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作品にお金を払うのか、作者にお金を払うのか

 自分はあんまり好きじゃない小説なのでタイトルを挙げませんが……
 ファイル共有ソフトが流行ってしまって音楽だったり映画だったりの違法コピーが蔓延した2004年頃に書かれた小説にて、興味深い(でも僕にとっては同意できない)ことを話しているキャラクターが登場しました。彼の主張はこんなカンジ。


「コンテンツは無料で誰もが共有できるようにして、その中から応援したいと思った作者に対して好きなだけ寄付をして支援できるようになればイイ」


 お金を払って作品を買うのではなく、無料で共有される作品の中から支援したい作者にお金を払う――――
 作品にお金を払うのか、作者にお金を払うのか。自分はこのキャラの意見には同意できなかったのですが……現実世界ではこの後に動画共有サイトが流行ってしまったり、マジコンでしかゲームを遊ばない層が出てきてしまったりで、状況はこのキャラが望んだ方向に進んでしまっているとも思うのです。



 こんなことを思い出したのはAKB48の総選挙の話題を聞いたからです。
 とあるコメンテーターが「同じCDを何枚も買うなんて理解できませんね」的な発言をしたそうなんですが、本質が見えていないなって自分は思います。
 それは「作品にお金を払う」時代の感覚でしかなくて、同じCDを何枚も買っている人は「作者にお金を払う」感覚で買っているんですよ。ここで言う作者とは、歌っているアイドルちゃんのことですね。


 「作品」にお金を払う人が急激に減ってしまった音楽業界で、
 小説のキャラクターが言った「応援したいと思った作者に好きなだけ寄付をすればイイ」という言葉の通り、アナタが応援したいと思った分だけ買ってください、その総数がランキング化されてみんなの前に発表されますよ――――というその手法は、ランキングの部分はあざといと思わなくもないですが、「作者にならお金を払える」というファン心理を上手くくすぐっているとも思うのです。




 テレビのコメンテーターとは対照的に。
 Twitterで見かけた、AKB48の総選挙に対する批判的なPOSTですごく秀逸だったものがあったので紹介します。お気に入りに入れておけば良かったんですけど、うっかり流してしまって検索しても見つからなかったのでうろ覚えで申し訳ないのですが……大体こんなカンジのご意見でした。


「AKB48の総選挙は、CDなんか売らずにメンバー全員の銀行口座番号を公開して送金された額でランキング化すればイイんじゃないの。エコだし」


 「同じCDを何枚も買うなんて……」とか言っちゃうテレビのコメンテーターなんかよりも、よっぽど本質が見えています。同じCDを何枚も買う人というのは、そこまでして「応援したい作者」がいるからであって、「作品」にお金を払っているワケではありません。

 しかし、「CDの作者」は最前線で歌っている彼女達だけじゃないですよね。
 作詞家・作曲家・編曲家・CDのジャケットを撮影する人とか、楽器を演奏する人とか、そもそもレコード会社とか、まぁ恐らく物凄い人数が関わってCDが作られているワケで――――「僕は誰々ちゃんを応援するぞ!」と10万円分CDを買っても、その10万円の中から誰々ちゃんに入るお金は微々たるものなんです。


 このビジネスモデルで儲かっているのは誰かな?という話。
 もちろん“CD”に対して「僕は10万円分応援したいんだ!」と思うならこの形がベストなんですけど、“歌っている誰々ちゃん”だけを応援したいんだったら―――CDなんか作ってないで銀行口座に送金させろよという強烈かつ的確な皮肉で、膝を打ちました。




 僕自身はAKB48の総選挙に対して批判的ではないです。
 違法コピーが蔓延した頃からこういう事態になることは少なからず予想していましたし、それをこんなセンセーショナルな形でビジネスにしてしまった人達にはむしろ「すげえ」「時代が読めている」と本気で思っています。

 僕が許せないのは、こういう事態を招いた違法コピーの方です。


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○ 「作者にお金を払う」感覚がある人/ない人
 違法コピーの問題は「悪」が分かりやすくなっちゃうので、「悪」かどうかがグレーゾーンな話をします。
 中古問題です。

 ………AKB48が中古だって話じゃないですよ!漫画やゲームの中古販売に関する話ですよ。



 漫画やゲームを中古で購入しても、そのお金は作者にも出版社にもゲーム会社にも入りません。
 儲かるのは中古販売店だけです。

 これに対して「中古に反対している人」達はこう言います。「作り手にお金が入らないような購入方法を続けていれば、創作活動が維持出来なくなって、作品自体が生まれなくなる!だから中古じゃなくて新品で買うべきなんだ!」と。

 僕も割かしそう思います。これは「作者にお金を払う」という感覚のある人の話。
 優れた作者にお金を払えば、その作者がまた新しい作品を出してくれる―――



 でもこの言い方じゃ、「お金は作品に払うものだろ」と思っている人には響かないんですよね。
 作者にお金が届いても届かなくても、俺が今中古販売店に払ったお金は作品への対価なんだから問題ないだろうという。

 違法コピーの問題も「マジコンのせいでゲーム会社が潰れてしまう!」と言ったところで、彼らは「それで何か困るの?」としか思わないんですよ。それはそういう人達が人でなしだとか想像力がないとかそういうことではなく、「作り手にお金を払う」という発想がないんですよ。


 僕自身、アマチュアながら「自分で作品を作る」という経験をするまではピンと来なかったですもん。
 創作活動を続けるためには“お金を払ってくれる人”がいないとすぐに行き詰まってしまうんだ―――と。






 今はどの分野でも「作者にお金を払う」感覚の人を大事にしていますよね。
 そうじゃないともう生き残れないから。

 AKB48に限らず、音楽業界では「CDの売上げは下がっているけどライブなどに来る人は増えている」という話がありますし。ゲームの売上げが苦しくなっても東京ゲームショーには毎年トンでもない人数の人が訪れます。

 作り手側も受け手側も、「作者とのコミュニケーション」の比重を大きくしている印象があります。



 しかし、一方で「作者にお金を払う」感覚を持った人というのは、“マニアックなファン”に偏りがち。

 日本でゲームを遊ぶ人の中で、ゲームクリエイターの名前を3人以上言える人は何割でしょう?
 日本でアニメを観る人の中で、アニメ映画監督の名前を3人以上言える人は何割でしょう?

 そういう人達だけをお客さんにしていくと、市場はどんどん縮小していくしかないんですよね。




【久々の3行まとめ】
・違法コピーの蔓延によって、市場には「作者にお金を払ってくれる人」しか残らなくなった
・「作者にお金を払ってくれる人」は“マニアックなファン”と言い換えても可
・AKB48がオリコンを席巻するのも自然な展開




 まぁ……こういうのは数字として出ないんで状況証拠にしかならないんですけどね。
 音楽の場合は配信による新しい市場が出来たのとか、ゲームの場合は1本のソフトで長く楽しめるようになったとか。売上げが下がったにはもっとデカイ要因があるので、決定打にはならないんですけど―――

 この「作品にお金を払うのか、作者にお金を払うのか」という消費者心理の分析は、これからの娯楽産業を考える上で無視できない要素だなと思います。


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| ひび雑記 | 18:01 | comments:7 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

CD(作品)買うことが作者への対価になってればまだいいんですけどね
権利買取なのでCD何枚売れようが支持した作者に金はいきませんとかよくある話

確かに口座直接降り込めれば話は早いですね エコだし

| ああああ | 2011/06/15 21:16 | URL |

記号としての商品の購入や自分の財力を誇示するための消費なんて話も昔ありましたが、今は応援としての消費が増えてきてるんですね。
特典目当てで同じCDを何枚も買った人がCDを売れば中古が増える。
中古が増えればそれを買う人が増え新たなファンになってくれたりもするのかな。

| 名無しさん | 2011/06/16 02:54 | URL | ≫ EDIT

去年、電子書籍が流行った頃、ぶっちゃけ印税じゃ食えないっていう書き手が、
電子書籍で食えるモデルをどう作るかって案を考えてて、
その一つに、取材費を募る⇒文章書いて電子書籍でもなんでも作る⇒カンパした人には無料配信&書籍を売る ⇒ループ
というのを提案しとった。もう出版社自身が作家を養っていけないから(とりわけ雑誌などのコンスタントに稼げる仕事が激減しているから)、
最初から読者(?)に取材費を募金してもらうくらいじゃないと動けねーということらしい。
この記事に近い話だと思う。

| のに | 2011/06/16 11:10 | URL |

ちょっと記事の中心とは方向性が違うネタですが、違法コピーはともかく中古を問題とするのはどうなのか?と常々思ってます。もちろんやまなしさんもグレーとおっしゃられてますが。

そもそも自分にとって不要なものを誰かに売るのは当たり前のことであり、中古車流通がなくなれば車メーカーはかっこいい新型をどんどん発売してくれるとか、中古住宅は略とか、そういう論理に聞こえるんですよ。

中古・レンタルの流通には、元のクリエイターに何パーセントかお金が流れるというアイディアも、実現されればそれはいいと思います。中古で買ってても、その作品が好きで、その作品の助けにならないよりはなってほしい人はかなり多いでしょうから。
ただ、その考えは絶対的な正義じゃなく、あくまでその産業の作り手という層を保護するための保護条約だということを忘れてはいけないと思います。
車や住宅でそんな仕組みはたぶんないですし、そもそも作者に「だけ」流通し続けてる間利益が流れなければいけないと考えるのは公正のためではなく、作者という保護動物を保護するための考え方ですから。
中古の流通によって利益が阻害されてるのは誰かといったら、出版社や印刷会社、問屋、書店だって当てはまるわけで…でもそこにまでお金を流すべきだと考えているファンはどこまでいるんでしょうか、と。
結局僕は何が言いたいんでしょうか…えーとまあつまり自分の好きなものに対する、作り手に対するお布施をするのは結構だと思うんですよ。払うほうも、もらうほうも、払わないほうも三方得ですから。(お布施を払わない層も、作者にお金が流れることで作品のグレードアップが期待できる)
ただ、経済の流れとして常識にかなった購入をしている人に対して文句を言うのはヒステリックに聞こえるということです。
僕は中古やレンタルを安いという理由で普段から利用するんで、自分の行動を正当化したくなるベクトルはあると思うんですが…

| 愛藤 | 2011/06/16 15:19 | URL | ≫ EDIT

改めて作者と作品、どちらに金を払うのか、と問われれば私は作品です。
「作品は好きだけど作者は嫌い」というケースもありますし、「作者自身ではなく、作者の才能に対して投資する」という考えに基づいても才能は劣化すると思っているからです。
作者に投資する、というケースはパトロンみたいに対象が資産家に限られてくると思います。

| レト | 2011/06/16 17:15 | URL | ≫ EDIT

「カンパウェア」ってもの自体は昔からありますよね。無料で使えるけど、気に入ったら好きなだけお金振り込んでくださいっていう。wikipediaなんかもそういうタイプで成り立ってます。


でも正直AKB商法を中古問題と絡めるのはちょっと違うかなって思います。
この売り方は別に中古が問題にならなくても行われてる可能性が高いと思うので。というかグッズ商売と同じだと思ってます。ファンはお気に入りアイドルのグッズを買いあさってるだけ。
アイドルファンは作者にならお金を払えると思ってるわけじゃないと思ってます。
「○○のためなら命でも・・・とはいかないけど、散財ぐらいならできる!」ということに満足感を得てるだけなんじゃないかなと。

| あわれ | 2011/06/16 18:48 | URL | ≫ EDIT

>>レトさん
私も概ねこの意見に賛成なんですよね。特に当りはずれの激しい作者の場合は
○○の△△は好きだけど、○○の■■は嫌いとかなるでしょうし。

それはそうと違法コピーは論外だとしてもバックアップのための合法コピーにしても100%シロかというと現在のコピー技術の高さからするとグレーな側面が出てくるんですよね。
VHS時代にダビングが余り問題にならなかったのはコピーするとコピー元より劣化をするという保障があったからであって…。

| hts | 2011/06/17 14:55 | URL | ≫ EDIT















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