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『兄の嫁と暮らしています。』1~3巻が面白い!/この感情は「百合」なのか、何なのか

 「漫画紹介」や「この漫画が面白い!」のカテゴリーで紹介する漫画は、「私がハマったもの」でなければ紹介しないのはもちろんなのですが、ブログに「オススメだよ!」という記事を書く以上は「その作品がどういう作品なのか」をある程度は見極めないと書けません。

 この作品はちょっと前からハマっていたんですけど、2巻のラストで「え?え?このシーンってそういうことなの?」と確信が持てなかったので、3巻の発売を待って、3巻を読んで「やっぱりそういうことか」と確認してから書くことにしました。
 このブログで「現在3巻が出たばかり」くらいの漫画を紹介することが多いのは、そういう理由なんですね。


【三つのオススメポイント】
・「他人」だけど「家族」になって生きていく
・ヘビーな境遇を周りから支えてくれるサブキャラクター達
・本人にもまだ分からない「百合」なのか「家族愛」なのか微妙な感情


【紙の本】
兄の嫁と暮らしています。(1) (ヤングガンガンコミックス) 兄の嫁と暮らしています。(2) (ヤングガンガンコミックス) 兄の嫁と暮らしています。(3) (ヤングガンガンコミックス)

【キンドル本】
兄の嫁と暮らしています。 1巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス) 兄の嫁と暮らしています。 2巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス) 兄の嫁と暮らしています。 3巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)


【苦手な人もいそうなNG項目の有無】
この記事に書いたNG項目があるかないかを、リスト化しています。ネタバレ防止のため、それぞれ気になるところを読みたい人だけ反転させて読んでください。
※ 記号は「◎」が一番「その要素がある」で、「○」「△」と続いて、「×」が「その要素はない」です。

・シリアス展開:◎(そもそもが「兄が死んだ」から始まる設定なので)
・恥をかく&嘲笑シーン:×
・寝取られ:×(今のところは…)
・極端な男性蔑視・女性蔑視:×
・動物が死ぬ:×
・人体欠損などのグロ描写:×
・人が食われるグロ描写:×
・グロ表現としての虫:△(グロくはないけど虫と戦う回はあるw)
・百合要素:○(百合かどうかは確定していないけど、耐性ない人にはオススメしません)
・BL要素:×
・ラッキースケベ:△(風呂に入ろうとしたら既に入ってたというシーンがある)
・セックスシーン:×


◇ 「他人」だけど「家族」になって生きていく
 この作品は、くずしろ先生が2015年からヤングガンガンにて連載している日常センシティブストーリー漫画です。公式サイトにそう書いてあったから載せたのだけど「センシティブストーリー」って何だ?
 その公式サイトから読める読み切り版(設定がちょっとちがうのでプロトタイプみたいな作品だと思います)は「日常ハートフルホームコメディー」と書かれていたので、連載版は読み切り版よりもセンシティブ=繊細な感情を意識して描かれているのかなと思います。


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<画像は『兄の嫁と暮らしています。』1巻Diary.4より引用>

 主人公は、岸部志乃ちゃん。
 17歳(※1)で高校2年生。サバサバしていて、クールに感情を表に出さないタイプ……のように見えて、内心では色々考えているし、時折それが表情に出るところが可愛いです。

 小さいころに両親を亡くしているので、ずっと「兄」と二人暮らしをしていました。


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<画像は『兄の嫁と暮らしています。』2巻Diary.11より引用>

 もう一人の主人公は、岸部希さん。
 24歳(※1)で小学校教師。おっとりしていて、優しくて、清楚で、料理が上手で、おっぱいが大きくて、女子力というか嫁力の塊のような女性です。

 志乃の「兄」と高校生の頃から付き合っていて、社会人になって晴れて結婚しました。



 ということで、「妹」と「兄」と「兄の嫁」という関係性の三人暮らしだったのですが……その家族を繋ぎとめていた「兄」が突如亡くなってしまい、元々は他人だった「妹」と「兄の嫁」だけが残されて二人暮らしを続けているという設定です。

 これ、片方が男だったら「エロゲーかよ!」と言われる設定のヤツですよ!




 でも、志乃ちゃんの方は「たった一人の肉親」を失ってひとりぼっちになってしまい、希さんの方は高校生の頃からの「たった一人愛した人」を失ってしまい―――二人とも行き場のないその気持ちを、「妹」と「兄の嫁」というよく分からない関係性の二人暮らしで埋めているのです。そこにはちゃんと「この二人が一緒に暮らす」という設定の必然性があるのです。


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<画像は『兄の嫁と暮らしています。』1巻Diary.2より引用>

 この「いなくなった兄の存在」というのはシリアスな話だけでなく、ところどころで「ついつい希さんが過去のノロケ話を暴露しちゃって自爆する」というギャグにもなっているのがすごくイイのです。当たり前なんですけど、「兄」が死んだからといって「兄」の話が全てシリアスになるワケじゃなくて、笑い話にもなるんですよね。



 「妹」と「兄の嫁」、「17歳」と「24歳」の女のコ、「ずっと両親がいなくて兄と暮らしてきた妹」と「一人っ子で両親に反発もしてきた嫁」と――――「恋人」でも「姉妹」でもない、歩んできた道がまるでちがう「他人」の二人が、もう今はいない「兄」への想いによって繋ぎとめられて、「家族」になっていくという。その微妙な距離感が溜まらないのです。

(※1:志乃ちゃんの17歳、希さんの24歳という設定は公式サイトやコミックスの説明文にそう書いてあるからそのまま載せたんですけど……志乃ちゃんの誕生日は3月で、高2なのは確定しているので、恐らくは作中の年齢は16歳ですよね。後輩がどうのって話があったので留年という可能性もなさそうですし。
 希さんの方も「教員2年目」という話があって、誕生日が10月なのでこちらも多分23歳じゃないかなと思われます。こちらは浪人や留年の可能性もゼロじゃないですけど、)




◇ ヘビーな境遇を周りから支えてくれるサブキャラクター達
 しかし、よくよく考えなくてもこの主人公達の境遇は相当ヘビーです。
 志乃ちゃんからすると、小さいころに両親が死んで、親戚達からはほぼ絶縁されてて、それでも兄が必死に高校に通いながらバイトなりして育ててくれて、その兄も就職して結婚してようやく幸せな時間が送れるかと思ったら過労で死んでしまって、もう誰も残っていないと思ったところ「兄の嫁」だけが残ってくれて――――


 全面的に暗い話ばかりになってもおかしくないと思うのですが、明るい話として読めるのは「この主人公達の周りにいるキャラクター達」が善い人ばかりだからなんですね。



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<画像は『兄の嫁と暮らしています。』2巻Diary.15より引用>

 このキャラを一番最初に挙げるのもどうかと思うんですが……(笑)。
 私がとても好きなのが、目時先生です。志乃ちゃんの通う高校の先生なんですが、その高校は「兄」や希さんがかつて通っていた高校でもあって、目時先生は当時の二人を知っているんですね。


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<画像は『兄の嫁と暮らしています。』2巻Diary.15より引用>

 だから、志乃ちゃんの前では「しっかりしたおねえさん」な希さんも、目時先生の前では「生意気な生徒」に戻って軽口を叩いたりするのがすごく好きです。目時先生の方もすっごく強面で、志乃ちゃんも希さんも「生意気な生徒」だと思うのだけど、さりげなく気にかけているところが立派な先生だなーと思いますし。



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<画像は『兄の嫁と暮らしています。』1巻Diary.6より引用>

 志乃ちゃんの幼なじみで同級生の、みなとと翔太郎のコンビもイイキャラしています。
 みなとはバレー部のエースでさっぱりした性格で、翔太郎はイケメンなのにゲームヲタク(特に美少女ゲームが中心)で美少女ゲームをソースにした教訓めいたことを言ってくるのが残念なコです。

 というか、翔太郎がゲーム好きだからか何なのか、このゲーム油断するとやたら『パワプロ』ネタがぶち込まれているのは何故なんでしょう!
 キャラクター達も別に「64で『パワプロ』」な世代ではないと思うんですけど!64って20年前のゲーム機ですよ、17歳の志乃ちゃんや翔太郎がどうして64を「思い出のゲーム機」として遊んでいたのか!……でも、そうか。古いゲーム機の古いゲームソフトを中古か何かで買って遊んでたと考えると、志乃ちゃんの野球知識が「野茂」とか「川相」とか90年代に偏っているのも分からなくはないか(笑)。



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<画像は『兄の嫁と暮らしています。』1巻Diary.4より引用>

 希さんは小学校の教師でもあるので、同僚の先生とか、生徒も登場します。
 それの何が重要かというと……同じ家で暮らしている志乃ちゃんと希さんですけど、志乃ちゃんが友達に見せる顔とか、希さんが同僚の先生に見せる顔はまた別にあって。そこに二人がそれぞれ相手に言えない本音と、更に本人にもよく分かっていない迷いのようなものが見えるからなんです。

 どんな立体物も一つの面からではその形がよく分からず、色んな方向から見ることでその立体的な形が分かるように……志乃ちゃんと希さんの関係も、お互いはお互いの一面しか知らないのだけど、実は色んな形をしていることに気づいていく話だと思うんですね。




◇ 本人にもまだ分からない「百合」なのか「家族愛」なのか微妙な感情
 私がこの作品を知ったのは、どこかのサイトで「百合漫画」と紹介されていたからです。
 しかし、この作品を実際に読んだ私の感想は「この作品を百合漫画ってカテゴリーで紹介しちゃダメじゃね?」でした。


 それは別に「百合」というカテゴリーを下に見ているとかそういうことではなくて、この作品の一番の肝は主人公である志乃ちゃんにすら「希さんに対する気持ち」の正体が何なのかがよく分かっていないことだと思うんですよ。

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<画像は『兄の嫁と暮らしています。』1巻Diary.8より引用>

 志乃ちゃんは、気付いているのです。
 「死んでしまった旦那の妹」なんか放っておけば、希さんは幾らでも新しい恋を見つけられるし、幾らでも新しい幸せを手に入れられるということを。


 その「捨てられたくない」負い目というのは、「家族愛」なのか「恋愛」なのか―――
 志乃ちゃんにもまだ答えが出せていない以上、「この漫画は百合漫画だ」とカテゴライズしてしまうのは野暮だと思うんですね。例えば、「百合漫画だ」とカテゴライズされた時点で、男女でくっついて「めでたしめでたし」というラストは許されなくなってしまいますが、現時点ではまだまだ「志乃ちゃんが翔太郎とくっつくラスト」も「希さんが藤先生とくっつくラスト」も全然あると思いますからね。



 一緒に暮らしている人を大切に想うこの気持ちは、「家族愛」なのか「恋愛」なのか―――もう一人の主人公である希さんの方は「姉妹」になりたいことを繰り返し強調していて、時折それが志乃ちゃんにはグサリと来るんですね。

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<画像は『兄の嫁と暮らしています。』2巻Diary.19より引用>



 ということで、今この流れを書いていて思ったんですけど……


 この作品、女同士版『エロマンガ先生』なんですね。

 「他人」が「家族」になる話で、それが「恋愛」なのか「家族愛」なのかの気持ちがすれちがって、主人公が素直になれないのが読者としてはもどかしくて、ヘビーな境遇なのに登場人物みんな善い人なので明るくて楽しい話で、そして何より主人公の職業が「先生」と呼ばれる職業だ!!(無理矢理感)




 ということで、「センシティブストーリー」というのは、この微妙な関係性と距離感の間に揺れる繊細な感情を描いている作品だってことだと思います。どういう結末になるかは分からないのですが、そのドキドキ感も含めて今私がイチオシしたい作品です。

 公式サイトにはバックナンバーとして1~3話と、プロトタイプとも言える読み切り版が掲載されているみたいなんで、気になった人はまずこちらをどうぞ。2017年8月1日現在、キンドル版は1巻が半額みたいなんで「とりあえず1巻だけ」手に取ってみるのもイイと思いますよ!

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