FC2ブログ

やまなしなひび-Diary SIDE-

変わらない価値のあるもの

2008年04月 | ARCHIVE-SELECT | 2008年06月

| PAGE-SELECT |

≫ EDIT

縦書きの漫画を、横書きにする海外展開

 『ドラゴンボール』や『キャプテン翼』が世界中で読まれているという話は有名ですし、日本の漫画は海外でもコアな人気を集めていますよね。この辺の事情はあまり詳しくないのですが、インターネットを通じて(違法か合法か定かではありませんが)日本のアニメを観ている海外のヲタク層というのも存在します。


 日本はこれから先どんどん人口が減っていくでしょうし、漫画業界は「雑誌が売れない」時代に危機感を覚えています。こないだ記事にした「携帯電話で読める漫画」が増えている理由も、そうした危機感(と裏返しのビジネスチャンス)があるからかも知れませんね。

 その“漫画の電子化”と双璧を為す突破口と語られているのが、“漫画の海外展開”でしょう。
 『ドラゴンボール』の例を挙げるまでもなく、コミックスを翻訳して世界中で販売する動きは随分昔からありました。また……雑誌についても、数年前に少年ジャンプの北米版が発売するというニュースがありましたよね。海外の公式サイトがあったので、まだフツーに続いているようです。


 日本だけでは市場規模に限界があるので、世界市場を相手にしたい。
 漫画もアニメもゲームも、意図するところは一緒だと思います。




 ただ、漫画の場合……
 ゲームやアニメ以上に、「文化による文法の違い」が大きなハードルになってきます。言語を翻訳するとか、世界に通じるテーマにするとか以前に……日本人と欧米人では読み方が全然違うんですよね。

 すなわち、縦書きの文化と横書きの文化の違い。

 日本の小説はほとんど縦書きですが、欧米の小説は横書きです。そもそも、欧米の言語を縦書きにする方法そのものがありません。
 なので、日本の漫画を欧米人に読ませるためには、セリフも縦書き(右上から左下に向かう)から横書き(左上から右下に向かう)に直さなければならず……セリフの向きに合わせて、漫画全体を左右反転させることになります。



 絵描きとしては、まずここで恐怖ですよ。
 漫画評論家が、絵を裏側から透かして見て「ここのデッサンが狂っている!この作者は画力がない!」とかイチャモンつけて解説して下さるようなことを………全てのページ・コマにおいて自動的にやられてしまうということですからね。僕みたいに絵がヘボヘボな漫画描きにとっては、想像するだけで胃が痛くなってしまいます。


 いやまぁ、それくらいは胃を切除するなりして我慢すればイイんですが……
 日本の漫画を海外向けにローカライズするとなると、もっと本質的にマズいことが起こるのです。



 喩えば、『ちのしあ』7話の1ページ目。
 『ちのしあ』7話1ページ目

 テキトーに描かれているように思われているこの漫画ですが、一応この漫画も“読者の視線”をどう誘導して間を作っていくのかを考えて作られています。漫画は紙芝居じゃないですからね。フキダシの位置・大きさ、キャラの目線などで“間”を演出する必要があるのです。


 視線の動きを簡単に表すと、こんなカンジ?
 『ちのしあ』7話1ページ目・読者の視線の動き

 セリフが縦書きなので、当然ながら読者の目は上下に動くことが基本となります。ですから、漫画で“間”を演出するにはこの上下動をどう使うかを忘れてはいけません。

 このページの場合……左上の「いや、もうどれでもイイっすよ」というムトくんのセリフまで視線を上げさせておき、その下に何のセリフもない空間を作ることで“3人のやり取りを見ている海イズの間”を演出し、次の「何してんだ?」を引き出すワケですね。
 単に僕がメイド服を描きたくてあの空間を開けておいたのではないのです!




 では、これを海外仕様にしてみましょう!
 英語のセリフはエキサイト翻訳に頼んだものなので、ニュアンスが違っても僕のせいじゃないよ!
 『ちのしあ』7話1ページ・英語バージョン

 4コマ目が何か気持ち悪いことになっている……(笑)
 何だろう、このダマシ絵を見ているような感覚は。酔いそうです、あまり長く直視しないように。

 元々、僕のフキダシは縦長なこともあってセリフがなかなか入りきりませんね。
 『ドラゴンボール』はともかく、『キャプテン翼』なんかは物凄くセリフ(実況)の多い漫画なのに……どうやってローカライズしているんでしょう?



 で、これが英語版の視線の流れ。
 僕は横書き漫画に慣れていないため、多分こんなカンジかなーというくらいですが。
 『ちのしあ』7話1ページ・英語バージョン・読者の視線の動き

 フキダシを読む順番が変わってしまうこともそうなんですが(でも、あれは内容的にはどちらからでもイイようにしてあるので問題ない)、視線の動きの基本が横になったため、上下に大きく動かすことによる間が生まれにくくなってしまっているんですよね。

 視線の流れを受けて“視線が入りやすいように”斜めにした4コマ目の垂直ラインも、横書きだと微妙にズレているのが辛いところ。漫画家の意図とは違う演出になってしまうんですよね。1ページでコレなのだから、見開きだともっと深刻な事態になるんじゃないかと思います。



 ※ ちなみに、視線誘導の話は僕が漫画を描き始めた頃に読んだ↓の本に書かれていたことです。

4568502713漫画のスキマ―マンガのツボがここにある! (Comickersテクニックブック)
菅野 博之

美術出版社 2004-11
売り上げランキング : 2727

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


 ということで……ゲームやアニメと比べて、漫画を海外向けにローカライズしてもその魅力は伝わりにくいんじゃないかというのが僕の考えです。少なくとも、上で挙げた例のようにフキダシの中身だけ変えても上手くいかないんじゃないでしょうか。

 もちろん、それでも海外で人気の和製漫画はたくさんあります。そうした作品には、こんなハンデなんかものともしない魅力があったのでしょう。


 でも、全部の漫画がそうなれるワケじゃないですよね。
 僕みたいにインターネットで自分の作品を公開しているアマチュアの漫画描きは分かりやすい例ですし、もし今後10年・20年後にデジタル漫画が一般的になれば日本語版と英語版を同時配信なんてことだって可能です。対象となる人口が多い方が、より多くの人に読んでもらえる(ビジネスチャンスに繋がる)ワケですからね。

 ……そうした時に、“ハンデをものともしない”作品は何割あるんだろうという話です。




 で、イチ漫画描きとして思うのは……
 「フキダシを全く入れずに全ての絵を描いてしまう」というのが一つの手かなと。全て描き終えてから、フキダシをデジタル作業で入れれば良いという案……この際に、日本語版・英語版で異なったフキダシ位置(演出)にすればイイだろうと。


 後はもう開き直って、「最初から横書きで漫画を描く」とかね。
 このブログだって横書きですし、日本人にとって「横書きが読みにくい」なんてことはないでしょう。事実、(最近はどうだか知りませんが)ゲーム雑誌は横書きで書かれているものが多いので、ゲーム雑誌には横書きの漫画が連載されているんですよね。ファミコンバブルの頃の話ですが、『魍魎戦記MADARA』のような人気作もゲーム雑誌から生まれましたもんね。



 そう考えていくと……インターネットで漫画を描くのなら横書きの方が向いている?
 読む側にとっては、慣れてしまえばどちらも同じ感覚で楽しめるんじゃないかと思うんですが……描く側からすると、そうは言っても縦書きの漫画のダイナミックな上下運動の魅力は捨てがたいですし。うーん、悩みどころ。


 試しに、大好きな作品で英語に翻訳されたものを読んでみて研究するのも手かも知れませんね。
 “間”の違いを研究するにはイイ参考書になりそうな気がしますし。


1413903495Yotsubato 5 (Yotsubato (Graphic Novels))
Kiyohiko Azuma

ADV Manga 2007-10-10
売り上げランキング : 17150

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

| 漫画読み雑記 | 18:30 | comments:11 | trackbacks:0 | TOP↑

| PAGE-SELECT |