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漫画業界も“レーティング制度”を導入すべきだったのか

 東京都の条例とは関係ないような関係あるような話。
 今年になってから活発になった「漫画・アニメの表現を規制していく」流れを受けて、規制は嬉しくはないけれどという前置きをした上で「でも漫画業界は自業自得じゃないの」という意見の人は多いです。

 ゲーム業界や映画業界が導入しているレーティング制度をもっと早い段階で導入して、「この作品は12歳以上推奨」「この作品は15歳以上推奨」「この作品は17歳以上推奨」のように細かい規定を設けておくべきだった―――それをしなかったのは漫画業界の怠慢だったし、だから今回の規制も仕方ないんだ、という意見は結構見かけます。



 僕個人がレーティングに賛成か反対かは、この記事の後半に書きますが――――
 「漫画業界が何故レーティング制度を導入できなかったか」は、簡単に説明が出来ます。業界がどうのじゃなくて、メディアの特性として導入するのが難しかったので、「ゲームや映画がやっているんだから漫画もやっておくべきだった」という意見は言いがかりにしか思えません。



1.“漫画雑誌”には複数の漫画が連載されている
 漫画というメディアは圧倒的に“雑誌に連載されているもの”が多数です。
 新聞や漫画雑誌以外の雑誌に連載されているものもありますが、ダントツで多いのは漫画雑誌でしょう。漫画雑誌なしでは漫画を語ることは出来ないのです。



 そして、その漫画雑誌には20~30前後の漫画が連載されています。

 『Dr.スランプ』も『シティハンター』も、同じ雑誌に連載されていたんですよ。
 それが雑誌なんです。少年漫画雑誌と言っても「子どもだけが楽しめる」「子どもも大人も楽しめる」「大人だけが楽しめる」漫画が揃っているんです。
 青年向け漫画雑誌もそうです。『バガボンド』と『島耕作』と『チーズスイートホーム』が同じ雑誌に連載されているんです。


 大人だって、ハードボイルドなもの以外が読みたい時があるし。
 子どもだって、ちょっと背伸びをして大人なものを読みたい時があるんです。


 そうした需要に応えてきたのが(漫画に限らず)雑誌なんです。
 多種多様なものを揃えているのが雑誌なんです。


 漫画雑誌にレーティング制度を導入した場合、最も年齢層が高い漫画に合わせて雑誌全体の推奨年齢を上げるか、推奨年齢別に区分した雑誌を作るかのどちらかになるでしょう。前者は読者の層を恐ろしく限定することになりますし、後者は「雑誌」としての強みを失うことになります。

 せっかく多種多様なものを揃えているのが人気だった幕の内弁当を、「揚げ物だけ」「煮物だけ」「白飯だけ」に分けて売れってことですよ。
 漫画業界がこれまでレーティング制度を導入できなかったのも頷けますし、それを「怠慢」だと言うのは漫画業界が可哀想だと思ってしまいます。もし導入していたら漫画雑誌自体がとっくに死滅していた可能性もあったと思いますもの。



2.漫画は“完結してから”売るものではない
 では、単行本はどうかという話。
 レーティング制度に賛成な人は、雑誌にレーティングを導入できないのなら少なくとも単行本には導入しておけよ―――というイメージで仰っている人が多いと思われます。漫画=単行本という認識の人も多いでしょうからね。


 しかし、これも難しい話。
 例えば『ドラゴンボール』の初期の冒険活劇の頃って、ブルマのお尻やらおっぱいやらが描かれていて、ゲーム業界のレーティングで言えば「15歳以上推奨」か「17歳以上推奨」かひょっとしたら「18歳未満禁止」になると思います。
 でも、中盤以降にバトル漫画化した後はそうした描写はなくなります。血の描写は多いので「全年齢」になるかは微妙だと思いますが、少なくとも初期の頃よりは推奨年齢が広がると思います。

 14歳のコが『ドラゴンボール』を読みたいと思ったら、10巻までは読んじゃダメで、11巻からはOKみたいなことになっちゃいますよね。いや、ひょっとしたら「1巻と9巻だけは読んじゃダメ」みたいな不思議な事態になりかねません。



 漫画というのは、ゲームや映画と違って「この後どうなるかは分からない」まま売り始めるものです。
 あ……ゲームや映画にも三部作ものとかあるか。まぁ、それは置いといて(笑)。

 1巻を描いている段階では、作者にすら「この後どうなるのか」なんて分かっていないんですよ。
 『ドラゴンボール』も最初はドラゴンボールを集める冒険モノでしたが、人気が爆発的になったのは天下一武道会辺りからなので、そこから少しずつバトルものへとシフトしていったのです。読者が求めているものを察知して、その都度その都度シフトチェンジしていくことが漫画の強みなんです。
 『スラムダンク』だって序盤は学園モノでしたからね(バスケット漫画にヒットなしの法則があったので、序盤はバスケットのシーンを少なめにしていた)。

 1巻の段階で「この漫画はエッチィから15歳以上推奨にしよう」と決めていたら『ドラゴンボール』はあれだけの大ヒット作品にはなりませんでしたし。1巻の段階で「暴力シーンがあるから12歳以上推奨にしよう」と決めていたら『スラムダンク』はあれだけの大ヒット作品にはならなかったのですよ。




 なので、単行本にもレーティング導入が難しかったのだと思います。
 「漫画業界もレーティング制度を導入しておけば良かったんだ」という人はどういう形をイメージしていたんでしょう。自分は現実的に出来る方法なんてほとんどなかったと思うんですけど。

 出来たとして――――
 「この雑誌ではこれ以上の表現はしません」というある程度のガイドラインを決めて(ここまでは恐らく全部の雑誌がしている)それを公表するくらいですかね。でも、それって「僕達が出来る一番過激な表現はコレですよ」と手の内を晒すことになるワケで、やりたがらないのも仕方ないんじゃないかなぁ………


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● “紙の本”が死ぬ日
 ……と、ここまで“これまでの話”について書いてきましたが。
 未来のことを考えると、「電子書籍ならレーティングの導入も楽だよね」と言えると思います。


 ペアレンタルコントロールみたいな形で、電子の漫画雑誌を買うと「○歳未満には推奨していない漫画」を表示しない機能を付けるとか。
 電子の漫画単行本なら、修正の入っていない「15歳以上向け版」と修正の入っている「14歳未満向け版」を同時発売することも簡単でしょうし。やろうと思えば、持ち主が規定年齢以上になると修正の入っていないバージョンに書き換えられる機能とかも出来るんじゃないかなぁ。


 “紙の本”は死ぬしかないでしょうね。

 今まで出来なかったレーティングを導入すれば、どうしたって今までの形は保てません。
 それはきっと“漫画”というものが変わらざるを得ない瞬間です。それは電子書籍になってもそうですね。“今までの漫画”は形を変えるしかなくなり、“今までの漫画”が好きだった人は好きなものを失うことになります。


 だから、僕は「漫画業界もレーティングを導入すべき」だなんて言えません。
 大好きだったものを理不尽な形で失わなくてはならない人が沢山生まれるからです。

 好きなものを奪われる悲しみ、恨み、怒り―――
 別にイイコぶるワケじゃなくて、それを沢山の人に味わわせることのイミを考えると、決して社会のためにはならないと思うんです。

(関連記事:「自分が興味のないものは規制されてしまえばイイ」のだろうか




● 「子どもに見せたくないもの」で決められるレーティング
 そもそもだけどさ。
 ゲーム業界のレーティング制度を「アレを見本にしろ」みたいに言うのもどうかと思います。


 例えば、初代『逆転裁判』のDSリメイク版――――
 あれはCERO:Bで「12歳以上推奨」なんですけど、それをみんな納得しているんですかね?

 12歳以上推奨ということは、小学生にはプレイを推奨していないということです。
 ナルホドくんが給食費を盗んだ犯人にされて学級裁判にかけられるところなんて、小学生にこそ触れて欲しいところだと僕は思いますよ。人は誰か一人でも味方がいれば救われるんだって、小学生にこそ見て欲しいと僕は思いますよ。

 でも、このゲームは「暴力」「セクシャル」アイコンが付いているため、12歳未満には推奨されていないゲームなんです。親御さんにも「12歳未満には買ってあげることを推奨しません」と言っているワケです。




 こういうレーティング制度は、「子どもに見せたいもの」(加点主義)の要素は無視され、「子どもに見せたくないもの」(減点主義)の要素のみで決められます。僕はこんなレーティング制度が正しい形だとは決して思いません。

 “子どもの教育”よりも、“PTAから文句を言われないもの”を重視しているだけじゃないですか。これを「業界の努力」と言うなんて、ちゃんちゃらおかしいですよ。



 「暴力表現がありますよ」「血の描写がありますよ」「性描写がありますよ」とパッケージに書くことが悪いとは言いませんし、僕も漫画を紹介する時には「性描写があるんで苦手な人は注意して下さい」と書いてきました。
 それを年齢によって区分するのはどうだって話です。

 18禁はまた別の話ね。これは今回の話とはちょっと領域が違う話なので。




 つまり……僕の意見としては、(年齢で区分する)レーティングには基本的に反対。
 でも、望まない人がそれを手に取らないように、パッケージ(表紙とか)に記載することには賛成です。

 それでも手に取るって人は自己責任でイイじゃないか。何歳であっても。
 自分の部屋にある漫画が「表紙にセクシャルアイコンのある漫画」ばかりになったら、それはそれで未成年者は恥ずかしくて耐えられないと思いますし(笑)。


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| 漫画読み雑記 | 17:34 | comments:8 | trackbacks:1 | TOP↑

COMMENT

物事を上っ面だけで判断しがちな「話が通じない人」への対策としては大いに意味があると思いますよ。
それに、レーティングや内容マークがあるから、レーティングが間違っている! このレーティングはダメだ、と文句を付ける方向に自然に向かう。
逆転裁判を持ち出したのだから、それは自覚できるのではないでしょうか。
内容が間違っている! この内容はダメだ、という方向よりもレーティングに矛先を合わせた方が、コンテンツの中身を歪めずに守れるんです。

「目安」としての目的を、内容マークや推奨は完璧に果たしています。
迷ったときに信用する。
区分を越えて個人的に薦めたいときに、説明がしやすくなる。その手間を厭うなら、人に薦める資格はありません。しかしここではこうして、区分を越えて薦められる内容だと推奨している。

年齢推奨というのは、区分を越えさせる気がない人の言葉を抑え、越えさせるつもりの人の言葉を増やすのです。大事だと思いませんか?

仰るように18歳以上、成年指定は別物ですが、それでも内容マークは便利でしょう。

| カシミア | 2010/12/14 19:27 | URL | ≫ EDIT

そこは大人の対応。
建前と本音を使い分けて推奨はこの年齢ですよ。

その下の子供がなんとかして手に入れたのは遺憾に思いますよ。
責任は取りませんが。

・・・でいいんです。
完全にそれを守らせるなんて、ゲームでも映画でもAVですら出来てませんから。

| 名無し@まとめいと | 2010/12/15 05:52 | URL | ≫ EDIT

私はゲーム業界勤めなのですが、数年前の自分は「CERO無意味だよなぁ、CERO認定団体とシール発行会社の利権とかw」って思ってました。が、今回、みごとに機能してくれました。
まぁみての通り、実際に発売されてるゲームをみるとCERO区分はあまり意味ないよなと思いますし、小学生がCERO Zのゲームを買う手段はいくらでもあるのですから。

| ああああ | 2010/12/15 07:24 | URL |

「さくらの唄」は4巻だけ18禁でしたね

| ああああ | 2010/12/15 08:40 | URL |

あくまでレーティングは推奨であって禁止ではないんですから、「10巻までは読んじゃダメで、11巻からはOK」みたいなことになっちゃって良かったんだと思います。

| ああああ | 2010/12/15 09:54 | URL |

というか、暗黙のレーティングは既にあるとおもうんですよ。
ヤングジャンプは少年向けじゃないし、少年ジャンプは乳首も出ない。

ゲーム業界のレーティングはかなり厳密に細分化されてますけど、
そんな厳密で事前申請の制度、単にめんどくさいだけだと思うんです。
出版社それぞれ独自の表示、それだけでおれは十分だと思います。

わざわざ、独自規格と審査組織を作る、コストに見合う意義は俺は見いだせません。
どんな形であれ、規制ってのは、競争力低下して、売上は下がりますから。

政治に文句をつけられないアリバイのためだけにつくる、というのもバカな話しだし。
ゲームはレーティングのおかげでバッシングをまぬがれているとも思えません。

本来は、行政の規制よりも先に、こういう議論をこそ深めるべきだと思うのですが、
官僚と政治家の、規制を作るのが手柄、という意識のもとでは虚しいものです。

| 村上 | 2010/12/15 15:14 | URL |

電子書籍はマスコミがうまく浸透させるべきだと感じます

昔ワープロが手書きの文章を駆逐したように

紙媒体は終わらせると著作権なんかの問題もこの件もうまくいきそうなんで

弁証法的にもいいものがうまれてくるはずです

| ああああ | 2010/12/17 13:53 | URL |

レーティング制度について、確かに表現業界で現状行われているものは言い逃れに過ぎないと感じました。

ですが、漫画媒体の自主規制的レーティングについては必要、もしくは有効であると感じます。
ただしレーティングの基準が「誰が楽しめるか」ではなく「誰に見せられないか」であればですけれども。

その意味において、「誰に」「何を」表現したいのか制作者自信が設定出来る(建前ではない)レーティング制度が個人的には理想だと思います。


売れ行きやらなんやらが絡むと難しそうですが・・・

| Yielder | 2012/01/25 11:38 | URL |















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ここは酷い南草津停車ですね

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| 障害報告@webry | 2010/12/16 02:36 |

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