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「絶対に負けられない戦い」に負けたらどうなる?

※ この記事は
・アニメ版『魔法少女まどか☆マギカ』
・漫画版『ドラゴンボール』
・漫画版『幽遊白書』
・漫画版『スラムダンク』
・アニメ版『機動戦士ガンダム』
・アニメ版『けいおん!』

のネタバレを含みます。閲覧にはご注意下さい。



 いきなり『まどか☆マギカ』クライマックスの話から。
 自分はやっぱり11話のほむらの描写に「脚本すげえええ!!」とやられた感を味わいました。

 言ってしまえば「タイムリープ」って無敵の技だと思うんですよ。
 「負けそうになれば過去に戻ってしまえばイイ」ですし、実際にほむらはそうやって何度もワルプルギスの夜と戦ってきました。だから自分は11話を観るまではそれほど緊張感を持たずに観ていたんです―――しかし、11話冒頭でキュゥベエがそれを挫きました。

 ほむらがタイムリープするごとにまどかの魔力が跳ね上がっている

 その事実に気付いたほむらは死の際に追い詰めながらタイムリープできない―――
 冷静に考えると、ほむらが死んだらまどかも殺されるか、まどかが魔法少女になってほむらの代わりにワルプルギスの夜を倒して魔女化するしかなかったので。ここでほむらが躊躇することにはイミがないんですけど、冷静に判断できないあの状況まで追い込んだシナリオはとてつもなかったと思います。




 「負けたらどうなる?」を読者・視聴者に見せられるかがバトルものの肝になるんですね。
 読者・視聴者としても「負けたら大変なことになる」「負けて欲しくない」と思わせてもらえないとハラハラドキドキ出来ないワケです。その“背負っているもの”の重さがそのままその勝負の緊張感・緊迫感に繋がるのです。



 『ドラゴンボール』について。
 ピラフ一味のような例もありますが、初期の彼らは「ドラゴンボールを集めたい」「天下一武道会で自分の強さを計りたい」という極めて個人的な欲求で行動を始めています。
 典型的なのが、天下一武道会で悟空と戦ったナムさん―――このキャラは干上がってしまった故郷に水を買って帰るため、賞金を得ようと天下一武道会に出場しているのです。読者としても「悟空には負けて欲しくないけどナムさんにも勝たせてあげたい……」と、両方に感情移入させる作りになっているんですよね。

 これが、レッドリボン軍編→ピッコロ大魔王編→サイヤ人編→フリーザ編→人造人間編→魔人ブウ編となっていくと「ここで悟空が負けると世界がヤバイ」という描き方になっていきます。
 レッドリボン軍編はまだミクロな目的で「村のために」や「ウパの父ちゃんのために」というところから始まって、ついでにレッドリボン軍が壊滅させられた感があるのですが(笑)。ピッコロ編からは圧倒的な力で世界を滅ぼそうとする相手に、たった一人立ち向かえるのは悟空だけだという構図になっていきます。


 読者としても「こんな酷いヤツらに負けちゃダメだ、悟空!」という気持ちにさせられるんですよね。
 ふとこの記事を書きながら思ったんですけど、フリーザ編によるナメック星の描写や、人造人間編の未来の描写なんかは、ifの結果としての「滅んだ世界」を読者に見せつけることでより「負けちゃダメだ」感を強める意図があったのかもですね。




 次の事例、『幽遊白書』。
 この視点で『ドラゴンボール』と比較すると面白いんですけど、霊界探偵編初期って「子どもの魂を救うため」とか「ヒロインの命を助けるため」といった身近な目的を背負って戦うんですよね。
 幽助って別に霊界探偵になりたくてなったワケじゃなくて、なし崩し的に戦わされているので、そこに人助けの理由付けをしているという。背負っている「命の数」は大した数じゃないかも知れないけど、その「一つの命」に感情移入させるという手が取られています。

 典型的なのが垂金編で、見た目も行動も最悪で読者としても嫌悪を感じざるを得ない垂金が虐待をしている“優しくて動物が好きな美少女”を助ける――――すっごく分かりやすい構図ですよね。ここで垂金をやっつけて「垂金さんかわいそう!」って意見はほとんど出ないようにしている。

 コミックスのカバー裏で冨樫先生は「正義の味方だって人殺しをしているんだから、そこに理由を付けなきゃならない」といったことを書いていましたけど、まさにその通り。冨樫先生は意図的に王道作品をちょっとナナメに見た作品を描くスタイルだと後々の作品を見ると分かりますんで、計算してやっていたんだろうなーと思います。


 ちなみに、この後の暗黒武術会編や魔界統一トーナメント編は「自分のため」の側面が強くなって。
 魔界の扉編だけが「人間界のため」に戦うんですよね。だから自分は『幽遊白書』の中で一番魔界の扉編が好きだったのかも。「ここで負けたら人間界が滅ぶ」とハラハラドキドキしていましたから、少なくとも当初は(笑)。

(関連記事:“パクリ”と紙一重の“パロディ”だった『幽遊白書』




 これはバトル漫画に限った話ではないですよね。
 スポーツの場合、この試合に負けると世界が滅ぶみたいなことは滅多にありません。
 高校野球で活躍した選手が敗れて引退しても、大学野球・社会人野球・プロ野球に進めば選手の競技人生は終わりません。「負けたところでそんなに深刻な話じゃないよね」と思われかねません、本来なら。


 『スラムダンク』というバスケット漫画が漫画史上に輝く大傑作であることに異論はありませんし、僕も大好きな作品ですが、唯一納得がいっていないのが海南戦の敗戦の後です。「神奈川からは2チームがインターハイにいけるんだ」の発言。

 えっ!そんなの試合前に言ってなかったよね!!

 自分は当時、当然1チームしか全国に進めないと思っていたので海南戦にハラハラドキドキ手に汗握っていたのですが――――「2勝1敗なら全国に行ける!」と言われて「ええええええええ」と思ったのを覚えています。


 まぁ、それはさておき。
 陵南戦の前に、「次の試合は絶対に負けられない!!」と読者に印象付けたシーンがあるのです。


 「オレは3年だから……これが最後だからな。
 もしインターハイに行けなかったら…あさっての陵南戦が最後だ」


 桜木のシュート練習を手伝いに来た木暮のセリフ。
 このセリフがなくてもストーリー展開に大きな変化はないんですけど、読者の心象がこのセリフ1つで全く別のものになるんです。桜木はまだ1年だから未来があります。でも、木暮はそうじゃない。「メガネ君のためにも負けちゃダメなんだ」と読者に思わせる効果がありますし、もちろんコレが伏線になっているという。

 『スラムダンク』の中でも自分が特に好きな箇所がこの一連のシーンです。
 『スラムダンク』が大傑作となったのは、こういう描写の上手さゆえだと思うのです。





 ―――といったカンジで、「負けたらどうなる?」の描写こそが作品には重要だと伝わったらイイなと思います。パッと記憶の引き出しから出したのがこの三作品ですが、当然これ以外の多くの作品にも当てはまる話ですし、「分析する一つの軸」として捉えるのも面白いんじゃないかと思うのです。


 例えば『機動戦士ガンダム』なんかは、主人公達はあくまで「囮部隊」だというようなセリフがあって、画面で描かれているのは広大な戦場の中の一局面でしかない(主人公達だけで戦争に勝てるワケではない)と印象付けるところがあります。
 『ドラゴンボール』の「悟空が負けたら世界が終わる」とは対照的ですよね。そもそも主人公達が勝っても、味方の上層部もクズばっかだと描かれていますし。

 で、後々のシリーズ作品になると全然違う方向に進んでいくんですけど……それは際限ないネタバレになっちゃうので控えます。エゴだよそれは!


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○ 敵のいない作品
 ついでだからコレも書いておきますか。
 自分はかつて『けいおん!』は『ウォーターボーイズ』系の作品だと書いたことがあります。憎らしい敵が出てきてソイツに負けたくないって話ではなく、あくまで自己実現・自己達成のために頑張る話なんですよね。

(関連記事:『けいおん!』アニメ1期を観逃した人に「2期からでも!」のススメ



 フリーザや垂金のような凶悪な敵が出てくれば、彼らの悪行を描くだけで「コイツに負けるとトンでもないことになってしまう!」と読者に思わせることが出来るのですが――――自己実現型のストーリーの場合はそうはいかないので、登場人物に愛着を持ってもらって「頑張って!」「この子達に成功してもらいたい!」と思わせる必要があります。

 だから、日常の描写こそが大事なんですね。

 『ウォーターボーイズ』の場合は健気な男子高校生がまっすぐに特訓するシーンに胸打つのですし、『けいおん!』の場合は純粋な女子高校生がキャッキャッウフフしているシーンに胸熱なのですし。登場人物に男女の差はあれど、こういった描写で「この子達は応援したくなる!」と思ってもらわなければ成り立ちません。


 『けいおん』がいきなりライブシーンをやっては成立しないんですよ。



 いや……まぁね。「ちょっとは練習しろよ」と思わなくもないですけど(笑)。
 『けいおん!』って「日常系アニメ」の代表格のように言われていますし、僕も言ってきましたけど、「日常」があるからこそ彼女らの「自己実現」に愛着が持てるワケで―――実は沢山ある「日常系アニメ」の中では異端の作品だったのかもなぁと最近思っています。

 それこそ同じポニーキャニオンの『花咲くいろは』は、より「自己実現」の方に比重の強いストーリーですもんね。


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