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| 『Wii Fit』の逆襲 |
ここのところ、母親が毎日『Wii Fit』をプレイしています。
我が家には発売日の12月1日に届いていたのですが、そもそもが“毎日努力を継続すること”が苦手なウチの家族な上に、母は『脳トレ』を5ヶ月間続けた後に飽きて辞めているので「トレーニングさせられるゲームはもうイヤだ」という認識があったみたいで。 毎日ヨガと筋トレをコツコツ続けていた僕を鼻で笑っていました……そうした嘲笑がキツかった僕としては、『Wii Fit』は家族がいない時間を見計らってコソコソとプレイするようになり、その時間の捻出が難しくなった年末くらいから「からだ測定」しかしなくなっていました。
○ 『もっとえいご漬け』不調から見えたトレーニングゲームの弱点 実を言うと……こうした現象は1年近く前、DSの『もっとえいご漬け』が不調だった頃にも論じらていました。 いわゆる『脳トレ』系のトレーニングソフトはエンディングもクリア目標もないために、いつかは「飽きて辞める」ことになります。エンディングまで到達して「やりきって終わる」RPGなどのゲームに比べて、最後の瞬間の満足度が低く―――「次の1本」を買おうというやる気に繋がらず、“Touch!Generations”ブームは終焉を迎えたのではないか……
というのが、去年の4月頃の議論でした。 (参考:去年の4月8日に書いた「ゲームの「終わり」と「飽き」」) その後、確か5月末頃にDSで英語勉強ブームが巻き起こり、『もっとえいご漬け』もコツコツと売上げを伸ばし(『マルガの湖畔』さんによると、55万本売ったらしい!)、6月には『眼力トレーニング』がランキング上位を席巻しました。
8月の『顔トレ』は見事にコケましたが(てゆうか、この失敗ももうちょっと論じるべきだったようにも思える…)、12月の『Wii Fit』は超絶ロケットダッシュで既にミリオン当確。トレーニングゲームブームも、“Touch!Generations”ブームも全然終わっていないことを証明してくれました。まぁ……確かにDSで出来るトレーニングゲームは、もうネタギレという感はありますけどね。
そういや……どっかでチラッと読んだだけで裏づけがあるワケではないのですが、スクエニのカジュアルゲーム集「DS Style」はビジネス的には黒字だったという話を読みました。 本当かどうかは分かりませんが、コストが普通のゲームよりも低いのは間違いないので、カジュアルゲームもトレーニングゲームもブームが去っても息長く続いていくんじゃないかと今では思っています。
次辺り、『カラオケトレーニング』とかが出てくるんじゃないかと予想。 近所迷惑さは『Wii Fit』の比じゃないぜ!
「エンディングがないゲーム」は飽きて辞めることになるため、最後の瞬間の満足度は低いかも知れません。ですが、「エンディングまでプレイする必要がない」ためにプレイ時間が縛られません。「○時間プレイしなければ真価が分からない」ゲームは、その時間が確保できない人は手に取りにくいのです。 トレーニングに対する需要があることと手軽さが大前提ですが、『脳トレ』ブームの終焉はトレーニングゲーム全体の終焉というよりは“ユーザーがそれぞれ必要なトレーニングゲームを選択するようになった”円熟期に入ったと見ることも出来ます。
400万本クラスのトレーニングゲームはもう出てこないと思いますが、どんなジャンルも爆発的に売れた1本のソフトが草分けになって分派した様々なソフトを生み出して行ったのですから、今はただその時期に入ったということなのかも知れません。
○ 「何故そのゲームをやらないか」に隠されたヒント ということで、僕が考えていた「母が『Wii Fit』を始めなかったのは『脳トレ』に飽きた経験から」説はちょっと根拠が薄そうですよね。どちらかというと、トレーニングゲームに対する抵抗というよりは『Wii Fit』そのものに対する抵抗だったんじゃないかと思いました。
一つには「体重を量ることの躊躇」 もう一つには「自分には出来ないんじゃないかという不安」
―――この二つの仮説を立ててみました。前者は分かりやすく、任天堂自身もこの弱点を補うために「パスワードで自分の情報を隠す」ことが出来るようにしました。 後者はあんまり指摘している人がいないんですけど、『脳トレ』で数字を書く行為や『Wii Sports』でラケットを振る行為に比べて、体重移動での操作って傍目から見ると直感的じゃないんですよね。十字キーやアナログスティックを思い通りに使えない人々がいるように、体重移動も「自分にはムリかも」と思わせる心理的障壁があるように思えます。
もし、この二つの理由によって「『Wii Fit』を始めていない」のだとしたら……対処は簡単です。 どうにかして触れる機会を作らせて、慣れさせればイイのです。
もちろん無理矢理やらせてしまっては意味がありません。 「無理矢理やらされた」という記憶が初めだと、なかなか継続しにくいですからね。
ということで……僕は1ヶ月間、じっくりと時期が来るのを待ちました。
まずは12月末、父親が「年賀状にWiiのキャラ(Mii)を使えないかな?」と話してきました。実を言うと『Wii Sports』に激ハマリしていた1年前、『Wii Sports』で父自身のMiiがテニスをしている写真を年賀状に使ったことがありました(著作権的にはアレなんですけど、ゲーム人口拡大のために堪忍して下さい、任天堂さん)。
んで、今年は……という話になり。 ここで閃いた僕は「『Wii Fit』にMiiを登録すると、家族が一列に並ぶ絵になるよ」と提案し、父親を『Wii Fit』に触れさせることに成功しました。ここで重要なのは「トレーニングはしなくてイイから登録だけしてみれば?」と提案したこと。 この登録がスゲー面倒臭かったんですが、体重が直接表示されない(表示されるのはBMIで、クリックすると体重が表示される)ことで母親も「じゃー私も登録してみる」と登録。二人とも思ったよりもBMIが低いことで満足したみたいでした。
第一段階終了。 次に、実際のトレーニングをやらせてみて「思ったより簡単だね」と思わせればイイのですが……これに関しては僕よりも適任者がいるので、僕は知らぬ顔して『ちのしあ』6話を必死こいて仕上げていました。
そして来る2008年。 新年の挨拶に我が家を訪れた兄貴夫婦が、今話題の『Wii Fit』をやってみたいとのことで起動してみたそうです。その時、僕は13時間爆睡中で気付かなかったのですが、僕を除いた4人で盛り上がっていたとか。起こせよ(笑)。
どうやら一つのMiiを皆で使いまわしたせいで、誤作動が連発しちゃったらしいんですが……とりあえず、その場で母親の「自分には出来ないんじゃないか」という危惧は払拭できた模様。これで第二段階終了。
そして、最終段階。 「どうやらモチを食べ過ぎて太ったみたいなんで『Wii Fit』を始めようと思うんだけど…」と母親の方から言ってきました。ディスクの交換方法を教えてあげ、これにて終了です。ビバ、正月太り!(笑) それから数日、母は「フラフープ」やら「ヘディング」を楽しんでいるみたいです。母のお気に入りは「バランスMii」と「ペンギンシーソー」だとか。今日見たら、1日の運動貯金が40分超えてたよ……
親族が集まっている盆に『脳トレ』を薦めている人が多かったから、正月直前に『もっと脳トレ』を発売した―――という有名な話がありますが。今回の『Wii Fit』の発売時期は、「正月に親族が集まる」ことと「正月太りで焦る人が出てくる」ことを狙ったんでしょうね。京都の商売人は恐ろしいわ。
もちろん、コレは“我が家”に限定した一つのケースにしか過ぎません。 そして、僕は別に「『Wii Fit』は皆が楽しめる!スゲー!」とベタ誉めしたいワケでもありません。以前から書いているように、僕は『Wii Fit』自体には不満点の方が多いです。
ですが、この話から学べることも多いよなーとも思うのです。 まずは「Miiを一人一人登録することの面倒臭さ」。『マリオギャラクシー』の時も思ったのですが、どうにも任天堂のゲームは「そのゲームを物凄くやりたくて買った人」向けに序盤を作ってあるなーと思うのです。 ダラダラダラダラとウィーボくんに身体バランスの大切さを説かれている間に、横で見ている人は飽きてしまうのですよ。
次に「多人数プレイに不向き」だということ。 新規Miiの登録が面倒な上に、Miiの切り替えが最初の画面まで戻らなきゃならず、ゲストMiiで始めると自分のMiiが使えない上にトレーニングの種類が限られているのが大きなマイナス点ですよね。 ウチの兄貴がとったように「一人のMiiを使いまわす」と誤作動が起きてしまうみたいですし、多人数プレイ+接待プレイ時のことをあまり考えていなかったのかなーと思いました。
『Wii Sports』が誰にでもプレイ出来たのって、単に「リモコン振る操作が直感的」だったからではありません。一人プレイの後に二人プレイだとか、二人プレイの後に四人プレイというように、「私にもやらせて」という人を気軽に巻き込めたインターフェースがあったからなんですよ。
もし『Wii Fit』が『Wii Sports』と同じようにMiiを簡単に切り替えられたり、順番にプレイしてスコア競争が出来たりしていたら―――ウチの家族はもっと早く『Wii Fit』を遊んだと思うのです(父親は結局プレイしていませんしね)。
○ 「自分にはムリ」と思わせないゲームデザインへ 僕も他人のことは言えませんが……体を動かすことが好きではないと思っていた母が『Wii Sports』『Wii Fit』を楽しんでいることからすると、きっと彼女は「体を動かすことが好きではない」ワケではなかったのでしょう。これまではそこに楽しさを見出す機会がたまたまなかっただけなのです。
これは「頭を使うことが苦手な人が『脳トレ』を楽しんだ」といったような“Touch!Generations”の話だけでなく、3Dアクションが遊べなかった僕が『マリオギャラクシー』はクリアできたとか、ゴルフゲームをマトモに遊べなかった僕が『パンヤ2』にハマったこととかと一緒で―――
本来はターゲットになりえた人々に「自分にはムリだな」と思わせることで切り捨ててきた過去があって、そこを省みた結果としてのここ数年の「ゲーム人口の拡大」だったのでしょう。 これは別にWiiとかDSに限った話じゃなくて、PS陣営もXbox陣営も、これからのゲームデザインは「自分にはムリだな」と思わせない工夫が大切なんじゃないでしょうか。
それは別にタッチペンとかモーションセンサーを付けろって話じゃなくてね。 ・続編ソフトしか売れないのは、続編ソフトなら「自分にはムリではない」という安心感があるからですし。 ・日本では流行らないFPSのようなジャンルのゲームは、「自分にはムリ」と思っている人が多いからですし。 ・長時間必要なゲームが売れなくなってきているのは、それだけの時間を費やすことが「自分にはムリ」な人が多いからですし(逆に言えば、エンディングまでいかないと楽しんだことにならないという概念がある)。
そうした「自分にはムリ」と思っている人達を切り捨てておきながら、「ゲームらしいゲームが売れない時代は嘆かわしい」とか言ってんじゃねえよと思うのです。 媚びろと言ってるんじゃない、難易度を下げろと言ってるんじゃない。1時間プレイさせてみたら楽しんだかも知れないユーザーに「自分にはムリだ」と思わせて触ってすらもらえないことを、時代がどうのとか責任転嫁していることが哀しいのです。
我が家の『Wii Fit』ブームがどれだけ続くのかは僕には分かりません。 『脳トレ』も、『Wii Sports』も、最終的には「費やす時間」と「感じられる新鮮味」のバランスが取れなくなり、いつしか起動されなくなりました(『Wii Sports』は接待用なんかに重宝してますけどね)。 でも、それを言ったら僕が現在超絶ハマり中の『パンヤ2』だって、今度発売される『スマブラX』だって、「いつか飽きる時が来るんだろうなー」と思うのです。終わらない楽しさはないけれど、始まらなければ終わりすら経験出来ない。
「マリオギャラクシーは冒頭がマズいので失敗作だ」的な話題が昨年末に各所で盛り上がっていましたが、それを言うならば母にプレイさせるまでに1ヶ月間かかった『Wii Fit』も失敗作ということになるんじゃないかと言えるのです。
売れているのは売れている。 でも、どんなゲームだって「楽しかった!」と言ってもらえる声以上に、「自分はやりませんでした」という声の方が重要だったりします。母がペンギンになって楽しそうに魚を集めている様子を見て、彼女が手を出さなかった1ヶ月間は「切り捨てられた1ヶ月間」だったのだと思うのです。学ぶことがあるんだと思うのです。
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