やまなしなひび-Diary SIDE-

変わらない価値のあるもの

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

猿はどうすれば蟹に勝てたのか

※ この記事は『さるかに合戦』のネタバレを含みます。閲覧にはご注意下さい。



 先週のTBSラジオ『バナナマンのバナナムーンGOLD』で読まれたメールで、「「さるかに合戦」というタイトルの昔話があるけど、猿は事態を飲み込めずに一方的に袋叩きにあって殺されてしまうのでちっとも“合戦”という印象はしない。タイトルを「蟹の敵討ち」とかにするべきだ」といったカンジのメールがあって。

 すごく膝を打ったとともに、自分がどうしてこの『さるかに合戦』という話が苦手だったのかが分かりました。そうなのです。これは“合戦”ではないんです。“リンチ”なんです。


【合戦(かっせん)】
 敵味方が出会って戦うこと。戦い。 「関ヶ原の-」

【リンチ〔lynch〕】
 法律によらないで,民衆や団体内において行われる暴力的な私的制裁。私刑。 「 -を加える」

excite辞書より引用


 『さるかに合戦』の話を知らない人もいるでしょうから、簡単にあらすじをまとめます。
 時代や地域によって登場人物や結末が違うなんて話もありますが、私が知っているのは以下の通り。

 蟹がおにぎりを持って歩いていると、猿が「この柿の種とそのおにぎりを交換してくれ」と頼んでくる。「おにぎりは食べたらすぐなくなってしまうが、柿の種は大切に育てればたくさんの柿の実を付けるので将来的には得だぞ」と。
 言われた通り、蟹は柿の種と交換してこれを大切に育てた。やがて柿の木は育ちたくさんの実を付けたのだが、蟹は木に登れないので食べられない。木登りが得意な猿に頼んで獲ってもらおうとするが、猿は自分で柿を食べてしまい、ちっとも蟹に渡してくれない。それどころかまだ熟していない青くて堅い柿を蟹に投げつけてきた。

 蟹は死んでしまった。

 そのことを恨んだ蟹の子どもは仲間を集めて、猿に復讐をすることにした。
 栗、臼、蜂、うんこの4人である。
 ある夜、彼らは復讐を果たすために猿の家に忍び込む。罠が仕掛けられているとも知らずに帰ってきた猿は、まず囲炉裏で暖まろうとするが飛び出してきた栗の攻撃を受けて火傷を負ってしまう。慌てて水で冷やそうとするが、今度は桶から蜂が出てきて猿は刺されてしまう。異変に気付いて外に逃げようとした猿の足元をうんこが襲い、猿は転倒してしまう。そこに臼が落ちてきて、猿は殺されてしまうのであった。

 めでたしめでたし。







 歴史というのは、「勝者が語るもの」です。
 ある権力者をある者が倒し、新たな権力者になった場合―――新たな権力者は「アイツはこんな横暴なことをしていたんだ」「だから私が倒したんだ」「私は正しい」と歴史を作り上げるのです。歴史というのは必ずしも真実を指すとは限らないのです。


 蟹もそうです。
 「横暴だった猿」も「それに困っていたみんなで団結したこと」も「それによって猿を打倒して村が平和になったこと」も、真実かどうかは分かりません。蟹が自身の行ったリンチを正当化するために、「猿はこんな横暴なことをしていたんだ」というストーリーを作り上げただけかも知れませんし、タイトルに『合戦』と付けて誤魔化しているところなんて怪しさ満点です。

 『合戦』という言葉の響きでは、正々堂々と向き合って「いざ!尋常に勝負!」と戦いを挑んだかのように思えますが。実際には、猿の家に不法侵入して待ち伏せ、何も知らずに帰ってきた猿に総攻撃をしかけて殺すという残虐極まりない卑怯で姑息な敵討ちでしかありません。


 そうした真実に気付いた司法権力によって子蟹達は裁かれた―――なんて説もありますが、子蟹がその後どうなろうが、亡くなった猿の命は戻ってきません。彼は何故自分が殺されたかも分からず死んでいったのです。何たる無念。



 自分がこの『さるかに合戦』という話が好きになれないのは、毎回「何も知らずに殺されてしまう猿」の方に感情移入してしまうからです。仕事から帰ってきて、一日の疲れを癒そうと暖を取ろうとした瞬間という“最も安心しきっている”状態で突如殺されてしまう……こんな悲惨な最期がありますか。

 その上、それが「因果応報」「悪いことをした者は成敗されて当然だ」「めでたしめでたし」みたいな美談として語り継がれていくんです。それが、私には口惜しかったのです。


 だから、考えたいのです。
 猿はどうすれば蟹に勝てたのか?


さるかに合戦 (まんが日本昔ばなし)さるかに合戦 (まんが日本昔ばなし)
川内 彩友美

講談社 1999-10-18
売り上げランキング : 274772

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 ほら、このアフィリエイト画像↑を見てくださいよ!
 蟹はファンシーで可愛らしい絵で描かれているのに、猿は如何にも意地悪そうな凶悪な人相で描かれていますよ。これが“印象操作”でなくて何だと言うのですか!




 さて、本題です。
 猿が「子蟹連合軍」に勝つためにはどうすれば良かったのか―――まずは戦力のおさらいから入りましょう。

【猿軍】
・猿

【子蟹連合軍】
・子蟹
・栗
・蜂
・臼
・うんこ


 一見すると「多勢に無勢」ですが、戦闘能力の高さだけで考えれば「猿」がダントツで高いとも言えます。

 猿には手足があり、高いところにも登れ、柿を持って投げつけられるだけの器用さがあります。
 それに引き換え、子蟹連合軍の寄せ集め感といったらないでしょう。子蟹の戦闘能力を親蟹と同じだと仮定すると、子蟹は木に登れませんから、猿が木に登れば子蟹は手も足も出なくなるんですね。それどころか、栗と臼とうんこにはそもそも手足がありません。彼らは武器を持つことが出来ないんですね。じゃあどうやって移動してんだよというのは一先ず置いておく!

 猿の戦法としては、臼がいる屋根より高い木に陣取って敵の頭上から何かを投げつけるというのが一番でしょう。また、移動の際にもなるべく地上に降りず、木から木へと飛び移るように移動するべきです。
 唯一、猿にとって脅威になりそうなのは蜂ですが、蜂の攻撃力では猿に致命傷を与えることは出来ません。

 なので、子蟹連合軍の戦略としては、蜂は「猿の冷静さを欠く」ことに使うんですね。トドメを刺すほどの攻撃力はないので、最も小回りが必要な「二撃目」として配置してあるのです。



 一方的な「リンチ」であった『さるかに合戦』ですが、子蟹連合軍側の視点で考えると「圧倒的な戦力を誇る敵に向かってそれぞれの長所を活かした戦略を練って綱渡りの勝利をする」ストーリーと言えるんですね。『ドラゴンボール』で大猿べジータにクリリン達が立ち向かったのとか、『ハンター×ハンター』の爆弾魔戦に近いのかも知れません。





 こう考えれば、「どうすれば猿は勝てたのか?」は簡単ですね。
 “密告者”がいれば良かったんです。

 用意周到に準備された奇襲を受けたからこそ子蟹連合軍に敗れただけなので、「アイツら何か企んでいるらしいぞ」という情報さえあれば猿は負けることはなかったんです。
 「子蟹」「栗」「蜂」「臼」「うんこ」の5人の内の誰かを内通者に出来ればベストですが、子蟹が狡猾で姑息なヤツだということは先ほど散々書いていたので、恐らく「この5人」をセレクトした時点で絶対に裏切り者が出ない5人にしてあると思います。

 とすると、この5人が集まって密会をしている段階で、「オマエに恨みのある者達で集まっているらしいぞ」と教えてくれる人が必要だったワケです。猿からしても、つい先日親蟹を殺してしまったワケで、何事もなくその後に平穏な日々を送るんじゃなくて、警戒しておく必要があったと思うのです。
 そもそも親蟹を殺してしまった罪を子ども達に償わなきゃならないし、近所の人達にもあれが不慮の事故だったことをちゃんと説明しなければならなかったと思うんです。でなければ、猿は村の中で孤立してしまい、何かの時に助けてくれる人がいなくなってしまうんです。それが“人間社会”なんです。


 親の蟹を殺してしまったことは仕方がないことだと思います。
 これは私達にも当てはまる話なのですが、私達はいつ加害者になるか分からずに生きているのです。何かの拍子で、当たり所が悪くて、人の命を殺めてしまうことがあるかも知れません。そうならないのが一番ですが、そうなってしまった時にどうするべきかを猿は考えなさすぎたと思うのです。




 例えばです。
 猿が所帯を持っていたとすれば、子蟹連合軍の家への不法侵入など防げたでしょう。

 しかし、猿も私と同様にモテナイ男だったとすれば、「結婚が出来なかったから殺されたんだ」ということになってしまい、それではあまりに救いがありません。モテナイ男だから不幸になってイイなんて物語を私は認めるワケにはいかないんです。

 なら、やはり「近所の人」達と連絡を蜜にとることで、夜襲されにくいセーフティネットワークを作っておくべきだったと思うのです。子蟹連合軍が侵入した段階で近所の人が気付いたかも知れませんし、子蟹連合軍の心理としても「近所の人達がすぐに駆けつけてくる」と分かっていたらこんな計画は立てられなかったでしょう。



 結論:「ご近所づきあい」をちゃんとしていれば猿は蟹に勝てた


 人と人との繋がりって大事なんですね!


絶対嫌われない断り方 仕事・恋愛・近所づきあい (ゴマ文庫)絶対嫌われない断り方 仕事・恋愛・近所づきあい (ゴマ文庫)
内藤 誼人

ゴマブックス 2008-01-05
売り上げランキング : 81777

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

| ひび雑記 | 17:53 | comments:6 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

 先生! 理想的なご近所づきあいなんてできていたら、端から苦労してません!

| kanata | 2013/01/29 18:40 | URL |

近所付き合いという名のコミュニケーションが取れるようなら、勝ち負け以前にいさかいも起きなかったんじゃないかと思いますがねぇ。

| タジョー丸 | 2013/02/01 22:46 | URL |

近所づきあいはしてたんでしょう。
猿と蟹もお互いに頼みごとをして助け合う間柄だったものと思われます。

| 児斗玉文章 | 2013/02/02 06:48 | URL |

本当に不慮の事故だったんですかね?猿は蟹を馬鹿にした挙句、蟹に柿をぶつけてその結果死人(人じゃないけど)が出たんですよね。
話の題名を「蟹の仇討ち」にすれば良かっただけでは?
全体的に納得がいかないなあ。

| hoy | 2013/02/02 15:49 | URL |

面白かった

| 。。。 | 2013/07/01 02:35 | URL |

何の気なしに立ち寄った大洗の歴史博物館所蔵の国語の教科書。そこに記載されてた「猿蟹合戦」そのあまりに凄惨な結末。臼に潰されるのみならす、蟹にトドメを以下検閲

| Georva | 2014/04/21 22:43 | URL | ≫ EDIT















非公開コメント

TRACKBACK URL

http://yamanashirei.blog86.fc2.com/tb.php/1508-6fba3831

TRACKBACK

PREV | PAGE-SELECT | NEXT