やまなしなひび-Diary SIDE-

変わらない価値のあるもの

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漫画雑誌不要論

 最初に断っておきますけど、私は「不要」だとは思っていませんよ。
 日本の漫画雑誌は日本の漫画文化を土台から支えている屋台骨だと思っています。

 しかし、だからこそ「漫画雑誌は果たして必要なのか?」を語らねばならないと思うのです。
 ここを無視して漫画の未来は語れないと思うのです。



 キンドルが日本でも始まりました。
 キンドルって何じゃらほい?と言う人はこちらの記事をどうぞ。

 Twitterを見ていると、以前からキンドルに対して懐疑的なことを言っていた某有名漫画家さんのPOSTがリツイートで飛んできまして。
 断片的にリツイートで飛んできただけなので前後の文脈ではまた違うイミだったのかも知れませんが、「これまでの出版社は売れない若手漫画家にも投資して育てていた。それは出版社に漫画家を育てる意志があったからで、Amazonやappleは恐らくそういうことはしてくれない」―――こんなカンジでした。


 前半は頷けますけど、後半はちょっとよく分かりません。
 「キンドルを批判するために関係ない事柄を持ってきた」だけに思えます。


 というのも、キンドルというのは「電子書籍販売サービス」なので、競争相手として食われるのは出版社ではなく小売店なんですよ基本的には。
 キンドルが日本に上陸して町の本屋さんが潰れちゃうねー、という話なら分かりますが。キンドルによって出版社が潰れるなんてことはなく、むしろ出版社にとっては“販路が広がる”だけだと思います。

 キンドルストアには大手出版社の本がズラリと並んでいますからね。


 「日本の出版社は電子書籍に反対している」みたいに思っている人もいるかも知れませんが、キンドルにしろ、やたら見かけるジャンプコミックスのカラー化のバナー広告にしろ、日本の出版社は電子書籍にかなり投資していると思います。メリットも大きいですからね。

 電子書籍なら古本屋に売られない―――これは出版社側からするとメリットです。
 (ブックオフの株主としては……という事情はあるかもですが・笑)

 これは上手く使わないと身を滅ぼすことになりますが、期間限定の値下げなんかが出来るのも電子書籍ならではのメリットです。紙の本は新品だと定価で売らないとならないという取り決めがありますが、電子書籍はそうではありません。
 キンドルストアにも「セール本」というコーナーがあります。『テルマエ・ロマエ』の1巻なんて70%オフですね(11/8現在)。

 下手にやると「セール待ちでイイや」という人を増やしてしまうリスクもありますが、販売促進とかキャンペーンに絡めれば絶大の効果が上がります。「アニメの2期が始まるから1期相当分の原作漫画を安く売る」とか、色々出来そうですね。


 それと、漫画もそうですし小説なんかもそうなんですが。
 「最初に出る版」「文庫版」「完全版」みたいな形で「同じ内容を何度も売る」ということをやってきた出版業界にとって、「電子書籍版」という更なる形が出来たというのもメリットだと思います。キラーコンテンツを沢山持っている大手出版社ほど恩恵に預かれると思います。


 だから、キンドルによって出版社が困ることなんて何一つないじゃないか――――




 ……と、ここまで敢えて「知らないフリ」をして書きましたけど。
 「Amazonやappleは恐らくそういうことはしてくれない」というのは販売についての話ではないですよね?自費出版―――キンドルダイレクトパブリッシングのように、出版社を介さずに電子書籍が販売できるサービスについての話ですよね多分。

 でも、これこそAmazonやappleに責任がある話でもないです。
 あくまで自費出版のサービスなんですから、自費出版で売れない作家が儲けられなくてもそれはそういうものだろうと思いますし。ダイレクトパブリッシングでは儲からないと分かったら、これまで通り出版社に人材は集まると思うのですよ。


 「ダイレクトパブリッシングは超儲かるから有望な人材は全員自費出版をしちゃって、出版社に人材が全く来なくなりましたー」なんて未来、ダイレクトパブリッシングをやるつもりの自分でも来るとは思っていません。

 特に漫画の場合は顕著で。
 数ヶ月に1冊とか1年に1冊とかのペースで単行本を出版するためには、一人ではとてもじゃないが手が回らないワケですよ。アシスタントが何人いて、編集者がいて、アドバイザーを雇ったりして、表紙のデザイナーとか宣伝とかわんさかわんさか人が関わって分業しているからこそ、漫画ってあんなハイペースで単行本が出せるのです。

 そういう人達は出版社に雇われている人もいますし。
 漫画家自身が雇っているアシスタントに給料を払うためにも「定期収入」が必要ですから、雑誌に連載を持って「今週は○ページ載ったから幾らもらえる」みたいな収入源が大事なワケですよ。


 出版社と漫画雑誌がなければ、「続きものの漫画」なんて描きようがないんです。
 特にこれから名前を売っていこうという若手は元手がありませんから、いきなりアシスタントとかシナリオアドバイザーとか雇えないでしょうしね。


 ……って


 ……ん?




 ………そうか。
 ここまで書いて気付きました。既に名前が売れている有名作家さんがダイレクトパブリッシングに行ったら出版社はヤバイって話か。彼らは既にお金を持っているし作家名で単行本が売れちゃうので、出版社を介さず、自分一人でアシスタントやアドバイザーを雇って自費出版をしても元が取れるかも知れません。

 あ、「あの漫画家はワケわかんねーこと言ってんな!」というテンションで書き始めたのですが、書いている間に「あの漫画家さんの言っていることは正しいじゃないか!」と思ってしまいました(笑)。




 ということで、そうなんです。ここからが本題なんです。
 今の漫画業界が直面している本当に重要な問題は、「紙の本か電子書籍か」とか「出版社かキンドルダイレクトパブリッシングか」といった話ではないんです。「漫画雑誌なんかなくても漫画業界はやっていけるのか」という問題なんです。


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○ 漫画雑誌を読んでいますか?
 ぶっちゃけた話をしましょう。
 私はもう漫画雑誌は1冊も読んでいません。

 とにかく時間が足りません。
 1冊の漫画雑誌を買っても、読み終わる前に次の号が出てしまっていて、続きものは1話飛ばしちゃうと理解できないかもだからと前の号から読もうとするとどんどん「読まなくちゃいけない号」が増えていって、最終的に「もうイイや!気になる作品だけ単行本で買おう!」となってしまいました。


 こういう人は少なくないと思うんです。
 大ヒット漫画を抱えている漫画雑誌の中には、「1作品の単行本」の方が「雑誌」よりも遥かに売れているところがありますよね。雑誌側も何とか雑誌も売れるようにしようと「単行本の続きが最新号の雑誌で読めますよ!」とやっているのですが、自分が単行本を読むのは買ってから数ヵ月後だったりするので「もう全然最新号じゃねえええええ」となったりするのですピョン。


 「もう漫画は単行本だけ読んでいればイイや……」という人は少なくないと思うんです。




 そもそも「漫画雑誌の利点」って何でしょう?

・目当ての漫画もそうじゃない漫画も、たくさんの漫画が載っている
・単行本より早く読める
・デカイ


 昔はこれらが利点になっていたと思うんですが、現代人のライフサイクルにはむしろマイナス点になっているんじゃないかと思うのです。「目当ての漫画だけ読めればイイや」「好きな時にじっくり読める単行本の方がイイや」「持ち運びしやすい方がイイや」―――そう思う人にとって、漫画雑誌は「なくても構わないもの」なんです。


 この問題――――電子書籍とかダイレクトパブリッシングとかじゃ解決しないと思うんです。
 「持ち運び」に関しては若干解決するかも知れませんが、もし仮に「漫画雑誌がiPadやキンドルファイアやネクサスセブンで読めます」となったからって、「目当ての漫画だけ読めればイイや」「好きな時にじっくり読める単行本の方がイイや」という部分は解消されないんです。




 しかし、
 「漫画を読む」側からすると「単行本だけでイイや」となったとしても、
 「漫画を描く」側からすると「単行本だけ出してればイイや」とはなりません。


 漫画雑誌って「単行本が何十万部も売れる大人気漫画家」も「まだ単行本を1冊も出していない新人漫画家」も同じ本に載ります。売れる作品もまだ売れていない作品もセットで売っているんです。

 新人漫画家さんにとってはいいこと尽くめですよね。自分にはまだそんなにファンが付いていないけど、大人気漫画家さん目当てで雑誌は売れるので雑誌から原稿料をもらうことが出来ます。単行本を出す前は貴重な収入源です。
 また、大人気漫画家さん目当てで雑誌を買っている人から「へぇ、こんな新人漫画家がいるのか」と知ってもらう機会を得られます。名前が知られていない新人漫画家さんにとっては、作品を載せている場が宣伝媒体にもなっているのです。


 しかしこれ……「大人気漫画家さん」にはあまりメリットがないですよね。
 だから、「大人気漫画家さん」が「もう漫画雑誌に載せるのなんて辞める!原稿料なんて大してもらえないし、自分でダイレクトパブリッシングやった方が儲かるわ!」と漫画雑誌から逃げ出したら―――漫画雑誌も出版社も新人漫画家さんも、頼みの綱を失ってしまうことになるのです。



 冒頭で書いた「キンドルのせいで出版社がどーのこーの」という某漫画家さんのPOST、この記事を書き始めた時は「何を言っているんだこの人は」と思っていたんですが、書いてみたら180度変わってよく分かりました。仰るとおりだと思います。

 かつては、そんなに儲かっていないような個人商店でも身を寄せ合って商店街として並んでいればそれなりに食べていけたのに―――ウォルマートみたいな巨大資本の大型店が1つ出来たことで弱肉強食の世界になってしまい、地元の個人商店はどんどん潰れてしまった。みたいな話で。

 漫画雑誌がなくなれば漫画業界も「勝ち組」「負け組」に真っ二つに分かれてしまって、今まであったような多様性が失われ、「売れる漫画」だけが追求される時代になってしまうのでは―――そういう懸念は確かにあると思います。




 でも、それでも私は「それはキンドルのせい」ではないと思いますし。
 キンドルが来る前から「漫画は単行本だけでイイや」という「漫画雑誌不要論」はありました。

 漫画雑誌が売れない理由をキンドルにせいにするんじゃない!
 キンドルが来る前から漫画雑誌は売れなくなっていたじゃないか!!



 ……正直、自分は80年代とか90年代みたいに「漫画雑誌が売れる時代」はもう戻ってこないと思います。
 現代人のライフサイクルではやっぱり付いていける人が限られていますし、子どもがどんどんどんどんどんどん減っていますもの。団塊ジュニア世代が定年退職を迎えた頃に老人向け漫画雑誌を発行したら売れるかも知れませんが(笑)、それまで漫画業界が生き残っていけるかどうか。

 そうなると、「漫画雑誌に代わるもの」を考えた方が建設的だとは思うんですね。
 「漫画雑誌の原稿料」に相当する副収入を得る方法を考えるとか、「宣伝媒体としての漫画雑誌」に相当する新人が名前を知ってもらう場所を考えるとか、アシスタントを雇わなくてもハイペースで漫画を完成させる方法を考えるとか。



 これからの数年間は、「漫画業界の終わり」ではなくて「新たな始まり」にするための大事な数年間かもなーって思っています。


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| 漫画読み雑記 | 17:59 | comments:10 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

初めてカキコします。
キンドルの仕組みを理解しきれている訳ではないので素人考えですが、
日本では一定以上のシェアは得られないと思っています。

携帯ゲーム機でのDLCに限らず、キンドル等でのDL済みのものって
資産価値というか遺産としての価値が0に等しいですよね

確かに省スペースや携帯性に於いてメリットがある反面、
コレクター魂に訴求するという点等に於いて食指を動かす人は限られるかと。

まぁ司法書士事務所等に勤めていた所為かも知れませんが、
多くの個人情報を移動中に外からのアクセス可能な状態に置くのが嫌いなだけかも...

|   | 2012/11/09 18:55 | URL |

今、そこにある危機

 電子書籍で雑誌を読みたがる人は、ほとんどいないでしょうからね……

 物理的な本と違ってお気に入り作品の抽出が容易、というより、「わざわざ選択しない限り他の作品は1ページたりとも目に入らない」わけで。
 その環境で興味のない作品との抱き合わせ販売に金を払いたくなるかというと。

 一話単位で完成した端から連載される速報性という強みだけは残りますが。それすらタイトル別での切り売りが主流になってしまいそうな。
 しかしそうなってしまうと、マネジメント能力に長けた漫画家さんしか新人はデビューできなくなる……? それはそれで困ります。

| kanata | 2012/11/09 20:58 | URL |

冒頭だけ読んで、「いや、その漫画家さんが言いたいのはそこじゃないんですよ」とコメントしようと思ったら、結論が反論そのものだったので驚きましたw
>既に名前が売れている有名作家さんがダイレクトパブリッシングに行ったら出版社はヤバイ
これはその某先生が前々から言っていた問題提起です。

「漫画雑誌に代わるもの」としては、こんなものを講談社の社長と話し合ってるみたいです。
http://www.j-cast.com/mono/2012/11/07152928.html

私も漫画雑誌は購読していませんが、月額安価で読み放題なら登録したいですね。

| くらくら | 2012/11/10 10:09 | URL |

電子書籍に対する不安は、出版社、消費者でそれぞれ違うのでは?
●出版社
書籍の価格をサービス外社に決められ安価になった結果、紙媒体のときより中間搾取の割合が増えている→実質的に出版社側の取り分が減少している
刷部数を基準に自転車操業で行われている今の体制が維持できない→倒産が相次ぐ
●消費者
電子書籍に支払う対価は、「書籍」の購入権ではなく、「閲覧の使用権」の購入権にすぎない。サービス会社の意向で、一方的に閲覧不可になったり、追加出費させられる可能性がある。

出版社は「キンドルが来たから雑誌が売れない」と言っているのではなく、「電子出版の普及によって日本の出版体制は崩壊する」ことを危惧しているのではないでしょうか。「日本は出版点数が多すぎる。欧米並みで十分」と言うご意見もあるでしょうが、はたしてそれで日本のマンガ文化は持続できるのでしょうか。
まぁ、自分はそれほどマンガを読む方ではないので、雑誌どころか、マンガ自体が消えてもまったく困らないんですけれども(笑)。

| ああああ | 2012/11/10 12:00 | URL |

とりあえず未完作品が続出しそうなのは嫌かな。

| 児斗玉文章 | 2012/11/10 20:57 | URL |

団塊ジュニア向け漫画雑誌って、バンチがそれに近いのではないかと。
っていうかこの10年ぐらいでどの雑誌でも
団塊ジュニアが小~高校生の間に流行っていた漫画の続編が異様に増えたと思います。
きん肉マンⅡ世やエンジェルハートなどジャンプ系に始まり
マガジン系でもGTOやミスター味っ子Ⅱ、サンデー系ならファンタジスタステラが連載開始しましたし
少女漫画でもときめきミッドナイトやらボクを包む月の光などなど例を出せばキリがありません
出版社側としては団塊ジュニアの漫画離れを防ぐための手段でしょうが、
個人的には「売れなくなった大御所漫画家が昔の遺産でもう一回」のように感じれてなんか悲しいです。
キンドルなど電子書籍の話とは関係ない話で失礼しました。

| ACE | 2012/11/11 01:47 | URL |

少数意見かもしれませんがむしろ雑誌を電子書籍で見たいです
定期購読が簡単
かさばらない
処分が楽
ちょっとした合間に読みやすい

あとは気になった作品のコミックなどその場で購入手続きたり
雑誌単体か、もしくは何冊かの雑誌の中から数タイトルを
チョイスできる購入方法あったりしたら利用したいかな

いずれ電子書籍も広がることは間違いないでしょうから
漫画家さん関係者が排斥するのではなく上手く利用して欲しい

| ピッツ | 2012/11/11 07:23 | URL | ≫ EDIT

週刊少年マガジンに連載されてる漫画を全部読みたいという
マガジン大好きな人がもしいたとしても、
コミックスになるのを待って全部レンタルで借りたほうが安く済みます。

漫画雑誌というのはものすごく高価な媒体なのです。
値段そのままや多少の値引きで電子書籍にしてもうまくいかないと思います

| ああああ | 2012/11/11 08:15 | URL |

初めて、書きをさせていただきます。

1つ大きな勘違いをしておられますが、
大人気なのは「作家」じゃなくて、「作品」ですよ?

実際、大ヒットを飛ばした漫画家が、次に別の作品を描いても上手くいかない
ってのは、よくあることです。(キン肉マン系以外は、どれも長続きせず、
話題に上がることが少ない、ゆでたまごがいい例)

| ああああ | 2012/11/11 23:19 | URL |

生産体制の強化・簡略化はデジタルで進行する場合、出版社が背景データをアーカイブするとか、ストックを作って行くとかで解消できませんかね。

看板作家は恐らく後輩漫画家が育つのをある程度楽しみにしていたりもするでしょうし
恩に報いる部分もあるでしょうから、契約さえうまく行ってれば離脱して
自分でパブリッシングするなんて事を言い出さないと思うのですが、
(実際やってる人もいますね。)
雑誌が売れないとなると、新しい雑誌に変わるシステムを考える必要が出てくるんでしょうね。

| ねねっと | 2012/11/12 15:57 | URL | ≫ EDIT















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