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“タメ”と“カタルシス”の話~~『けいおん!』と『けいおん!!』の違い

 アニメに限らず、物語の基本は“タメ”と“カタルシス”にあると思います。
 基本というか…それを忠実にこなした方が「分かりやすく」「大衆向け」になると言った方がイイかな。

 起承転結、序破急、ピンチの後の逆転劇。
 少年漫画は分かりやすく「大逆転勝利!」という形になりますが、トレンディドラマだって「最後の最後に二人が結ばれる」ために色々な障害が出てきたりしますよね。最後のハッピーエンドを見せるためには、その前に登場人物を追い込んで視聴者に“ガマン”を強いるのです。

 フィクションだけじゃないですよね。
 WBCの決勝戦で、それまで不振だったイチローが最後に決勝ヒットを打ったから「ドラマチックだ!」と震えたのです。アレだけ叩かれた岡田ジャパンが会心劇を見せたから感動的だったのです。

 もちろんセオリーがあるから、それを敢えて外す手法もあるんですけど……物語を分析する際には、この二要素に注目すると狙いが見えてくるんじゃないかなと思います。





 さて、今日は「テレビアニメ」の話。
 「テレビアニメ」における“タメ”と“カタルシス”は大きく分けて2通りです。

・その回だけで“タメ”が解消されて“カタルシス”を得られるもの
・その回は“タメ”を継続したまま終わり、何週間後に“カタルシス”を得られるもの



 一つの作品の中で細かく“タメ”が入るので、「この作品は前者!」「この作品は後者!」と言い切れるものでもないのですが……

 『ドラえもん』なんかは前者ですよね。のび太がジャイアンやスネオにイジメられる(タメ)、ドラえもんに助けを求めて秘密道具を出してもらう(カタルシス)、それに味をしめたのび太が悪さをする(視聴者にとってはタメ)、最後にのび太が痛い目を見る(カタルシス)。
 これが伏線になって翌週ののび太が「先週はドラえもんに頼って間違いだった!これからは自分の力で解決しよう!」みたいなことにはなりませんよね(笑)。



 後者寄りのアニメは……例を挙げるとキリがないんですけど。
 『とある魔術の禁書目録<インデックス>』なんかは典型的に「“タメ”を何週間も引っ張る」作品ですよね。原作が小説だから仕方ないんですけど、「今週はガマンの回」「来週もガマンの回」「再来週もガマンの回で」「その次の週でようやく大逆転だー!」みたいな。

 もちろんコレが悪いワケではありません。
 “タメ”が大きくて苦しいほど、大逆転時の“カタルシス”は大きくなります。1期のアクセラレータ戦は、あれだけ絶望を煽っていた分だけラストの爽快感は凄まじかったです。何週間も続けて視聴してもらえることが前提のアニメはこの方が重厚長大な物語が描けるとも言えるのです。



 ちょっとイレギュラーな作品ですけど……
 『四畳半神話大系』なんかは最終回の後半くらいまでずっと“タメ”を強いるアニメでしたよね。もちろん各回にも細かく“カタルシス”があるんですけど、ずっとのどの奥に骨が刺さっているみたいな感覚で、その10週分がようやく最終回で取れるようなアニメでした。

 ウチで猛プッシュしていた『かなめも』もそうか。
 序盤のバカ騒ぎも、中~終盤の苦しい展開も、全部全部最終回に向けた“タメ”な作品でした。

(関連記事:『けいおん!』は“仲間”を描き、『かなめも』は“孤独”を描いた



 しかし、こうした「その回は“タメ”を継続したまま終わり、何週間後に“カタルシス”を得られる」作品は―――“タメ”ている時点で、ストレスを感じすぎて脱落してしまう人もいるんですよね。

 これは週に何本もアニメを観ている“アニメ好き”の人であっても。
 沢山観ているからこそ、「あーもうこの作品は観なくて良いや」と切られてしまいがち。

 そんなことを言っている自分も『Angel Beats!』を4話で脱落したので「天使ちゃんは敵のまま」終わっていますもの(笑)。


 また、実際に全話観たとしても「数週間前の伏線なんて覚えていないよ」と言う人もいるワケで。
 そうした人にとっては、回をまたぐ“タメ”は効果がなくて“カタルシス”も弱めになるんじゃないかと思います。


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○ 1期『けいおん!』と2期『けいおん!!』の違い
 この視点で『けいおん』アニメの1期と2期を振り返ってみましょう。
 当然、アニメ1期&2期全話のネタバレを含みますんで要注意です。



 まず1期から。
 『けいおん!』に“タメ”なんかあるの?と思われるかも知れませんが、この作品はきっちりと各回ごとに“タメ”と“カタルシス”を用意しているアニメだったと自分は思っています。

・1話:高校生になっても何もしないで「このままでいいのかな」と過ごしている唯
 → 軽音部の演奏を聴いて「夢中になれるもの」を見つける
・2話:ギターがないので練習を始められない唯
 → みんなでバイトをしたり、値切ったりで、念願のギターを手に入れる
・3話:ギターの練習し過ぎで、クラスでただ一人の追試を受ける唯
 → みんなに勉強を教えてもらって追試を乗り切る
・4話:OGの演奏テープを見つけ、遊んでばっかりの軽音部に危機感を覚える澪
 → 合宿の花火のシーンで、“仲間と一緒に輝く未来”を見る
・5話:軽音部存続のためには顧問の先生が必要!
 → 色々あってさわちゃんを顧問としてゲット!
・6話:人前に出ることすら苦手なのに、ボーカルをしなくてならなくてテンパる澪
 → ステージ上での唯の「大丈夫だよ」の言葉に「仲間がいれば大丈夫」と気付く
・7話:特になし(終始姉妹でイチャイチャ)
・8話:新入生を募集するも全く手応えなく
 → 新歓ライブ、互いのミスをフォローしあう様子を観て梓が軽音部に来る
・9話:軽音部の空気に全く馴染めなくて、部活をやめようとするけどやめられない梓
 → 「梓のためにもう一度演奏しよう」という演奏を聴いて、再び軽音部の仲間に
・10話:軽音部の先輩達について、憂にブーたれる梓
 → 合宿を経て、今まで見えなかった一面に気付いていく
・11話:律と澪のケンカで空中分解する軽音部
 → 「律っちゃんの代わりなんていません!」
・12話:文化祭直前に唯が風邪でぶっ倒れることに、しかも家にギター忘れるという始末
 → 「みんな唯のことが大好きだぞ」
・13話:澪律ムギ梓が、それぞれの場所でそれぞれの悩みに苦しむAパート
 → 唯が全部ひっくり返して無化してしまうBパート


 こうやって各回できっちり“タメ”を消化して“カタルシス”を得られることで、「どれか1話」だけ観ても楽しめる作りになっていました。“タメ”を次週以降に引っ張らなかったんですね。
 また1週ごとに“タメ”て“カタルシス”があって、その度に登場人物が成長していくことで、1クールの中で濃密な物語になっていたとも言えます。7話は例外として(笑)、12回“カタルシス”を得られたワケですからね。


 それと……こうしてリストに見てみると分かるんですけど、序盤の“タメ”は比較的緩くてしょーもない「悩みらしくない悩み」なんですが(流石に唯である)、澪の話、梓の話、律の話と進んでいくにつれて、徐々に深刻な“タメ”になっていったんですよね。「このままでいいのか」「仲間とは何だ」「自分とは何だ」と、青春の悩みをキッチリ描いていたんです。

 で、それらの集大成がテレビ放映ラストとなった13話。
 澪も律もムギも梓も、それぞれ別の場所でそれぞれの悩みに直面して“タメ”るだけ“タメ”て―――それを全て唯が浄化してしまうという、作品全体の“カタルシス”になっていました。唯が得たもの、唯によってみんなが得たものを最後に描いたんですね。

 こう見ると……1期の構成が如何にスキなく練られていたのかがよく分かります。




 んで、2期。
 1期で登場人物が成長しきってしまった上に、1期の倍の話数となる2クールということで……

 1期とはちょっと違う構成になっていました。
 各回の”タメ”は弱め。そもそも1期と違って登場人物達は深刻に悩まなくなっていましたし、その数少ない“タメ”は数週間に渡って描かれることが多かったです。8話で進路について悩んだ唯の“タメ”が消化されたのは10話でしたし、13話で孤独に直面した梓の“タメ”が消化されたのは19話でした。

 もちろんそれが悪いとは言いません。
 数週間に渡って悩みを描くことで重厚な話に出来ると、この記事の序盤に書いた通りです。ですが、1期『けいおん!』が持っていた“「どれか1話」だけ観ても楽しめる作り”の要素は弱まってしまったと思うのです。


 象徴的だったのが2期の13話。
 関東だとあの回が最高視聴率だったんですよ、何故なら直前までサッカーW杯「日本vsパラグアイ」をやっていたから。Twitterのタイムラインを見ていると「けいおんって名前は聞いたことあるけど観たことないな。どうせ負けて悔しくて眠れないから観てみようかな」という人がいて、その後に「なんだこれ……」と(笑)。

 全話通して考えると、あの回でやりたかったことは非常に分かるんですけど。
 あの回だけ観てもワケ分からないですよね……





 「1期と同じことをしろ」とは言いませんし、話数の都合で出来なかったのだと思います。
 でも、1期が好きだった分だけ2期は楽しめなかったという人もいるんじゃないかなとも思います。
 2期から入った人が「けいおんにはストーリーがない」と言うのもある程度頷けます。1期に比べて“タメ”→“カタルシス”の回数が少なくて、密度は明らかに下がったと思いますもの。


 なので、自分なんかは「もっと“タメ”が欲しかった」「シリアス展開をした方が最後に盛り上がったんじゃないか」と書いてきました。1期がそうだったから。1期13話「冬の日」が本当に大好きだったから。
 でも、それを書く度に「“タメ”なんか要らない」「シリアス展開なんか望んでいない」という声も聞きました。なるほどそういう意見もあるのかと思うとともに、ひょっとしたら2期はそういう声に応えた結果だったのかなぁとも思うのです。そんなものより日常描写を少しでも描いてくれ、と。

 『けいおん』の2期って、1期で入ったファン層を分析して作ったと思うんですよ。
 セクハラ描写がなくなったのは女性ファンや親子で観ている層に合わせたからでしょうし、デフォルメ描写も抑え目になりました。

 1期の11話や13話は自分は大好きだったんですけど、当時は賛否両論ありましたし……
 「ファンはああいうシリアス展開は望んでいない」と思った上での2期だったのかなぁと。




 そう考えると難しいですね。
 1作目はガムシャラに作るから「作りたいもの」に出来上がるのだけど……2作目は1作目で積み上げたファンの期待に応えなきゃいけないから「そうそう、これが俺の望んでいたけいおんだよ!」という人と「え……こっちに進んじゃったの?」という人に分かれてしまうのかも。

 『けいおん』に限らず、何だって言えることですよね。
 ゲームとかではよくある話。


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○ 余談
 “タメ”と“カタルシス”を数週にまたぐか―――という話を書いてきましたけど。
 これって視聴率主義から一歩退いた位置にいる深夜アニメだからこその話なんだろうと思います。

 夜の7時~10時台のテレビ番組なんかは、「CM中にチャンネルを回した人を繋ぎとめていくための」キャッチーな内容を何分おきに置かなくてはならないみたいな構成が求められるそうです。1時間の番組を30分経ってから付けた時に「途中からだと楽しめない」ようにはしてはならないとか、視聴率主義の中では視聴率主義ならではの“鉄則”があるんだと思います。数週にまたぐかレベルの話ではない。


 そう考えると、深夜アニメは随分と自由な場所だとも思いますね。
 まだコンテンツ力勝負の色が強い(DVD&BDとか、ネット配信とかで収益を得るビジネスモデルですしね)。



 んでんで。
 そんな中で日本のテレビドラマと、例えばアメリカの連続ドラマを比較してうんぬんとか言っている人は……メディアの違いをてんで考えていないんだなぁと思ったりします。素人ならともかくテレビ評論家みたいな人が平気で「日本のドラマは脚本がダメだね!」とか言っちゃうの。視聴率主義の制約の中で書かなきゃいけないんだから、しょうがなくね?


 そうは言いつつも……自分はもう何年もテレビドラマを観ていないので、実際にホントに「救いようがないくらいダメ」な可能性もありますけどね(笑)。


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| アニメ雑記 | 17:41 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

視聴率主義の制約はアメリカの方が厳しいですが。
とりあえず最終回までは作る日本と違い、視聴率取れなかったら放送中だろうと即打ち切りですから。
「最終回?見もしない話作ったって制作費の無駄無駄無駄ァ!」
な世界ですし。

| ケイン | 2010/11/21 14:02 | URL |

>ケインさん

あー、言葉足りてませんでした。

“瞬間”視聴率の話です。

| やまなし(管理人) | 2010/11/21 14:19 | URL | ≫ EDIT

ワンピは前者のカタルシスを演出するのが上手いですよね。
ベラミーしかり、チャルロス聖しかり。

浦沢直樹の「Happy!」なんかはタメが過剰すぎてカタルシスが目立たず
肩透かしを食らってしまった失敗例だと思います(綺麗にオチない、という点では浦沢さんらしいっちゃらしいですが)。
こういうのは全体の構成の問題でしょう。
もっとも、連載作品で全体の構成まで制御できる作家は一握りでしょうけど。

| レト | 2010/11/22 19:53 | URL | ≫ EDIT

13話は一番好きなんだけどなぁ。視てて身震いした。
まあ確かに、初めて視る回があれでは……というのも解りますが。

しかし、直前までW杯→あずにゃん寝不足ってくだりで吹いた。

| ああああ | 2010/11/24 01:42 | URL | ≫ EDIT















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