めるように悪魔であるヒロインが教育するという作品です。

 代表作の一つである『幽☆遊☆白書』も、序盤は「幽霊などのオカルト事件を主人公達が解決していく」という王道作品でしたが、よく考えると「主人公も死んでいて幽霊」だとか「しかもヤンキー」だとか「喫煙・飲酒・パチンコ・カツアゲの常習犯」だとかはかなり異質な設定ですよね。

 バトル路線になってからも、「暗黒武術会編」は当時のジャンプでは多かったトーナメントバトルなのですが、「公平ではないトーナメント表」や「一度負けた選手が、再び登場してまた戦う」などトーナメントバトルというシステムを皮肉った展開も多かったですし。「魔界の扉編」の“領域”は、『ジョジョ』のパロディのつもりだったという話もありますし。

 『レベルE』は言うまでもなく、「王道だと思ったら外し」のオンパレードな作品ですよね。
 記憶をなくした宇宙人と、彼を保護した高校生―――という話だと思ったら全然ちげえ!みたいな話を詰め込んだ作品になっています。

 『HUNTER×HUNTER』はそう考えると、「王道だと思ったら外し」と「少年漫画的なカタルシス」をうまく両立した作品だと思うのですが……

(関連記事:“パクリ”と紙一重の“パロディ”だった『幽遊白書』



 閑話休題。
 冨樫先生の初期作品を集めたこの短編集を読むと、実はそういった作風はこの頃からずっと続いていることが分かるんですね。初めてこの短編集を読んだときにはさほど刺さらなかった作品も、『レベルE』や『HUNTER×HUNTER』を通過した現在に読んでみると「なるほど!『レベルE』っぽい!」とか「『HUNTER×HUNTER』に通じるものがある!」と気付くところが多いんですね。

 そういう意味では、「冨樫先生の作品は『HUNTER×HUNTER』しか知らない」というような人にも、その原点と片鱗が垣間見える1冊として覚えておいて欲しいなと思います。

↓2↓

◇ スポーツ、推理、ラブコメ、オカルトなど多様なジャンルの「ちょい外し」が楽しめる
 ここからは収録されている6作品の紹介です。
 漫画家として確立されていく流れを追うため、「収録されている順」ではなく「描かれたと思われる順」に紹介していきます。


◇ 『ぶっとびストレート』
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<画像は『狼なんて怖くない!!』収録『ぶっとびストレート』より引用>

 アマチュア時代に投稿された作品で、手塚賞準入選作品です。
 なんと「野球漫画」なんです。

 冨樫作品にはところどころに「野球」要素が垣間見えて、例えば『幽☆遊☆白書』のメインキャラである桑原和真はPL学園出身のKKコンビ「桑田真澄」と「清原和博」を足した名前で、敵の攻撃を打ち返す「首位打者剣」という技を使いますし。『レベルE』の筒井雪隆は野球部員ですし、『HUNTER×HUNTER』は「ナックル」や「シュート」といった野球の変化球の名前のキャラが登場します。

 そんな先生の原点が「野球漫画」というのは、『幽☆遊☆白書』や『HUNTER×HUNTER』しか知らないような人にも感慨深いんじゃないかと思われます。
 ストーリーは、熱血派の直球ピッチャーである主人公と、知性派の変化球ピッチャーであるライバルが、どちらが部に残るかを賭けて紅白戦を行うというものです。ここまではまぁ「王道」というか「なくはない」話だと思うんですが、終盤の展開は「ええええええ!?そんなのアリ!?」と意外性バツグンで『HUNTER×HUNTER』に通じるものがあるかもと思わなくもないです。


◇ 『とんだバースディプレゼント』
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<画像は『狼なんて怖くない!!』収録『とんだバースディプレゼント』より引用>

 プロデビュー作となった読切です。
 ケンカとゲームが大好きな不良少年である主人公に、祖父が誕生日プレゼントとして「ゲームを疑似体験できるマシーン」を作ってあげるという話―――そうなんです、これってVRなんですよ。1987年の時点でVRのゲームを描いているんです。

 説明不要かも知れませんが、冨樫作品にはところどころで「VRゲーム」が出てきます。
 『幽☆遊☆白書』ではゲームマスター:天沼月人が「ゲームを現実化させる能力」を使って、主人公達とゲームで対決するという展開がありますし。『レベルE』ではカラーレンジャーが、バカ王子の作った『RPGツクール』のRPGの中にワープさせられる話がありますし。『HUNTER×HUNTER』ではMMORPGのような『グリードアイランド』というゲームの中に入って戦う話があります。

 しかし、プロデビュー作からして「VRゲーム」を描いていたというのは、『幽☆遊☆白書』や『HUNTER×HUNTER』しか知らないような人にも感慨深いんじゃないか―――って話はさっき書きましたね(笑)。


 1987年というとファミコンの『ドラクエ』ブームの頃なので、そうした流行のファンタジー要素をこういった形で取り入れるのはすごい発想力ですし、捻りのある作品だと思います。オチも美しい。


◇ 『オカルト探偵団 PART1』
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<画像は『狼なんて怖くない!!』収録『オカルト探偵団 PART1』より引用>

 プロデビューから1年、「読者に受ける漫画とは何か」に悩んだ末にたどり着いたのが―――自分が面白いと思うジャンルをやるしかないと、「推理」と「オカルト」を足した作品になったという。

 「オカルト」要素は『てんで性悪キューピッド』でも『幽☆遊☆白書』でも『レベルE』でも垣間見えるのは言うまでもないですが、「推理」要素も言ってしまえば「読者の盲点を突く」ジャンルなので『レベルE』や『HUNTER×HUNTER』にも通じる要素ですよね。
 この2つのジャンルを足したことで「殺人事件の被害者が証言者になる」という現実にはありえない設定から始まり、それを活かした展開になっていくのが面白いです。

 「チョイ外し」の要素はあまりなく、「王道」とも言える作品だとは思うのですが……「幽霊」と「ヤンキー」と「事件解決」という組み合わせは、『幽☆遊☆白書』序盤のそれに近いものがありますし、この作品がちゃんと評価されたことで後々『幽☆遊☆白書』が生まれると考えると貴重な1作だと思います。


◇ 『HORROR ANGEL』
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<画像は『狼なんて怖くない!!』収録『HORROR ANGEL』より引用>

 収録されている6作品の中で、私が一番好きな作品です。
 ホラー映画が大好きで、ホラー映画をぶっ続けで観ていた主人公の元に「ホラー映画の精」がやってくるという話で……言ってしまえば「冴えない男」のところに「願いを3つ叶えてくれる妖精」がやってくるという王道展開なのですが。この「ホラー映画の精」は「ホラーにまつわることしか出来ない」ため、ちっとも役に立たないという。

 「王道ラブコメ」に「ホラー要素」を加えてチョイ外しに成功したところは、「推理」と「オカルト」を足した『オカルト探偵団』の進化形に思えますし、『てんで性悪キューピッド』や『幽☆遊☆白書』の序盤につながっていく作風なような気がします。



◇ 『オカルト探偵団 PART2』
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<画像は『狼なんて怖くない!!』収録『オカルト探偵団 PART2』より引用>

 『オカルト探偵団』が人気だったためか、その第2弾が描かれました。
 幽体離脱をした少年と出会ったオカルト探偵団が、彼の願いを叶える―――といったカンジに、『幽☆遊☆白書』の序盤にありそうな話です。探偵要素はどこに行ったんだ(笑)。

 でも、「王道に見えてチョイ外し」が最後の最後に上手く効いていて、人情ドラマとしてよく仕上がっています。「泣かせる話」を描かせても超一流なんだぜって片鱗を感じさせますね。



◇ 『狼なんて怖くない!!』
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<画像は『狼なんて怖くない!!』収録『狼なんて怖くない!!』より引用>

 短編集の表題作で、『てんで性悪キューピッド』直前の読切なので、この作品が評価されたことでの連載枠獲得になったのかなーと思われます。
 「冴えない男」が「クラスのアイドル」に恋する王道ラブコメながら、実はその男主人公が「満月の夜に狼になってしまう」狼男だというチョイ外しですね。『てんで性悪キューピッド』と同ジャンルの作品だと思いますが、エロ要素はあまりなく、ヒロインも超王道の清楚黒髪ロングで可愛い。

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<画像は『狼なんて怖くない!!』収録『狼なんて怖くない!!』より引用>

 あと、悪役として登場するのが「気に入った女子をモデルにエロ同人誌を描いちゃう漫画研究会」だというのが酷い(笑)。


↓3↓

◇ 天才が駆け出しだった頃に考えていたこと
 冨樫義博先生と言えば『幽☆遊☆白書』以降は超人気作家で、現在でもまだ(不定期とは言え)『HUNTER×HUNTER』を大人気連載中なワケですが……そんな大先生であっても駆け出しの頃があって、「どうすれば上手くいくのか」が分からずに悪戦苦闘した時期があって、そうして足掻いている中で自分の武器を見つけた瞬間があって。

 そうした時期の作品を収録したこの短編集は、そうした漫画作品そのものも貴重なものだと思うんですが、更に作者本人が各作品に「この作品はこういう意図で描きました」とコメントを付けているのがものすごく貴重だと思うんですね。
 それはまぁ、連載デビュー作となる『てんで性悪キューピッド』や『幽☆遊☆白書』初期の頃もそうなのですが、冨樫先生ってコミックスのスペースで近況報告をしてくれたり作品の狙いを解説してくれたり、ファンサービスに熱心だった作家だったんですよね。作品が大ヒットしていくに従って、徐々にガードが固くなっていってしまうものですが。


 そういう意味では「冨樫義博という漫画家」を知るためにはそうしたコメントこそが大事なのかもと思いますし、「天才作家様にもこういう時期があったのか」と思うことで勇気が湧くとも考えられます。



◇ 結局、どういう人にオススメ?
 「冨樫義博先生の作品のファン」なら、もちろん彼のルーツが知れて面白いと思うのでオススメです。「昔読んだけど、もう内容忘れちゃった」という人でも、『レベルE』や『HUNTER×HUNTER』を通過した今読み返すと新たな発見があるんじゃないかと思います。

 というか、私も随分前に買って一度読んだだけでベッドの下の奥底にしまって読み返していなかったのですが、今になって読んだら「こんなに面白かったのか!」と驚きましたからね。


 「冨樫義博先生の作品は一作品も読んだことがない」という人がこの記事を読んでいるのかは分かりませんが(笑)、そういう人であっても様々なジャンルの「ちょっと王道から外れた話」が好きな人ならオススメです。なんだかんだ、女の子が可愛いというのもポイントが高いです。それを活かした連載デビュー作が、かなりえっちな『てんで性悪キューピッド』だったというのも必然というか何というか。

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『満ちても欠けても』全2巻紹介/「いつもそこにあるもの」のために働く人々の物語

【これさえ押さえておけば知ったかぶれる三つのポイント】
「一つのラジオ番組」を中心としたオムニバスのストーリー
予算がなくても、華やかな場所じゃなくても、「ラジオ」が好きな人達が熱いんだ
オムニバスだからこそ、不器用な二人をいろんな視点で眺めるのにニヤニヤする


【紙の本】
満ちても欠けても(1) (KCデラックス Kiss) 満ちても欠けても(2)<完> (KCデラックス Kiss)

【キンドル本】
満ちても欠けても(1) (Kissコミックス) 満ちても欠けても(2) (Kissコミックス)


【苦手な人もいそうなNG項目の有無】
この記事に書いたNG項目があるかないかを、リスト化しています。ネタバレ防止のため、それぞれ気になるところを読みたい人だけ反転させて読んでください。
※ 記号は「◎」が一番「その要素がある」で、「○」「△」と続いて、「×」が「その要素はない」です。

・シリアス展開:×
・恥をかく&嘲笑シーン:×
・寝取られ:×
・極端な男性蔑視・女性蔑視:×
・動物が死ぬ:×
・人体欠損などのグロ描写:×
・人が食われるグロ描写:×
・グロ表現としての虫:×
・百合要素:×
・BL要素:×
・ラッキースケベ:×
・セックスシーン:×

↓1↓

◇ 「一つのラジオ番組」を中心としたオムニバスのストーリー
 気づいたら、半年ぶりの「漫画紹介」記事になってしまいました。
 紹介記事を書く気がなくなったワケでも、この間に漫画を読んでいなかったワケでもなくて、半年間「紹介したい!」と思えるような作品に出会えていなかっただけです。それくらい自分の好みの作品に出会うのは難しいのですから、みなさんがみなさんの好みの作品に出会う手助けになれれば嬉しいですね。

 ということで、半年ぶりに「紹介したい!」と強い衝動に駆られた今回の作品は、講談社の女性向け漫画雑誌KISS(と、その姉妹誌Kiss PLUS)にて2014年まで連載されていた、水谷フーカ先生の『満ちても欠けても』です。架空のAMラジオ局:ラジオ雛菊の深夜番組『ミッドナイトムーン(MNM)』を中心としたオムニバス作品です。


 「またオムニバスか……」とか思われていそう!
 半年前の「漫画紹介」記事に書いたのが一つの教室を題材にしたオムニバス作品で、今回は一つの職場を題材にしたオムニバス作品ですからね(笑)。でも、「自分好みの漫画」を紹介すると、どうしてもこうなってしまうという!


 ただ、この作品は「登場人物はそこまで多くない」し、「関係性も分かりやすい」上に、「オムニバス作品の魅力をちゃんと持った作品」なので―――オムニバス作品の初心者にもオススメです!

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<画像は『満ちても欠けても』第1巻・第1話「天羽日向の場合」より引用>

 この漫画の中心となるラジオ番組『ミッドナイトムーン』を作っているのは5人―――「パーソナリティ」の天羽日向、「放送作家」の中村慧尋、「ディレクター」の伊庭徹、「AD」の蒲田大輔、「ミキサー」の牛塚理子。
 普段ラジオを聴かない人は驚くかも知れませんが、ラジオ番組って(特に深夜番組なんかは)このくらいの少人数で番組を作っているのです。まぁ、帯番組(月曜から金曜日まで毎日放送する番組のこと)の場合は、曜日ごとにスタッフを替えるものじゃないのかとは思いますが!


 さて、「オムニバス作品」の定義なんですけど……
 一つ一つは「独立した短編」をまとめたものなのだけど、「短編集」とは微妙にちがって、全体を通して「一つの作品になっている」ものを指すそうです。この『満ちても欠けても』の場合は、『ミッドナイトムーン』という番組を中心に「今回は天羽さんが主人公」とか「今回は伊庭さんが主人公」といったカンジに、毎回主人公が変わる一話完結の話が続くというカンジですね。

 中心にいるのは天羽さんだったり伊庭さんだったりなのだけど、回によっては意外な人が主人公になって、その主人公だからこその新鮮な視点を見せてもらえるのが面白いのです。

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<画像は『満ちても欠けても』第2巻・第7話「小森有希の場合」より引用>

 例えば、この回なんかは「番組を作る側」でなくて、「番組を聴く側」が主人公なんです。
 「番組を作る側」の視点だけでなく、「番組を聴く側」の視点も見せてもらえることによって、『ミッドナイドムーン』という架空の番組が多角的に見えてくるというのがこの作品の魅力ですし―――「お仕事」を題材にしたマンガの中でも、ラジオ局を舞台にしている強みだなぁと思うのです。


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<画像は『満ちても欠けても』第1巻・第1話「天羽日向の場合」より引用>

 私の推しはこのコ!
 天羽さんの後輩で、新人アナウンサーの花岡奈津ちゃんです!

 黒髪のショートカットで、マジメで清潔感があって一生懸命で―――私の好みど真ん中です!あんまり出番ないですけど!


↓2↓

◇ 予算がなくても、華やかな場所じゃなくても、「ラジオ」が好きな人達が熱いんだ
 さて、この作品のタイトル『満ちても欠けても』なんですけど……みなさんは何のことだと思いますか?

 正直、このタイトルでは「ラジオ局を舞台にしたお仕事マンガ」とは想像できませんよね。でも、このタイトル―――最後まで読むと「すっげえ良いタイトルだったなぁ!」って思うんですよ。


 「満ちても欠けても」という表現で連想するのは、「月」ですよね。
 そして、この作品の中心にあるラジオ番組は『ミッドナイトムーン』です。「満ちても欠けても」というのは『ミッドナイトムーン』のことで、実際に作中でも「満月の夜も、新月の夜も、あなたにお届けするミッドナイトムーン」というセリフがあるのですが……

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<画像は『満ちても欠けても』第1巻・第6話「伊庭徹の場合」より引用>

 でも、それは『ミッドナイトムーン』に限った話じゃなくて……
 ラジオって「月」のようなものだと思うんです。


 いつもそこにある、でもそれを見上げる人と見上げない人がいて、見上げるのを忘れてしまうこともあるのだけど、そんな日でさえも「月」はちゃんと地球のまわりを回っている――――
 ラジオもそうだと思うんですね。毎日欠かさず聴いている人もいれば、一度も聴いたことがない人も今日は聴くのを忘れてしまったという人もいて。でも、そんな日でさえも「ラジオ」の電波は流れていて、それを作っている人達がいるんだ―――と。


 そして、どちらも。
 一人でそれを見上げていたとしても、何のつながりもない赤の他人が別々の場所で「同じもの」を見ている―――という不思議なものなのです。 


 満ちる日も、欠ける日も、
 「いつもそこにあるもの」を作り続ける人がいる―――
それを表すタイトルなんです。



 こんなタイトルを付けるくらいなのだから、作品全体が「ラジオへの愛」に満ちていて、登場する人達もみんな「ラジオが大好き」で……そんな作品だから、私のように元々ラジオが大好きな人にとってはもちろん、そうでない人にとっても「何かを大好きな人達がそれを仕事にしている様」を見るのは熱く感じるものがあると思うんです。


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<画像は『満ちても欠けても』第1巻・第1話「天羽日向の場合」より引用>

 テレビに比べれば、予算は少ない。人も少ない。
 設備もないし、制約も多い。


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<画像は『満ちても欠けても』第2巻・第11話「三木貴信の場合」より引用>

 この野球実況者の回は、神回すぎる。
 スイングも見えない、投球も見えない、ボールがどこにあるのかも見えない、選手の位置も見えない―――そんなラジオで「野球中継」をする意味があるのか。


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<画像は『満ちても欠けても』第1巻・第1話「天羽日向の場合」より引用>

 でも、この作品のキャラクター達は誇りを持って「ラジオ」を作るのです。
 予算がなかろうが、テレビほど華やかな世界ではなかろうが、彼ら・彼女らは誇りを持って「ラジオ」を作るのです。


 今までラジオなんて聴いたことがなかった人でも、この情熱を見ればきっとラジオのことも見直してくれるはず!
 確かに美化されているところはあると思うけれど、ニッポン放送のアナウンサーさんがネームチェックまでしてくれているみたいなので、「これがラジオの現場なんだ!」と知ることができると思いますよ!


↓3↓

◇ オムニバスだからこそ、不器用な二人をいろんな視点で眺めるのにニヤニヤする
 さてさて、この作品が「回によって主人公が変わるオムニバス作品」だという話は最初の項にて書きました。しかし、「それで回によって主人公が変わると、何が面白いんだ?」と思った人もいるかも知れません。それは言い換えれば「オムニバス作品の魅力とは何だ」という話なのですが、私は一つのものを色んな視点から眺めることが出来るのが最大の魅力だと考えています。


 例えば、この作品の中心にあるのは『ミッドナイトムーン』というラジオ番組なのですが、「パーソナリティの天羽さんとディレクターの伊庭さんの関係」が色んな人の視点から描かれるのが面白いのです。
 「天羽さんから見た伊庭さん」や「伊庭さんから見た天羽さん」はもちろん、「第三者から見た二人」として描かれる二人の関係性がとてもイイのです。


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<画像は『満ちても欠けても』第1巻・第4話「花岡奈津の場合」より引用>

 何も知らずにアンケートをとっている花ちゃんと、ぶちギレている伊庭さんと、「何やってんだーーー」と焦る『ミッドナイトムーン』のスタッフ達。


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<画像は『満ちても欠けても』第1巻・第5話「中村慧尋の場合」より引用>

 見習いスタッフが藪をつつきそうなところを、すんでのところで止めるうっしーさん。


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<画像は『満ちても欠けても』第2巻・第9話「小星拓斗の場合」より引用>

 周りには「もどかしい二人」と思われてるにも関わらず、時折見せる「熟年夫婦」感とかすごく好き!


 これがもし「ずっと天羽さんが主人公」とか「ずっと伊庭さんが主人公」の作品だったら、なかなか進展しないなーともどかしく思うだけだったかも知れないのですが……毎回主人公が変わるこの作品だと、脇役として出てくる「変わらない二人の姿」にニヤリとさせられるという!

 一番分かりやすい例が「天羽さんと伊庭さんの関係」なのでここで取り上げましたが、他のキャラも「その人が主人公の回」だけじゃなくて「他の人の主人公の回」に脇役として出ていて、そしてみんな「いつもそこにある月(=ラジオ)を見ている」というのがこの作品の魅力だと思うのです!



◇ 結局、どういう人にオススメ?
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<画像は『満ちても欠けても』第1巻・第4話「花岡奈津の場合」より引用>

 登場人物みんなが「ラジオが好き」で、好きなもののために一生懸命働く姿を描く作品です。「ラジオが好きだ」という人にはもちろんオススメなんですけど、そうでない人にも「(悪意のない)優しい世界が好きだ」という人には是非オススメしたい1作です。

 そう考えると「日常系アニメ」とかに近いのかも知れぬ。
 日々に疲れたときに読んで、ほっと癒されるような作品です。オススメです!

| 漫画紹介 | 17:51 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『うちのクラスの女子がヤバい』全3巻紹介/クラスメイト一人一人が主役の群像劇!

【三つのオススメポイント】
・「超能力」とは呼べない、心底しょーもない「無用力」のおかしさ
・主役が毎回変わることで、多角的に見えてくる「うちのクラス」
・「うちのクラス」と一緒にすごした1年間の果てに……


【紙の本】
うちのクラスの女子がヤバい(1) (マガジンエッジKC) うちのクラスの女子がヤバい(2) (マガジンエッジKC) うちのクラスの女子がヤバい(3)<完> (マガジンエッジKC)

【キンドル本】
うちのクラスの女子がヤバい(1) (少年マガジンエッジコミックス) うちのクラスの女子がヤバい(2) (少年マガジンエッジコミックス) うちのクラスの女子がヤバい(3) (少年マガジンエッジコミックス)


【苦手な人もいそうなNG項目の有無】
この記事に書いたNG項目があるかないかを、リスト化しています。ネタバレ防止のため、それぞれ気になるところを読みたい人だけ反転させて読んでください。
※ 記号は「◎」が一番「その要素がある」で、「○」「△」と続いて、「×」が「その要素はない」です。

・シリアス展開:×
・恥をかく&嘲笑シーン:△(教室が舞台なので多少は…)
・寝取られ:×
・極端な男性蔑視・女性蔑視:×
・動物が死ぬ:×
・人体欠損などのグロ描写:×
・人が食われるグロ描写:×
・グロ表現としての虫:△(グロくはないけど昆虫が出てくる回はある)
・百合要素:×
・BL要素:○(BLというよりトランスジェンダーの話がある)
・ラッキースケベ:×
・セックスシーン:×


◇ 「超能力」とは呼べない、心底しょーもない「無用力」のおかしさ
 この漫画は、2015年~2017年に月刊少年マガジンエッジで連載されていた学園漫画です。とある高校の1年1組を、毎回主人公を変えながら描くオムニバス作品なのですが……この1年1組が変わっているのが、


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<画像は『うちのクラスの女子がヤバい』2巻8話「ふたば+れもん」より引用>

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<画像は『うちのクラスの女子がヤバい』3巻12話「リュウとランタンの灯り」より引用>


 女子だけ、「無用力」という特殊能力を持つ人が集められているという。
 
 正式名称を「思春期性女子突発型多様可塑的無用念力」と呼ぶもので、言ってしまえば「超能力」なのだけど、「無害」「役に立たない」もので「感情が昂るなどといったコントロールしにくい発動条件」「思春期が終わると失われてしまう」というしょーーーーもない能力なのです。

 「面白いことがあると下半身が光る」、「熱視線を向けると室温が真夏くらいに上がる」、「混乱するとモスキート音を発する」、「悪だくみをするとお好み焼きのにおいを発する」……もしこの漫画が『ハンター×ハンター』だったら「こんな能力でどうやって戦えばええねん」と言いたくなるものばかりなのだけど、だからこそこの作品ではこうした能力が「無用力」と言われ、大して問題視もされずに「個性」として尊重されているのです。


 この「非日常」が溶け込んだ「日常」の描かれ方は、『亜人ちゃんは語りたい』とかに近いかも知れませんし。
 人それぞれちがう「能力」を持っていると描かれるのは『とある科学の超電磁砲』とかにも近いかも知れません。あちらも能力者が全国から学園都市に集められている設定ですし、「たいやきの温度が下がらない能力」なんかは「無用力」っぽいですし(笑)。


 読者からすれば「次はどんなヘンテコ能力が来るのだろう」と毎回楽しみに出来ますし。
 でも、当人にとっては「無用力」も一つの「思春期の悩み」ですから、1話完結の「青春の1ページ」の話として面白いのです。「無用力」という設定はファンタジーではあるんですけど、思春期特有の「自分には何か特別な力があるはずだ」という万能感と「自分の力は世界の広さの中ではちっぽけなものだ」という無力感をメタファーのように表現しているのかなと思うのです。

 私達には「無用力」なんてないけれど、誰もが「無用力」のような何かは持っていたよね――――と。




◇ 主役が毎回変わることで、多角的に見えてくる「うちのクラス」
 しかしながら、私がこの作品を大好きな最大の要因は、何といってもこの作品が「1年1組」を舞台にした群像劇になっているところです。毎回主人公が変わるオムニバス作品というのは、一つの場所を舞台にすると群像劇になるのです。「1年1組」という狭い空間の中なら、なおのこと。


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<画像は『うちのクラスの女子がヤバい』1巻1話「ギッちゃんの目論見」より引用>

 例えば、第1話の主人公として登場する「ギッちゃん」こと擬星くんは……


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<画像は『うちのクラスの女子がヤバい』1巻3話「点子ポエティック」より引用>

 第3話では、この回の主人公である点子ちゃんにギャルゲーを貸す「チョイ役」として登場するという。1話完結のオムニバス作品ですから1話単体でも楽しめるのですが、両方を読んでいると「確かに第1話の擬星くんの行動は非モテっぽいところがあったけどギャルゲーヲタクだったからなのか!」と合点がいくのです。


 前のエピソードで主人公だったキャラが、後のエピソードでは脇役として登場したり。
 前のエピソードで脇役だったキャラが、後のエピソードでは主人公として登場したり。

 1巻の頃はこういうクロスオーバーがあまりないのですが、2巻・3巻と進んでいくにつれてこういうクロスオーバーが出てきてどんどん面白くなっていくのです。私がこの作品の中でトップ3に入るくらいに好きなエピソードである2巻の「メカブ現像」という回は、これを見事に活かした話なので、是非そこまで読んでほしい!「群像劇の面白さってこういうことかー」と分かってもらえると思いますから!


 しかし、こういった「オムニバス」であり「群像劇」にもなる作品って、読者が「このキャラは以前に出てきたあのキャラか!」と分からないとなりません。要は、キャラの描き分けが出来ていないとなりたたないんですね。
 名前は出しませんけど、別の作品で「オムニバス」であり「群像劇」にもなっている作品があったのですが……その作品は、すっごく絵が美しくて女のコも可愛かった一方で、どのエピソードの主人公も似たような見た目で「このキャラは以前に出てきたあのキャラか!」となるどころか「このキャラって前にも出てきたっけ……?」と、本来なら超面白いクロスオーバーがイマイチ楽しめませんでした。


 そこを行くと、この『うちのクラスの女子がヤバい』という作品は……いわゆる萌え系の可愛らしい絵柄ではないのですが、キャラごとのデフォルメがきっちり効いていて見分けのつかないキャラはほぼいません(雨々と沐念さんは若干厳しいけど……)「無用力」も含めたキャラクターの個性付けも強烈なので、印象にも残ります。

 この絵柄、この設定が、「クラスメイト一人一人が主役の群像劇」を描くのにベストマッチなのです。



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<画像は『うちのクラスの女子がヤバい』3巻13話「犬釘ノート」より引用>

 全然関係ないけど、犬君のこの台詞すげー好き。



◇ 「うちのクラス」と一緒にすごした1年間の果てに……
 「1年間」と書きましたけど第1話から読んでいくと「季節が二巡しているような……」とは思うのですが、まぁそこは置いといて(笑)。いろんなキャラを主役にして一つのクラスを描くと、「主人公を好きになる」というよりかは「このクラス全体を好きになっていく」ものです。

 コイツとコイツは仲が悪い、コイツは女子とは会話できない、コイツは誰と話しても相手を困惑させてしまう、コイツはクラスの中で浮いている―――それが全部好きになってくるんですね。
 そういう清濁が混在しているのが「クラス」だと思うし、自分が学生の頃はそれがイヤだったのに、大人になると「そこが面白かったんだなー」とその良さが分かるようになって、自分もこのクラスの一員になって1年間を過ごしたような気持ちになれるのです。



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<画像は『うちのクラスの女子がヤバい』3巻15話「悩める雨々」より引用>

 そして、その1年間の果てに……

 毎回主人公が入れ替わり、“神の視点”でクラスを見守ってきた読者にとって最終回は見事としか言えない回でした。1話完結のオムニバス作品ですけど、是非最初から最後まで通して読んでもらいたい!“神の視点”である読者しか気づかない「謎」がつながっていくところがたまらないのです。



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<画像は『うちのクラスの女子がヤバい』1巻5話「ミクニさんとおにぎり」より引用>

 読者しか存在を知らない謎の仮面の組織。
 コイツらの正体と企みとは……

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『百万畳ラビリンス』上下巻紹介/全2巻に詰め込まれた大冒険!

【三つのオススメポイント】
・「見ていられない」けど、見ていたくなる主人公:礼香の魅力
・超人気イラストレーターの画力によって描かれた世界
・ミステリーでもあり、SFでもあり、大冒険でもあり


【紙の本】
百万畳ラビリンス  上巻 (ヤングキングコミックス) 百万畳ラビリンス  下巻 (ヤングキングコミックス)

【キンドル本】
百万畳ラビリンス(上) (ヤングキングコミックス) 百万畳ラビリンス(下) (ヤングキングコミックス)

【苦手な人もいそうなNG項目の有無】
この記事に書いたNG項目があるかないかを、リスト化しています。ネタバレ防止のため、それぞれ気になるところを読みたい人だけ反転させて読んでください。
※ 記号は「◎」が一番「その要素がある」で、「○」「△」と続いて、「×」が「その要素はない」です。

・シリアス展開:△(礼香の過去のシーンはちょっとキツイかも)
・恥をかく&嘲笑シーン:×
・寝取られ:×
・極端な男性蔑視・女性蔑視:×
・動物が死ぬ:×
・人体欠損などのグロ描写:×
・人が食われるグロ描写:×
・グロ表現としての虫:×
・百合要素:×
・BL要素:×
・ラッキースケベ:×
・セックスシーン:×


◇ 「見ていられない」けど、見ていたくなる主人公:礼香の魅力
 半年くらい前にコメント欄でオススメされていた漫画です。
 キンドルで少年画報社のポイント還元キャンペーンをやっていたので(現在は終了しています)、上下巻まとめて買って一気に読んでしまいました。すごく面白い!けど、これをネタバレさせずに紹介するのは難しい!なるべく物語の核心部分には触れないように紹介できるよう頑張ります。


 ストーリーは、ゲーム会社でデバッグのアルバイトをしている女子大生2人が、ある日突然「誰もいない謎空間」に迷い込んでしまって、そこからの脱出を目指すというものです。


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<画像は『百万畳ラビリンス』上巻 第2畳より引用>

 主人公は19歳の女子大生:礼香。
 黒髪ロングで、端正なお顔立ちで、スタイルも整っている「これぞ美人!」っていうキャラです。


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<画像は『百万畳ラビリンス』上巻 第3畳より引用>

 相方は礼香のルームメイトの庸子。
 礼香とは対照的にワイルドな風貌で、自分で自分を「ドブス」と卑下したりもするキャラです。


 一見すると「美女と野獣」みたいなコンビに見えるかもですが、読み進めれば読み進めていくほど、この2人の関係性は逆だと分かっていきます。礼香が後先考えずに突っ走って、気配りの出来る庸子がそれをサポートするのです。礼香の友達をやっていけるのは庸子しかいないよなぁ……と徐々に見えてくるあたりが、この作品にハマるポイントでもあります。



 さてさて。主人公たちが元々「ゲーム会社で働いていた」という設定だったり、礼香も庸子もゲーム好きなのでゲームの例えもところどころで出てきたりもすることから、この作品をゲームが好きな人にオススメ!みたいに言われているのを見かけるのですが……逆に言うと、「ゲームに詳しくないと楽しめないのでは?」と手に取らない理由にもされてしまうんじゃないかと危惧します。

 私の感覚では、この漫画を楽しむのにゲームに詳しいかどうかはあんまり関係ないと思います。
 というか、主人公たち(&作者さん)と私の「ゲームの好み」は全然ちがうので、私にも出てくるゲームの例えがよく分からなかったりしました。それでも、問題なく楽しめましたからね。


 ただ、「バグ」と「デバッグ」については事前に知っておいた方がイイかな……と思うので、その用語の意味だけ説明しておきます。
 コンピューターゲームは人間の作った「プログラム」によって動くのですが、時々作り手が想定していない動きをしてしまうことがあります。例えば、本来なら8月31日で終わる『ぼくのなつやすみ』で、特定の手順を踏むと「8月32日」に進めてしまうとか。これが「バグ」です。
 「デバッグ」というのはそうした「バグ」を発売前に見つける作業で、見つけられた「バグ」は報告されて修正されます。そのため「どうしたらバグが起こるのか」をありとあらゆる方法で探さなくてはならないので、バイトを雇ってありとあらゆる方法を試させるのです。発売されたゲームに残っているバグというのは、基本的にはこの「デバッグ」作業ですら見つけられなかったものです(面白いから仕様として敢えて残すものもありますけど)。


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<画像は『百万畳ラビリンス』上巻 第1畳より引用>

 礼香と庸子は、この「デバッグ」のアルバイトをしている女子大生で。
 特にこの礼香は、「バグ」を見つけるのが大好きで、「バグ」を見つける天才でもあります。


 この礼香の「バグを見つける天才」なところが、『百万畳ラビリンス』の魅力とも言えて……言ってしまえば、「バグ探し」というのは、ゲームを作った人が想定しないことを考える行為なんですね。「誰もいない謎空間」に迷い込んでしまった2人ですが、礼香は「バグ探し」で鍛えた自由な発想で次々と困難を突破していくのです。

 「常人には発想できない奇抜なアイディアで困難を突破する」「常人には理解されない感性ゆえに人とうまく関われない」―――礼香のキャラクターの特性だけを見れば、物語の世界では特に珍しいものではありません。諸葛亮公明のような天才軍師タイプとか、シャーロック・ホームズのような名探偵タイプとか、様々な形で登場します。

 しかし、「軍師だから頭がイイんですよ」「名探偵だから頭がイイんですよ」と言うのではなく、「デバッガーだから他人の盲点を突ける」「そこに楽しさを見出せるからデバッガーなんてことをやっている」というキャラ付けだからこそ、彼女は説得力を持ったキャラクターになっていると思うのです。私達と地続きの世界にいそうなキャラとして感じられるのです。



 礼香はすっごい美人ですし、下着姿や全裸姿になることもあるので「あー、美しや美しや」と拝ませてもらっているのですが。彼女の魅力は単なる外見上の美しさではなく、次はどんな「常人には発想できない奇抜なアイディア」を見せてくれるんだろうというワクワク感と、それと表裏一体の「常人には理解されない感性」とも言える壊れ具合のハラハラ感が混在しているところにあると思うのです。



◇ 超人気イラストレーターの画力によって描かれた世界
 説明が遅くなりましたが、この作品は2013年から2015年に当時の「ヤングコミックチェリー」、後に「ヤングコミック」に名前を戻した雑誌に連載されていた漫画です。作者はたかみち先生。

 たかみち先生……と言ってピンと来るかどうかは人それぞれだと思いますが、一番有名な説明をすれば「コミックLOの表紙を描いている人」です。


 コミックLOという雑誌は、茜新社から発売されている「小さい女のコを好きな人に向けたエロ漫画誌」なのですが。その表紙は創刊号からたかみち先生が担当していて、基本的にはエロではない「少女が普通に過ごしている風景を切り取ったイラスト」になっています。そのイラストの美麗さゆえに、表紙をまとめた画集も発売されているほど高く評価されているのです。

LO画集2-A -TAKAMICHI LOOP WORKS- (FLOW COMICS)
LO画集2-A -TAKAMICHI LOOP WORKS- (FLOW COMICS)


 つまり、超絵が上手いイラストレーターさんが描いている漫画なんです。
 まぁ……「絵が上手い」と言っても、「カラー絵のイラスト」と「白黒の漫画」では表現できるものがちがいますし、絵の上手いイラストレーターさんが描いた漫画を読んだら「読みづれええ」みたいなこともしょっちゅうですし、ましてや「ノスタルジーをこめた現実世界の少女のイラスト」と「謎空間からの脱出を目指す漫画」じゃ方向性が正反対だとも思うんですが。

 「カラーが白黒に」なっても、「現実世界が謎空間に」なっても、「少女が女子大生2人組に」なっても、全く問題ないくらい画力という暴力で圧倒されました。


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<画像は『百万畳ラビリンス』上巻 第7畳より引用>

 トビラ絵を引用するのはちょっと気が引けるのですが……
 たかみち先生の特徴でもある「光と影のコントラスト」も、白黒でしっかり表現されていますし。謎空間の立体的な把握や、そこにしっかり存在するキャラクターのデッサン技術も高く、終始「絵が上手いとこんな漫画が描けるんだなぁ……」と思いながら読んでいました。


 あと、先ほども書いたように礼香さんは頻繁に裸や下着姿を見せてくださるので、画力の高さというのはそういうところでもありがたいですね。




◇ ミステリーでもあり、SFでもあり、大冒険でもあり
 三つのオススメポイント、一つ目は「キャラクター」について語り、二つ目は「画力」について語ったので、三つ目は「ストーリー」について語りたいのですが……これが、ネタバレせずに語るのがとても難しいです。

 私はこの漫画の「ストーリー」がとても好きで、最後のあとがきに「本作はあらかじめ結末までストーリーを決めて制作し、ほぼそのまま描ききることができました。」とあるように、非常に美しく構成されたストーリーだと思うんですね。
 それは「伏線の張り方が上手い」みたいな分かりやすいものだけでなく、情報の出し方が上手いというか、キャラクターがどういう人間なのかをあらかじめここで見せておくことで後の言動に説得力がある―――みたいに1つ1つのシーンがすごく計算されていると思うのです。


 ただ、それを解説してしまうと思いっきりネタバレになってしまいますし。
 それは、この作品の魅力を大きく損なうことだと思うんですね。



 だから、なるべく物語の核心部分に触れないように、自分がこの作品の「ストーリー」で好きなところを考えてみたところ……私はやっぱりこの作品、「大冒険」なところに魅力があると思いました。

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<画像は『百万畳ラビリンス』上巻 第4畳より引用>

 “ある日突然「誰もいない謎空間」に迷い込んでしまって、そこからの脱出を目指す”という説明だと、『密室からの脱出』的な脱出ゲームを連想する人もいると思うんですが、礼香はこの状況を「オープンワールド」のように捉えているんですね。

 「オープンワールド」の定義はゲーム好きの間でも見解が分かれる難しい話ですが、ゲームにあまり興味のない人にも分かりやすい説明を考えると……脱出ゲームは「作り手が想定する解法を見つけるゲーム」で、(ここで礼香が言っている)オープンワールドのゲームは「どこに行っても自由で、何をしても自由なゲーム」です。

 例えば、最近発売されたオープンワールドのゲーム『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』では、一つの塔の登り方にも、「壁をよじ登る」だけでなく、「風船をたくさん付けて浮き上がる」とか、「思いっきり丸太を吹っ飛ばして自分もその上に乗る桃白白ごっこ」といった様々な方法があります。中には開発チームですら想定しない技を編み出す人もいて、開発チームを悔しがらせたなんて逸話もあるのですが……



 要は、礼香はこの「誰もいない謎空間」を、オープンワールドのゲームのような「大冒険の場所」として楽しんでいるんですね。「次はあっちに行ってみよう!」「次はこんなことをしてみよう!」と、それこそ私達が『ブレス オブ ザ ワイルド』を買って自由に遊んでいるみたいに、礼香はこの「誰もいない謎空間」で自由に遊んでいるのです。

 「どうしてこんな謎空間に閉じ込められてしまったのか」の謎に迫っていくさまはミステリーのような楽しさがありますし、不思議空間が解明されていく展開はSF的な面白さもあるのですが、私はこの作品は「冒険するワクワク感」を与えてくれる漫画だと思うのです。


 そして、重要なのは、そんな大冒険が「全2巻」というコンパクトなページ数に詰め込まれていることです。「何十巻もあるような漫画は読む時間がない」という忙しい人にも、「何十冊も漫画を買うほどお財布に余裕がない」という人にもありがたい「全2巻」ですよ!




 2017年5月27日現在、
 Pixivコミックで1話が試し読み可能ですし、
 ソクヨミだと3話の冒頭まで試し読み可能みたいです。

 興味を持ってもらえたなら、試し読みからでも是非どうぞ!

| 漫画紹介 | 17:52 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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殺人、ドラッグ、オカルト……なのに爽やか群像劇!『ヴォイニッチホテル』全3巻紹介

【三つのオススメポイント】
・南国のホテルを舞台に、様々な登場人物が躍動する群像劇
・本当ならグロイはずなのに、コミカルな作風ゆえに、爽やかさまで感じられる
・風刺と、パロディと、テンポの良さが光るテキスト


[紙の本]
ヴォイニッチホテル 1 (ヤングチャンピオン烈コミックス) ヴォイニッチホテル 2 (ヤングチャンピオン烈コミックス) ヴォイニッチホテル 3 (ヤングチャンピオン烈コミックス)

[キンドル本]
ヴォイニッチホテル(1) (ヤングチャンピオン烈コミックス) ヴォイニッチホテル(2) (ヤングチャンピオン烈コミックス) ヴォイニッチホテル(3) (ヤングチャンピオン烈コミックス)

【苦手な人もいそうなNG項目の有無】
この記事に書いたNG項目の有無を、実験的にリスト化しました。ネタバレ防止のため、それぞれ気になるところを読みたい人だけ反転させて読んでください。
※ 記号は「◎」が一番強くて、「○」「△」と続いて、「×」が「その要素はない」です。

・シリアス展開:○(それほど重くはないけれど、人が死ぬ話なのでそれなりには)
・寝取られ:×
・極端な男性蔑視・女性蔑視:×
・動物が死ぬ:×
・人体欠損などのグロ描写:◎(絵柄上そんなにはグロくないけど)
・人が食われるグロ描写:×
・グロ表現としての虫:×
・百合要素:×
・BL要素:×
・ラッキースケベ:×
・セックスシーン:×


◇ 南国のホテルを舞台に、様々な登場人物が躍動する群像劇
 この作品は、2006年から2015年までヤングチャンピオン烈(隔月誌→後に月刊化)にて連載された道満晴明さんの漫画です。ヤングチャンピオン烈は「ヤング○○」という青年誌の中でも過激寄りの雑誌で、グラビアにはAV女優のヌードが掲載されたりもする雑誌です。
 自分は成年向け漫画はあまり詳しくなくて知らなかったのですが(ホントですよ!?)、道満さんは元々成年向け漫画でも活動している漫画家さんで、そうした漫画家にも積極的に作品を描いてもらおうというヤングチャンピオン烈の方針に合致したということみたいですね。

 でも、一応言っておきますけど『ヴォイニッチホテル』はエロくはないです。
 殺人も麻薬も幽霊も出てくる作品なので、下ネタというか性の話も出てくるくらいで。過激さは、「エロイ」というよりかは「何でもあり」という方向性での過激さです。



 舞台は太平洋南西に浮かぶブレフスキュ島、そこに建つ「ヴォイニッチホテル」を中心に描かれます。
 一応の主人公格として、ヴォイニッチホテルの従業員であるエレナベルナという二人のメイド、日本からやってきてこのホテルに長期宿泊しているクズキ・タイゾウという男の三人がいるのですが……

 その他にも、同じように長期宿泊している日本人の漫画家、日本人の殺し屋、麻薬の密売人、連続殺人犯、それを追う警察、少年探偵団、ホテルのコック、ホテルのオーナー、幽霊、悪魔……これでもかというほど多種多様なキャラクターが登場し、回によって描かれるキャラは入れ替わります。ということで、この作品は!私の大好きな「群像劇」なのですよ!!

 どのキャラも大好きなのだけど、強いて好きなキャラを挙げるならやっぱりアレかなぁ。ロボット刑事かなぁ。アイツが出てくるシーンは全部面白い、ズルイ。



 この漫画を機に、私が「群像劇」を好きな理由を改めて考えてみたのだけど……
 一つには、「一つの出来事を(読者だけは)色んな“視点”から見ることが出来る」というのがあるのかなと思います。
 “視点”となるキャラクターが回によって入れ替わるので、例えば殺し屋が“視点”になる回もあれば、その標的が“視点”になる回もあります。どちらの立場にも読者としては感情移入が出来てしまうし、標的に対して「殺し屋が迫ってるよ!早く気付け!」とドキドキしてるのに、殺し屋に対しては「早くしないと標的に逃げられるよ!急げ!」とワクワクできて、一粒で二度美味しいという。こういうことが全3巻ずっと続くんですね。


 二つ目には、「“視点”となるキャラクターがたくさん出てくるために、話がどう転がっていくのかが全く予想できない」という魅力も群像劇にはあります。
 例えば先ほどの殺し屋の例で言えば、「殺し屋の“視点”でしか進まない話」だったら殺しが成功するか失敗するかなんだろうなという予想が出来てしまいます。しかし、「殺し屋」「標的」「標的のことが好きな人」「標的のことが好きな人を好きな人」といったカンジに“視点”となるキャラクターが増えると、これらのキャラクターがどう作用するのか予想できなくなります。だから、「この後どうなっちゃうんだろう」にドキドキワクワク出来るんですね。


 私は単行本である程度一気に読むことが出来ましたが(最終巻が出るまではしばらく待ちましたが)、これを隔月誌の時から毎号読んでいた人は「早く!早く続きを読ませてくれよ!」とやきもきしていただろうなと思います。そのくらい、後を引いてしまうのが群像劇の魅力なのです。


◇ 本当ならグロイはずなのに、コミカルな作風ゆえに、爽やかさまで感じられる
 先ほど、例え話として「殺し屋」の話を書きましたが……実際にこの漫画には「殺し屋」が出てきます。なので、殺人のシーンもあれば、血みどろになるシーンもあります。
 殺人も十分に犯罪ですが、同じように犯罪描写として「麻薬の販売・購入・使用」なんかの描写も出てきます。舞台が架空の島なだけであって、やりたい放題です。麻薬が切れて禁断症状が起こってしまう描写もあります。
 精神的に病んでいる人間や、自殺しようとする描写もあります。
 もっと言うと、幽霊だったり、ゾンビ(のようなもの)だったりも登場します。


 これ……同じ題材でも、描く人によってはものすごくグロイものになっていたかもなぁって思います。ゲームだったらCEROは高めの年齢推奨にしていたかも知れませんし、ひょっとしたら18歳未満は禁止になっていたかも知れません。血がわんさか出てきますからね。


 ですが、可愛らしい絵柄に、一歩引いたところから描いているような無機質な演出、“不条理”とも言える世界観ゆえにグロさは全然感じないんですね。むしろ、コミカルに見えるし、読んでいる間は爽やかな気分になれます。
 だってさ、島中を震撼させる謎の連続殺人犯の犯行現場にやってきて捜査を開始する警察サイドのキャラがロボット刑事ですからね!世界観どうなってんだよ!と言いたくなります(笑)。


 題材的に、重い話にしようとすれば好きなだけ重く出来た題材だと思うんですよ。
 スペイン軍の侵攻と、植民地時代の話、日系企業が進出しつつも内戦が起こったことでとっとと撤退してしまったことによる反日感情、放置されて荒廃している街並み……「殺人」や「麻薬」が描かれているのならそういう罪の意識の話とか、ロボット刑事がいるのなら「人間とは何か」みたいな切り口にしたっておかしくないと思います。

 でも、この漫画はそういうことはしません。
 作者の信念とか、作者の思想みたいなことを持ち込んだりはしないのです。喋るのはあくまでキャラクターで、行動するのはあくまでキャラクターなんです。極端な話、この作品の中では「殺人は良くない」とすら言いません。ただ、殺す人の人生と、殺された人の人生が描かれるだけ。このフラットさがなければ、もっと重く押し付けがましい話になっていたかも知れません。



 これだけ血がわんさか出てくる話なのに、可愛らしい絵柄の白黒の漫画ゆえにグロさを感じさせず、むしろ爽やかに思えてしまいます。命に対しては冷淡に殺す人も殺される人もたくさん出てくるのに、「人間って捨てたもんじゃないよなぁ」と思えてしまう暖かみもある―――これは作者の作風の力であって、他の人には出来ない芸当だと思います。



◇ 風刺と、パロディと、テンポの良さが光るテキスト
 この漫画、1話1話はとても短いんですね。
 1話6ページとか、8ページとか。終盤はちょっと長くなりますが、それでも12ページとか。

 それが大きく繋がって全体的には破綻なく話が進んでまとまるのも凄いんですけど、それぞれの話は“視点”となるキャラが変わって6ページとか8ページとかで一応の区切りが付くことが多いです。この短いページ数の中で話をまとめるのはよほどの技術がないと難しいと思うのですが、そこはやはり「短編の名手」と呼ばれた道満晴明さん。短いページ数でも1話・1話が面白いんです。


 1ページの中に、ゴチャゴチャさせずにコマ数を多く押しこめる技術とか。
 そのコマの中に必要なキャラを必要なポーズで描ける技術とか……そういうところももちろん目を見張るのですが、“1話・1話が面白い”最大の理由としては「台詞の面白さ」が大きいかなぁと思います。 


 「何でもあり」な世界観ゆえに、風刺も、パロディも、下ネタも「何でもあり」で―――それらがテンポ良く、それでいてクドくなく使われていて、数ページに1度はクスリと笑わされるからこそ1話・1話が面白いんですね。



 しかし、それを「紹介記事」で説明するのは難しいのです!
 流れを無視してその部分だけ切り取ってテキストで紹介したってその面白さは伝わらないし、ネタバレになってしまいます。だから、「面白い」以上に説明のしようもないのですが……方向性だけ言っておくと、個人的にはやっぱりロボット刑事のロボットネタと、少年探偵団のやり取りが好きだったかなぁ。


 あと、テキスト関係ない話だけど、女のコの漫画的な動きの可愛さなんかも特筆すべきところ。アリスの愛くるしさと言ったら!姉妹の話もすごく良かったなー。


◇ 総評
 全3巻と一気に読むにも負担のかからない長さで、それでいてたくさんのキャラクターのそれぞれの生き様が見られる傑作だと思います。群像劇好きならば、是非是非!

 殺人・麻薬・性の話と苦手な人は苦手かも知れない題材も取り込んでいる「何でもあり」な作品なので、そこに抵抗感がある人もいるかも知れませんが……ですが、私はこの作品を「ブラックな漫画」だとは思わないんですね。人間の欲をコミカルに、スリリングに描いて、多くの人が楽しめるエンターテイメントにしてしまっている、とてつもないバランス感覚の作品だと思います。
 「何だこの世界観は」という出だしだけど、不条理さとか意味不明さとかは皆無で、最後まで読んだ後に1巻から読み直しても「やっぱり良く出来ているなー」と感心する見事な構成になっています。

 大好きな作品です。オススメ!


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どのゲームハードも愛おしくなる!『P.S.すりーさん』1~4巻紹介

【三つのオススメポイント】
・激動だった2006年~2012年のゲーム業界を切り取った作品
・擬人化したからこそ、彼女達の健気さに心を打たれる
・変なキャラ達と、4コマ漫画としての上手さ


<紙の本>
P.S.すりーさん (GAME SIDE BOOKS) P.S.すりーさん・に (GAME SIDE BOOKS) (ゲームサイドブックス) P.S.すりーさん・さん (ゲームサイドブックス) (GAMESIDE BOOKS) P.S.すりーさん・よん (GAME SIDE BOOKS) (GAMESIDE BOOKS)

<キンドル本>
P.S.すりーさん P.S.すりーさん・に P.S.すりーさん・さん P.S.すりーさん・よん

○ 激動だった2006年~2012年のゲーム業界を切り取った作品
 この漫画紹介は基本的に「完結した作品」を紹介してきた記事で、『P.S.すりーさん』に関しては明確に4巻が最終巻だとはされていないみたいなのですが(カラーページに「END」という文字は書かれている)……2012年の4巻発売以後は音沙汰がなく、企画されていた続編も頓挫されてしまっているみたいです。

 事情はよく分からないのですが、とりあえず4巻までで「PS3発売の2006年」~「Wii U登場の2012年」を網羅したとも言えて、個人的にはこれが良い一区切りだと思ったので紹介することにしました。もちろん続きや続編が描かれたのなら追いかける気は満々ですけど。


 この漫画は、元々『IKaのマホ釣りNo.1』さんというブログで描かれた4コマ漫画に、大量の描き下ろしや、雑誌その他で連載されたスピンオフ作品などをまとめた本です。ブログに掲載されている「本編」は今でも無料で読めますんで、こちらのセットからどうぞ。

 内容は、「PS3」や「Wii」と言ったゲームハードをアイドルに擬人化して、彼女らの奮闘を描く4コマ漫画です。一応公式には「登場人物に特定のモデルはいない」ということになっているみたいですが、紹介記事を書く立場からすると「ゲームハードの擬人化だよ」と言わないとオススメのしようもないので(笑)。

 記念すべき1本目が公開されたのは、2006年の11月。
 PS3が発売された月ですね。

 現在のところ公開されている最後の1本は、2012年の7月です。
 Wii Uがこれから発売されるという時期で、「うぃーゆーさん」と「ぱっどさん」の二人が登場する話です。


 つまり、ちょうどPS3やWiiが発売された「2006年末」から、その次の世代機であるWii Uが登場する「2012年」までに描かれていた作品ということで―――PS3やWiiやXbox360が活躍したこの激動の6年間を切り取った漫画になっているんですね。
 ブログという媒体の特性上「(ゲーム業界にとっての)時事ネタ」が多くて、「時事ネタってリアルタイムで読む分には面白いけど数年経ったら微妙じゃない?」と思う人もいるかも知れませんが、私は逆に「この漫画を読むと激動だった6年間を思い出すことが出来て面白い」と思うんですね。

 今回、私は家にあった紙の本を自炊して1巻から読み返したんですけど……1巻のネタなんかは本当に懐かしいですよ。「ヘブン状態」とかね。当時を知っている人ならば「あったなー、そういうの」と思い出してニヤリと出来るネタが満載です。

 また、リアルタイムに描かれたからこそ、「作者の思わぬ方向に進んでしまった面白さ」を切り取れたとも言えて―――
 例えば、2007年2月に描かれた40本目は、すりーさんが『ガンダム無双』を歌わされるという話です。2007年3月1日にPS3専用ソフト『ガンダム無双』が発売されるというのが元ネタなのですが……

 2007年5月に描かれた53本目は、はこまるさんが『ガンダム無双』を歌っている様をすりーさんが眺めるという話になっています。これは『ガンダム無双』が海外ではXbox360版も発売されることが発表されて(実際に発売されたのは2007年8月、12月には日本でも『インターナショナル』がXbox360で発売されました)が元ネタです。
 今では信じられない話ですけど、当時のPS3はソフトが少なく、『ガンダム無双』はその中でも「PS3でしか遊べないゲーム」として非常に貴重な存在でした。そんなソフトのXbox360版が発表された時の気持ちがあのすりーさんの表情に表れているのです。

 で、オチが付くのは2008年1月に描かれた74本目。その『ガンダム無双』を、まさかのお姉ちゃんであるつーさんも歌わされるという話です。これはその『ガンダム無双』が『ガンダム無双 Special』として2008年2月にPS2専用ソフトとして発売されたことが元ネタです。
 当時のあの「お、おぅ……」という感情はなかなか文章にはしづらいのですが、「時事ネタを扱う4コマ漫画」という形で一気に読むと当時の感情を追体験できるのです。


 これはほんの一例です。
 この他にもこうした「当時を思い出させられる話」がたくさん詰まっていて、単行本には元ネタが分からない人用に詳しく解説が書かれていて、これを読むのも面白いです。Wikipediaを読むだけでは分からない当時の空気感がここにあるので、これはもうゲーム業界にとって貴重な資料と言ってイイと思います!

 惜しい点があるとすると……
 このブログでの4コマ漫画が人気になって、単行本を出すことになって、その続刊がどんどん出るようになって、描き下ろしやらその他媒体での連載やらの作業に作者が追われるようになってしまって、「本編」とも言えるブログに描かれた4コマは少なくなってしまうんですね。
 もちろん「描き下ろし」や「その他の連載」も面白いんですが、ブログに4コマ漫画をガンガン投稿されていた頃に比べて「リアルタイム感」というか「時事ネタのタイムリーさ」がなくなってしまっていったのは残念です。

 人気になることが、作品にとって必ずしも幸せなことではない―――と思い知らされた一件でした。


○ 擬人化したからこそ、彼女達の健気さに心を打たれる
 「どのゲームハードを買うのか」に悩んだり、「自分の買ったゲームハードを信奉する」あまりに他のハードを憎んだりということは、最近に限った話ではありません。スーパーファミコンに対するメガドライブやPCエンジンだって、プレイステーションに対するNINTENDO64やセガサターンだって、それぞれのハードの所持者には複雑な想いがあったものです。
 「ドラクエがセガサターンで出るって話だったからサターンを買ったのに、プレステで出るだなんてエニックスは絶対に許さん!」って言っていた友達がいたっけかなぁ……


 しかし、Xbox360・PS3・Wiiの世代は、そうした各ハード所持者の感情がインターネット上に蓄積されるようになったこともあるし、それぞれ違った特徴を持ったハードだったために「完全勝者」のいない世代だったし、それ故に「こっちのハード独占と発表されていたのに後からマルチ化が発表」とか「こっちのハード独占で発売された1年後に別のハードで完全版が発売」みたいなことが頻出して憎しみも膨れ上がり、ネット上で「ゲームハードの話をする」のは「政治思想を語る」ことくらいの炎上案件になってしまいました。


 『P.S.すりーさん』という漫画は、こうしたゲームハードを単に擬人化しただけでなく、「アイドル」として描いているのがポイントだと思うのです。
 熱烈なファンに支えられていること、売れるアイドルと売れないアイドルに明暗が分かれること、アイドル自身は仕事を選べないこと、“偉い人”の判断でいつかは引退しなければならないこと、その短いアイドル生命を必死に生きていること―――「ゲームハード」と「アイドル」は非常に似た存在で、それが絶妙に風刺になっているところもあれば、でもこの作品で描かれているのは「どのアイドルだって一生懸命でファンに愛されているように、どのゲームハードだって愛すべき存在なんだ」ということだと思うのです。

 作品には現役世代だけでなく過去のハードのキャラも多数登場するのですが、それらのキャラは「かつてのアイドル」として登場します。彼女らも、かつてはすりーさんやうぃーさんやはこまるさんのように現役バリバリのアイドルだった。そうした姿を見せることで、作品に奥行きが生まれているのです。
 自分にとって印象的なキャラは、やはりどりきゃすさんかなぁ。苦しい時期のすりーさんが、小さなライブハウスで頑張っているどりきゃすさんのライブを観に行く回が好きです。これは、セガがハード事業を撤退した後もドリームキャストは長く愛され、2007年まで新作ソフトが発売されたことが元ネタなんですが……こうした姿を見ると、どんなゲームハードだって必死に生きているし、そのハードによって救われているファンがいるのだと思えます。


 だから、私はこの『P.S.すりーさん』という漫画をゲームハードの論争に利用しようとする人達を好きになれませんし、この作品が「どのゲームハードが勝ったか」みたいな話をしなかったことを批判する人達を好きになれません。
 この作品が描いてきたことは、「カレーせんべい」が1枚あればすりーさんはそれを支えに頑張れたということじゃないですか。普及台数がどうのとか勝者がどうのみたいな話で締めくくったら、それこそこの漫画が大切に描いてきたものが全部台無しになってしまいますよ。


○ 変なキャラ達と、4コマ漫画としての上手さ
 とは言え、単に「業界を切り取った」だけの「擬人化したキャラの漫画」だったなら、そんなにオススメ出来る漫画ではなかったと思います。この作品の魅力は、たくさんあるゲームハードを個性的なキャラに仕立ててしまったことと、不条理系とも言える4コマ漫画の上手さゆえにだと思います。つまり、ゲーム業界ネタどうこうだけじゃなくて、普通に4コマ漫画として面白いんです。


 自分の好きなキャラは、やはりつーさん。
 すりーさんのお姉ちゃんで、全世界で普及したPS2がモデルのキャラです。

 トップアイドルでありながら妹想いのお姉ちゃんと、そんな姉を持つが故の重責を背負ってしまっている妹の、姉妹愛の物語として自分はこの漫画が好きなんです。4巻を最終巻と考えるのなら、この漫画の主人公はつーさんだったのかなぁと思わなくもないです。


 あと、他のキャラだと作者のお気に入りであろうせがさんのワケの分からなさも良いです。この漫画は4コマ漫画としては「1コマ余った」みたいなネタをぶちこんでくるので“不条理系”とも呼ばれているのですが、それを何となく許してしまうのはセガさんというかセガの人徳だよなぁと思ったり。
 すりーさんやうぃーさん等のゲームハードはアイドルとして登場しますが、せがさんやこーえーさんなどのゲームメーカーはプロデューサーとして登場します。アイドルに曲を提供する立場ってことですね。せがさんは常にワケの分からないようなことを言っているバカキャラのようでいて、長く業界にいて色んなアイドルをプロデュースしてきて、その無念な姿を見てきたという背景があるから深みがあるんですよね。

 先ほどは“不条理系”と書きましたけど、スタンダードな4コマ漫画から、幾つかの話が繋がっている4コマ漫画や、切ない話・泣ける話もあるし。4コマ漫画として非常にバリエーション豊かで、技術があるなぁって思います。



○ 総評
 ゲームハードを元ネタにした漫画ですが、「ゲームハード論争とかもう見たくない……」という人にこそ手に取ってもらいたい優しい漫画です。決して「どのハードが優れているか」とか「どのハードが勝ったのか」みたいな作品ではなく、「どのハードだってみんな頑張っているんだ」と描いている作品なんです。

 ゲームの話題が殺伐としてしまったあの時期に、こうした作品があったことは奇跡だと思っていますし、自分も随分と救われました。コメント欄が目も当てられない状況になった時も、この漫画に出てくるキャラクター達を思い浮かべて「ゲームハードに罪はないんだ」と自分に言い聞かせていたほどです。


 「ゲーム業界とか全然興味ないや」という人が読んで楽しめるかというと、流石にそれはちょっとと思いますが……ゲームが大好き&どのゲームハードも応援しているって人は「2006年~2012年のゲーム業界を切り取った作品」として保管しておいて、10年後・20年後に読み返してみるのも面白い作品だと思います。

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生活感のある百合に悶える。『星川銀座四丁目』全3巻紹介

【三つのオススメポイント】
・これぞ文句なしの「禁断の愛」
・一緒にゴハンを食べて、お風呂に入って、寝る―――同棲だから描けるもの
・金髪・碧眼のスーパー美少女・乙女ちゃんが心底かわいい


<紙の本>
星川銀座四丁目 (1) (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ) 星川銀座四丁目 (2) (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ) 星川銀座四丁目 (3) (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ)

<キンドル本>
星川銀座四丁目 1巻 まんがタイムKRコミックス 星川銀座四丁目 2巻 まんがタイムKRコミックス 星川銀座四丁目 3巻 まんがタイムKRコミックス

○ これぞ文句なしの「禁断の愛」
 百合漫画です。
 この漫画は、芳文社の百合を題材にしたアンソロジー集「つぼみ」にて2009年~2012年に連載されていた作品です。作者は『少女セクト』で知られる玄鉄絢さん。『星川銀座四丁目』自体は“成人向け”ではありませんが、成人向けで活動していた漫画家さんなので、『星川銀座四丁目』にも多少の性的な描写はあります。


 さて……この作品を語る前に、「百合」について語っておきます。
 「恋愛」を題材にストーリーを作っていくとしたら……どういうカップルを描くのであっても、「何かを乗り越える」要素が必要というのが私の持論です。言い換えると、「乗り越えられないもの」を作者が用意して、キャラクター達が「それを乗り越える」からこそストーリーが成り立つと私は思うのです。

 例えば……片想いの女のコに告白をして、付き合う。
 これも立派に「片想いを乗り越える」ストーリーとして成り立ちますし。

 彼氏の元カノが現れて、恋人関係が気まずくなる。
 これも「三角関係を乗り越える」ストーリーになりますし。

 お互い結婚しているのに、好きになってしまった不倫カップル。
 これも「イケナイ関係を乗り越える」ストーリーになるのです。


 もちろんこの「乗り越えられない障壁」が高ければ高いほどストーリーは盛り上がりますし、それを乗り越えた後に結ばれた主人公達のカタルシスは大きくなります。これ、実はバトル漫画における「敵が強ければ強いほど盛り上がる」のと構造的には一緒なんじゃないのかと私は思っているのですが。

 それはさておき、「百合」です。
 「百合」というのは「女性同士の恋愛」を題材に描く作品のことです。これも「恋愛」を題材にした作品なので、「同性愛を乗り越える」ストーリーになると言えます。それ故に、しばしば“禁断の愛”という決まり文句のようなキャッチフレーズが使われます
 「相手は同性の友達としか思っていないのに、好きになってしまった……」という片想いだったり、「女のコ同士で付き合っているってバレたらどうしよう……」というカップルだったり……“本当は女性同士で恋愛はしてはいけない”という社会のルールが「乗り越えられないもの」として立ちふさがってストーリーになるので、“禁断の愛”という表現がされるのだと思います。


 「それはイヤだ」と言う人の気持ちも分かります。
 もちろん“禁断の愛”という表現をしたからといって、本当に女性同士の恋愛が禁じられているワケではなく、「それを乗り越えて恋愛をする主人公達」を描くのだから―――ヒーローもののキャッチフレーズが「地球滅亡の危機!」なのに、実際には地球を救って滅亡しないみたいな話だとは思うのですが……

 そもそも、“本当は女性同士で恋愛はしてはいけない”というルール自体に違和感があるって人も多いと思うんですよね。実際の同性愛者の人や、友人・知人にそういう人がいるって人だけじゃなくて……
 例えば、私は「女のコ同士でイチャイチャするアニメ」をしょっちゅう観ているので、「女のコ同士はイチャイチャするのが当たり前だ」という脳内ルールが出来上がっていて……イザ百合漫画を読んでみて「相手は同性の友達としか思っていないのに、好きになってしまった……」というシーンがあっても、「別にイイんじゃないの?」としか思えないんです(笑)。


 これ、考えてみると皮肉なもので……
 同性愛を許容する世の中になればなるほど、「同性愛」を題材にした恋愛のストーリーは作りにくくなるんですよね。それだけでは「乗り越えられないもの」にならなくなってしまうので、別の「乗り越えられないもの」を用意する必要が出てくるのです。


 ということで、『星川銀座四丁目』です。
 この漫画は百合を題材にしたアンソロジー集に連載されていたくらいなので、「女性」と「女性」の恋愛を描いているのは当然なのですが……この漫画の主人公二人は、実は「大人」と「子ども」です。
 へー、年の差の百合カップルかーと思ったら、それだけじゃなくて「小学校の先生」と「小学校の生徒」です。ほー、それはかなりの“禁断の愛”だなーと思うのは早くて……この「小学校の生徒」は家庭に問題があったために「小学校の先生」が里親制度で引き取ろうとしているので、「親」と「子」でもあるんです。

 つまり……この漫画の主人公二人は、

・「女性」と「女性」
・「大人」と「子ども」
・「先生」と「生徒」
・「親」と「子」


 “禁断の愛”の4乗なのです!!
 「親」と「子」だから二人は一緒に暮らしているけど、恋愛感情が芽生えてしまっていて、でも手を出してしまえば終わってしまう関係なのです。女のコ同士の恋愛を見慣れてしまって、「女のコ同士で付き合っても別にイイんじゃないの?」と思ってしまう私でも、「これはマズイな!」と思うドキドキ感がたまらないのです。



○ 一緒にゴハンを食べて、お風呂に入って、寝る―――同棲だから描けるもの
 「親」と「子」が主人公なので、二人は一緒に暮らしています。
 「親」「子」だけど、百合目線で考えれば同棲百合カップルです。

 だから、物語の舞台の多くは「家の中」になり、そこでの生活を描いていくことになります。どうして「小学校の生徒」を引き取って育てようとしているかにも“FOOD理論”的な理由があるのですが、この漫画自体が生活を描いていくことをものすごく重視していると言えます。

 ゴハンを食べる。そのために、ゴハンを作る。
 そのために、商店街で買い物をする。
 お風呂に入る。
 寝る。

 誰だってする「当たり前のこと」も、好きな人と一緒にするからトキメキが生まれる―――というのを大切に描いているんですね。
 いや、なんかすごくキレイな話のように紹介していますけど……小学生と一緒にお風呂に入って、小学生の裸にドキドキしてしまう若い女教師なんて、ニヤニヤせずには見られないじゃないですか!
 「普通の親子はこうするんだよ」という口実を作って、帰ってくる度にハグをするところもすごい好き。


 こんなに好きで、こんなに近くにいるのに、絶対に手を出してはいけない―――衣食住をしっかり描いて、この二人の日々の生活を読者に感じさせることが出来ているからこそ、このドキドキ感が伝わるんだと思いますし。
 これはこの作品が「同棲カップル」を描いているからこその魅力だと思います。


○ 金髪・碧眼のスーパー美少女・乙女ちゃんが心底かわいい
 心底かわいい。
 小学生と言ったらそれだけでかわいいものかも知れないけど、この漫画の主人公の一人:乙女ちゃんはそんな次元じゃなくかわいい。小さくて、細くて、サラサラの金髪に、豊かな表情、芯の強さに、一途な想い―――と、何ともまぁ、かわいさの塊のようなコ。

 きっと先生の趣味なんだけど、着ている服もいちいちかわいいし、髪型のアレンジもかわいい。かわいいかわいい書きすぎて「か」「わ」「い」「い」という文字の組み合わせがゲシュタルト崩壊を起こしそうなほどかわいいです。


 しかし、この漫画……
 「つぼみ」発売のタイミングと、作中の時間を合わせて描いているので……スタート時が小学5~6年生だった乙女ちゃんも、どんどん成長していきます。「小学生のままでイイのに!」「ずっとこの愛らしい乙女ちゃんを見ていたかったのに!」という気持ちも正直あるのですが……

 でも、子どもって油断するとどんどん大きくなるし、これってよくよく考えてみると「早く乙女に大人になって欲しい」という先生の気持ちを表しているようにも思うんですね。大人になれば堂々と付き合えるのに、なかなかそうならない―――そのもどかしさを描くために、「成長する子ども」をしっかり描こうとしているのかも知れません。


 また、かわいいかわいい子どもだった乙女ちゃんが、少しずつ「女」になっていくのもドキッとするんですよ。身も蓋もない表現をすると「エロイ」。周りからもそういう目で見られるし、乙女ちゃん自身にも性欲が出てくるようになって……枕のシーンは破壊力抜群でした。


○ まとめ
 ということで、お気に入りの百合漫画です。
 電子書籍を利用するようになってから、「置き場所に困らない!」と百合漫画をよく読むようになったのですが……その中でもトップクラスに好きな作品でした。

 そんなに急スピードで成長しないで欲しいという気持ちも正直あったのですが、それを惜しいと思うくらい自分の中に「この二人」への愛着が大きくなっていたんだなぁと思います。それくらいお気に入りの作品です。


 「百合」というだけでイヤな人はいるだろうし、“禁断の愛”の4乗なので眉をひそめる人もいるかもだけど……テンポもイイし、爽やかな読後感があるし、割とライトな百合初心者にもオススメできる一作じゃないかなーと思います。多分。乙女ちゃんかわいいし(ゲシュタルト崩壊)。

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| 漫画紹介 | 17:56 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

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