「もしかしたら童貞を失ったら短歌の才能も消えてしまうかもしれないじゃないか!!」
大 爆 笑
初めに書いておきますけど、僕は重度の小手川漫画ファンです。 『死刑囚042』には涙腺ブチ壊れるまで泣いたし、僕にとっての理想のヒーロー像は『おっとり捜査』の秋葉だし、『アルカナ』のラストは僕の漫画読みとしての歴史の1ページに残るほどの衝撃でした。もちろんコミックスは全て持っているし、もう1セット買って友達にプレゼントして普及活動をするほど小手川漫画が大好きなのです。
そんな僕からすると……『死刑囚042』が完結した際に、凄く良いものを読んだという満足感とともに、小手川先生はもう漫画を描かないんじゃないかという悪い予感がしていました。それくらい『死刑囚042』という漫画は、彼女にとっての集大成のような作品だったのです。 描いているのが猟奇殺人であれ自殺であれ心霊現象であれ、そこで語られていたのは“今、隣にいる人が道を踏み外さないように、その人を大切にしよう”というシンプルな教訓でした。だから、彼女が描くキャラはいつもお節介で、他人に対して必要以上に優しい人ばかりだったのでしょう。
そうして彼女が描いてきたものの集大成で最高傑作とも言える『死刑囚042』が完結した直後、小手川先生は公式サイトで「漫画家になったら描きたかったことは全て描いてしまいました。これから漫画家としてどう生きていけば良いのでしょう」と語り―――そして、それから3年近く彼女の漫画家としての活動は聞かれませんでした。
3年近い時間が過ぎ、僕も漫画雑誌を追いかけられなくなり、ニュースサイト経由でこの『ショートソング』の発売を知った時は喜び。それでいて、小説を原作にした漫画と聞いて「やっぱりか……」と思ってしまいました。
描きたいことを全て描いてしまった彼女が、それでも漫画家として生きていくためには原作付きの漫画というのは一つの選択肢だよな……と。最高傑作を描いてしまった後は、漫画家は得てしてこういう道を辿るのだと思ってしまいました。
そして、手に取った『ショートソング』を読み始め―――愚かだった自分を知ったのです。 何だコレは。良い意味で、これまでの小手川漫画の枠を飛び越えた作品となっていました。
まず主人公が男二人のライバルという設定。 (この境遇は偶然だろうけど)短歌人としては自らに限界を感じ始めた“かつての天才”伊賀寛介。誰もが憧れるほどのルックスと秘めた才能を持ちながら、自分に自信を持てない国友克夫。 二人の男主人公が、互いの才能に惹かれつつ嫉妬心を交差させながら苦悩する青春ストーリーで……女性キャラはその二人の男主人公を悩ませて成長させるための存在だという設定そのものが、これまでの小手川漫画とは大きく違います。
もちろん秋葉と橘とか、田嶋と椎名とか、実質“男二人主人公”のようなところがかつての小手川漫画にもあったんですが……基本的には存在感のあるヒロインがいてー主人公の男がいてーという作品がほとんどでした。(ちなみに原作小説の表紙が伊賀と国友という男二人なのに対して、小手川先生の漫画版の表紙は舞子先輩というのが“らしい”ですね)。
その主人公の一人・国友のキャラも、今までの小手川漫画にいなかったタイプ。 ウダウダウジウジ悩んで、劣等感のかたまりで、だからこそ目の前の幸せや哀しみに一喜一憂できる……これまで彼女が描いてきた“(表面的には)余裕のある男”像からはかなり離れたキャラで、等身大の存在となっています。そもそもがヒロインより年下の男主人公がこれまではいませんでしたからね。
設定も、そうしたキャラの心理描写も、原作小説さまさまで―――小手川漫画が描いてこなかった部分を補い。それでも、キャラの可愛さ、見事な緩急、デフォルメ描写の上手さ、演出、見開きの使い方、あと下着の趣味の悪さ(笑)。どれもがちゃんと、大好きだった小手川漫画の世界で。
“進化”というよりは“新化”。 新しい境地を切り拓いたぞ――!!とファンとしては声高に叫びたい心境です。
あまりに上手く、あまりに見事な演出に、原作が小説だということを忘れるほどの完成度で。それでもやはり原作が優れているからなのでしょう、心理描写の交錯が面白く、時折出てくる短歌がズドンと心を撃ち抜いてくるのです。 僕は原作読んじゃうとメディアミックス作品が楽しめなくなる人間なので、漫画が完結するまでは小説は読まないつもりですが……この原作は読んでみたい衝動を抑えるのが大変です。
まだ1巻だから結論付けるのは時期尚早なのだけど……ひょっとしたら、僕の漫画読み人生において“掛け替えのない作品”になるのかも。それくらい1巻は面白かったし、1巻からこんなに面白くて大丈夫なのか不安になったほどです(笑)。
漫画ってエンターテイメントは、こんなことも出来るんだぞっていう作品でした。
「短歌」を題材にした漫画というと敷居は高く感じるかも知れませんが、19歳と25歳の男二人の青春ストーリーとして万人にオススメしたい傑作です。ちょいとエチィところもあるけど、それがまた青春というカンジがするじゃないか。こんなに面白い漫画があるから、漫画読みはやめられないんだろうなぁ。
↑ こちらもオススメ ……と、ここまでマジメに書いてきたので、最後に台無しにしたいと思います。
“処女信仰”という視点で言えば、小手川作品はかなり興味深い位置にある作品でした。死体やら血やら幽霊やら“生と死”の境界線を描く中で、そうした「人の陰惨な部分」と「純粋で穢れのない少女」を対比して描いてきたからです(別に処女かどうかは言及されなかったけど)。
しかし、この『ショートソング』は冒頭にチラッと書いたように“国友くんの童貞を守る話”だし、そこには一種の“童貞信仰”のようなものまで感じます。もちろん原作に沿っての話なんでしょうが、小手川先生が“童貞信仰”を描くとは興味深いなぁ……と。 ひょっとしたらこれから先、“童貞信仰”が流行るかも知れませんね。ショタから女装少年なんかが派生したように、既に“童貞信仰”が広がる下地は出来ているとも言えます。今後は童貞がモテはやされる時代、童貞こそが輝く時代が来るのだとしたら……ヨシキタ!!
[記事URL]
テーマ:漫画の感想 - ジャンル:アニメ・コミック
|