やまなしなひび-Diary SIDE-

変わらない価値のあるもの

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娯楽を楽しめる能力と労力

 中学生の頃、クラスメイト(♂)に言われて衝撃だった言葉があります。
 「俺は頭が悪いから小説を読んでも面白くないんだよ」

 当時の自分は「自分が面白いものはきっとみんなが面白いと思ってくれるはずだ」と思っていて、自分の大好きな漫画を友達に「○○面白いよ!」と教えたり、好きなゲームを「やってみなよ!」と貸したりしていて、その一つとして自分が好きな小説を彼に薦めたんだったと記憶しています。


 ここで彼の言った返答がもし「俺、あんま小説を好きじゃないんだよ」とか「面倒くさいから遠慮しておくよ」とかだったら、恐らく自分は「コイツは分からないヤツなんだ」「食わず嫌いをしているだけだ」くらいにしか思わなかったでしょう。
 そういう意味では、自分の考えが変わるきっかけをくれたのは彼だったのかも知れないと今更ながらに感謝の気持ちが出てくるんですが……



 彼は「自分には小説を楽しむ能力がないんだ」と言ったのです。
 「本来ならそれは面白いはずなのに」「自分の頭が悪いせいでそれが分からないんだ」と。



 「頭が良いから小説を楽しめる」「頭が悪いから小説を楽しめない」
 ここには私は異論があります。頭というのは単純に「良い←→悪い」で語られるものではないと思うからです。向いているもの・興味があるものがそれぞれ違うだけだと思うのです。

 しかし、「小説を楽しむには能力が必要だ」というのには同意です。
 文章から風景を思い浮かべる力だったり、単純に言葉をどれだけ知っているかだったり、登場人物にどれだけ感情移入できるかだったり。「たかが文字の羅列」からストーリーを読み取るのにはそれなりの能力が必要だと思うのです。

 当然、自分にだって「難しくて面白さが理解できない小説」はたくさんあります。
 だから、彼が言ったことは他人事ではないのです。


 もう一つ。
 これは現在の自分だから言えることなのですが、「能力」の他に「労力」をかけられるかということも、それを楽しむためには必要なのだと私は思っています。
 例えば自分が小説を読む場合、結構ガッツリ「脳を使う」感覚があるんです。文章からストーリーを読み解くために。だから「ちょっと5分の休憩」とかでは読めません。最低でも20~30分、本と向き合って「さぁ!読むぞ!」と気合を入れて読む時間が必要なんです。

 そして、前まで読んでいたことを忘れない内に(2~3日中に)続きを読める環境でもないとダメだし、これを生活サイクルの中に入れ込んでいる人は何の問題もないのだけど、そういう習慣がない人がいきなりやるのは難しいだろうなとも思うのです。





 当然、これは「小説」以外にも言えることです。

 全ての「娯楽」を楽しむには、それぞれの娯楽に合った「能力」と「労力」が必要なんです。

 例えば「漫画」を楽しむ「能力」。
 読める人間にはそれが当然なことなのですが、「たかが絵を並べているだけ」の紙からストーリーを読み解くには「どういう順番で読めば良いのか」を知っていなければなりません。子どもの頃から漫画をほとんど読んだことがないまま大人になると、「どのコマから読めばイイの?」って人が実は結構いるんですよね。

 例えば「ラジオ」を楽しむ「能力」。
 ラジオで「○○に行ってきたんですよー」というフリートークを聴いて、「たかが言葉」から「どこに」「誰が」「何人で」「何をしに行っているのか」を正確に把握するのは慣れていない人には難しかったりします。それこそ「小説を読んでも情景が浮かばない」みたいな話で、他人のフリートークを楽しむにはある程度の「能力」が必要だと思うのです。


 じゃー、映像化されている「映画」とか「ドラマ」とか「アニメ」ならば誰にでも楽しめるかというと……確かに視覚化されることで「情景がイメージ出来ない」ことはなくなりますし、ボーっとしているだけでもストーリーは進むハードルの低さはあると思うんですけど、演出とか構成をちゃんと理解して楽しめるかどうかはまた別の話ですよね。


 『けいおん!』は“仲間”を描き、『かなめも』は“孤独”を描いた
 『けいおん!』&『けいおん!!』アニメで真鍋和に与えられていた役割を考える
 アムロ・レイは誰を殺すのか


 この辺はウチのブログで書いた「アニメの解説記事」で評判の良かったもので、「あの描写にはそんな深い意味があったんですか!」とか「このアニメがそんな深いアニメだとは思いませんでした!」といった感想をいただきました。
 それはとっても嬉しいことですし、それぞれの作品の魅力が少しでももっと伝わればなぁと思って書いているのだから、書いた甲斐があったというものなのですが―――逆に言うと、解説記事がないと伝わっていない人も結構いるってことなんですよね。


 それはね。
 別に「私がとても頭の良い人間だから作品を正確に理解できるしこんな解説記事が書けるんだ」なんてことではありません。謙遜でもなんでもなく。だって私、これらの記事を書くために1つの作品を何周も観ているんですもの。

 1回目はただ何となく楽しむ、2回目を観ると「あれ?このシーンってひょっとしてあのシーンと繋がる?」と思う、3回目でそれを確認して、4回目で「どういう順番で説明したらそれが伝わるか」を考えながら観る―――ただ単に「労力」をかけているだけなんです。




 私の大好きなラジオ番組のパーソナリティの一人に、ライムスターの宇多丸さんという人がいて。彼の「シネマハスラー」という映画評論コーナーは大人気なんですけど―――
 彼の評論を聴くと、昔からとてつもない量の映画を観ていたことはもちろん、評論する映画を3回観るのなんて普通、前作や原作がある場合はそれらも当然チェックして、同じ監督の今までの作品も観て、インタビュー記事とかにもなるべく目を通して、それだけの「労力」をかけて実際に喋るラジオのコーナーは30~40分ですよ。費用対効果とか、気にしたらやっていけない世界の話です(笑)。


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 中学時代のクラスメイトは、私にこんなことを言ったなんて覚えていないでしょう。
 しかし、私はこの言葉を忘れないように定期的に思い出すんです。

 「俺は頭が悪いから小説を読んでも面白くないんだよ」


 どんなに面白い作品を作っても、「知ってもらわなければ」伝わりません。
 知ってもらえたとしても、「その人の趣向に合わなければ」気に入ってもらえません。

 しかし、自分が「オマエはきっとコレを面白いと思うに違いない」と確信を持って薦めても、「能力」と「労力」がなければ楽しんでもらえないということがあるのです。それを忘れてはいけないと定期的に思い出すのです。



 色んな人間がいるから、一人一人「磨いてきた能力」と「かけられる労力」は違う。
 映画大好きな評論家の人が「どうしてあんな薄っぺらい映画が受けているんだ!」と言う度に、そりゃアナタは職業だから映画に労力をかけられるけど、大半の人はそんなに労力かけられないよ……と思ってしまうのです。

 私も、このブログを読んでいる皆さんに向かって「このアニメは面白いから4周は観なよ!」なんて言えません(笑)。
 それならば、やることは―――「1周だけ観た人」に向けて「4周観た自分」が解説記事を書くことだろうと思うのです。その作品の魅力が少しでももっと多くの人に伝わるように。

 当然、私だって全部のアニメを4周観る労力があるワケじゃありません。
 1周だけ観て「ちょっと……どこが面白いか分からなかったな」と思う作品はあります。そういう時は、他の「労力をかけている」人の解説記事を読めばイイだけなんです。そうして自分の足りない部分を補い合っていけばイイんです。
 それはもちろんアニメだけの話じゃなくて、ゲームなんかはまさにそうですよね。ただ一つ「ここはこうすればイイんだよ」と教えるだけで面白さが分かるのに、それを知らずに「自分には向いていない」と放り出されてしまうゲームがどれだけあったことか――――



 「この作品の良さが分からないなんて世の中はバカばっかだ!」とか、
 「あんなつまんない作品が売れるなんて碌なもんじゃない!」とか愚痴るよりも、よっぽど建設的で、誰かを敵に回して不快な思いをさせることもなく、幸せな人を増やす道だと思うのです。







 そういう意味ではやはり、中学時代のクラスメイト(♂)に感謝です。
 ちなみに、その彼とはその後色々あったので、彼は私の携帯電話の番号を着信拒否にしています。まー、そんなもんです(笑)。


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| ひび雑記 | 17:59 | comments:3 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

忘れない

前回までのことを忘れないようにしなきゃならないから億劫になるってのは、大作RPGなんかはもっとそんな感じですね。
その時の気持ちに戻るのは、いったん忘れてしまうとなかなか難しいですし。

| 児斗玉文章 | 2013/01/16 19:02 | URL |

へー、面白いの?
けど…めんどくさそうだからいいや…
みたいな?

| ああああ | 2013/01/24 21:00 | URL |

言いたいことは分かります。
批評だけでなく、作品自体にもおっしゃるような現象が生じると思います。
つまり、一回だけ観覧する視聴者は、製作者に対して「よくこんなもの思いつくな」という感想を抱くでしょうが、その一回分の視聴時間とは比べものにならないほどの試行錯誤のうえに、作品というものは成立しているわけです。
見落としてしまいがちな部分ですね。

| 名無しさん | 2013/02/04 10:29 | URL | ≫ EDIT















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