やまなしなひび-Diary SIDE-

変わらない価値のあるもの

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真にセルを倒したのは誰だったのか

※ この記事は漫画版『ドラゴンボール』全編のネタバレを含みます。閲覧にはご注意下さい。

 定期的に書きたくなる『ドラゴンボール』話。
 定期的に書いているので御存知の方も少なくないと思うのですが、私は『ドラゴンボール』の中で「人造人間編」があまり好きではありませんでした。
 後出しジャンケンのように「もっと強い敵」が現れ、それに対抗するようにこっちもパワーアップしてインフレバトル化していくし。一貫したテーマのようなものがあるワケでもないし。ピッコロと神様の融合とか、16号とか、「何のためにあったんだ、あの展開……」と思わなくもないものも多いし。


 そう誤解していました。


 ちょっと前にTwitterで何人かの人と『ドラゴンボール』の話をしていまして、自分がそれまで全く気付かなかったことを教えてもらいまして、「人造人間編」の見方が180度変わったのです。実はあの「人造人間編」ってものすごく深い一貫したテーマがあったんだ、と。





 『ドラゴンボール』「人造人間編」が描いているものは、「決して未来は変えられない」ということなんです。
 トランクスが未来からやってきて、次々と歴史に介入していき、「未来を変えてしまった」と本人は思っているのだけど――――実はほとんど未来は変わっていなかったんです。トランクス自身が全く気付いていませんでしたが、「トランクスの知っている未来」と同じ結果になっていったんです。



 Twitterで教えてもらったのは、悟飯は「トランクスがいた未来」でも「セルゲームが行われた現在」でも“同じように左腕を失っていた”ということ。前者は人造人間17号・18号(19号・20号)との戦いで、後者はセルとの戦いで失い、どちらの場合も「仙豆がないので治せない」と言われるのです。


 思い返してみると、この「人造人間編」は同様のことがたくさん起こっています。

 例えば、「悟空の心臓病」
 「トランクスがいた未来」ではコルド大王の襲来から間もなく発症して悟空は死んでしまうのですが、「セルゲームが行われた現在」では人造人間が現れるまで発症しませんでした。なので、悟空も悟飯も「トランクスが来たことで未来が変わったんだ」と心臓病にはならないと勘違いしたのですが、3年遅れで発症してしまいます。「未来を変えることは出来なかった」んです。


 そうは言っても、トランクスの持ってきた特効薬によって、悟空は死なずに済みます。これこそトランクスが未来からやってきたことで「未来が変わってしまった」とも思えるのですが、その後セルの自爆に巻き込まれて悟空は死んでしまいますよね。死に方は違うけれど、悟空はどちらの世界でも死ぬんです。「未来を変えることは出来なかった」んです。





 のび太がジャイ子と結婚した場合でも、しずかちゃんと結婚した場合でも、孫の孫にあたるセワシ君は同じようにちゃんと生まれる――――という『ドラえもん』理論なんです。
 東京から大阪に向かうのは、陸路で行っても海路で行っても大阪には着くだろう、という『ドラえもん』内で説明された時は「なんじゃそりゃ」と思ったのですが。『ドラゴンボール』内で描かれているのを見ると、何となく分かります。歴史を対処療法のように変えても、必ず回りまわって同じ未来になってしまう、という。



 「17号・18号の性格が全然違う」問題もコレで説明が付きます。
 「トランクスがいた未来」では殺戮を楽しむような残虐な性格でしたが、「セルゲームが行われた現在」では極力人を殺さずにゲームを楽しむような性格でした。むしろ巻き添えでトラック運転手を殺したのはべジータでしたし。

 「トランクスがいた未来」とは違って、「セルゲームが行われた現在」では17号と18号は放っておいても世界をムチャクチャにするようなことはなかったと思われます。実際、数年後の彼らを見ても世界に溶け込んで平穏な生活をしていますしね。

 しかし、セルが現れた。

 17号と18号自身は世界の脅威ではありませんでしたが、彼らを吸収して完全体になったセルは世界の脅威でした。「世界中の人間を殺す」ことを公約にセルゲームを開き、恐怖におののく人々を眺めることを嗜好としていました。やはり「未来を変えることは出来なかった」んです(※1)


(※1:人造人間19号と20号が17号と18号になっていた問題は、鳥山先生も途中で忘れてしまったみたいなんで考えないことにします・笑)




 トランクスに教えられた情報により、人造人間と対抗するためにべジータ達は修行をして強くなりました。
 修行を重ね、べジータは超サイヤ人になり、ピッコロは強くなった上に神と融合して、悟飯は「超サイヤ人を超えた超サイヤ人」になることが出来ました――――でも、彼らは死ぬんです。
 「トランクスがいた未来」では17号と18号に殺されましたが、「セルゲームが行われた現在」ではセルにまとめて殺されるはずだったんです。悟空は死に、仙豆も失い、悟飯は左腕を失い、べジータも瀕死の状況に追い込まれていました。やはり「未来を変えることは出来なかった」……となるはずだったんです。




 しかし、実際には「未来は変わりました」。
 決して未来を変えられないはずの世界で、何が未来を変えたのか――――それを考えた時に、自分は今まで「人造人間編」に抱いていた印象が180度変わったんですね。
 この「人造人間編」は単なる「敵も味方もどんどんパワーアップしていくインフレバトル」の話ではなかったんです。むしろ、そのインフレバトルに取り残されてしまった者達の物語だったのです。



 「人造人間編」の真の主役は、
 トランクスとべジータ親子だったんです。


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 トランクスは未来から「未来を変えるために」やって来ました。
 悟空に心臓病の特効薬を渡したり、人造人間が現れる時期と場所を教えたり……絶望的な未来を知っているから、それに対処する方法を持ってやって来たんですね。しかし、それでは「未来を変えることは出来なかった」のです。

 悟空の心臓病は発症してしまったし、17号と18号はべジータ達が強くなった分だけ更に強くなってしまったし、セルという更なる脅威もやってきてしまったし、悟空は結局死んでしまいました。トランクスが変えようとした「絶望的な未来」は、ほとんど変えることが出来なかったんです。



 しかし……
 「変わったもの」はありました。

 トランクスは変えようとはしませんでした。むしろ、腫れ物に触るように遠ざけて核心に触れないようにしていたほどです。トランクスはべジータに、「自分がべジータの子であること」を名乗らなかったんですよね。ピッコロが名前を呼んだのを、たまたまべジータが聞いてしまって気付いただけで。

 その後、「オマエがトランクスなことを知らないのはべジータだけだ」と言っていたのに、いつの間にかみんな普通にトランクスをトランクスと呼んでいたし、べジータも「トランクス」って普通に呼んでいるのは何なんだとは思うのですが(笑)。


 少なくとも、トランクスは自分からべジータと仲良くしようとはしなかったんです。
 自分がずっと「敵も味方もどんどんパワーアップしていくインフレバトル」だと思っていた展開に、トランクスがべジータを超えたと思っていたけど気を遣ってそれをべジータには言えなかったけど勘違いだった―――というものがありますが。あれも「父と子のすれちがい」だと考えれば納得がいきます。
 人造人間編の、どんどん新しい敵が出てきて、こっちもパワーアップして、でも敵もどんどん強くなってという展開は、「トランクスとべジータの縮まりそうで縮まらない距離感」を表していたように思えるのです。




 でも、べジータは変わった。
 トランクスが意図的に変えようとしたワケではありません。
 親と子がすれちがい、衝突しあい、それでいて親も子も「悟空と悟飯の親子」には適わず……「敵も味方もどんどんパワーアップしていくインフレバトル」にいつの間にやら二人とも置いていかれたのです。でも、強くなることだけが成長ではない――――

 繰り返される敗北の中で、べジータは「トランクスが殺され」初めて逆上してセルに特攻を仕掛けます。一見すると、それが悟飯を窮地に追い込んだようにも見えるのですが、パワーでは圧倒的だったセルを倒すたった一瞬のチャンスを作ったのは紛れもなくべジータでした。あの瞬間、べジータは父親になったのです。





 コルド大王というキャラがいます。
 「人造人間編」のプロローグで、フリーザの父親として現れトランクスに瞬殺されてしまう彼です。彼は我が子であるフリーザを殺されても、「フリーザのかわりに我が子にならないか」と勧誘していました(※2)

(※2:今思うと、あの描写も「歴史が変わって悟空が間に合わなくても、トランクスがコルド大王達を皆殺しにするので未来は変わらない」という描写だったんですね)


 べジータもかつてはそちら側の人間でした。
 ラディッツが殺されても「役立たず」扱い、ナッパに至っては「無能な仲間はいらん」とばかりに自ら殺してしまうほどでした。数少ない同胞も見殺しに出来る人間でした。
 変わったのはトランクスと出会ったからなんです。トランクス自身は気付いていないけれど、トランクスが未来からやってきて唯一「変わった未来」はべジータだったんです。




 「人造人間編」のラスト、未来に戻ったトランクスがブルマと話すシーンがあります。


トランクス「父さんはやっぱり母さんのいったように、ただの冷たい人じゃありませんでした……オレがセルにやられたとき、真剣になって怒ってくれたんです」

ブルマ「で、でしょ!?だから、そういったじゃない!」
 (へ…へぇ~あのべジータが……あいつ、そんな一面もあったんだ…)



 トランクスは気付いていません。自分との出会いがべジータを変えたことを。
 こっちの世界のブルマは知りません。トランクスとの出会いでべジータは変わったことを。


 魔人ブウ編で、べジータがあんなにも親バカキャラになっていたのも当然ですよね。
 べジータはあの瞬間、父親になったんです。



 そう考えると……「人造人間編」のプロローグが、強さを求める親子フリーザとコルド大王から始まり。エンディングが、強さ以外のものを手に入れた親子トランクスとべジータで終わるというのは“圧巻”の一言です。単なる「敵も味方もどんどんパワーアップしていくインフレバトル」だと思っていた自分が恥ずかしいほどです。

(関連記事:コルド大王は“旧世代の象徴”だったのだと今更ながらに気付きました




 しかし、これだけ熱く語ってきた自分も。
 こういう一連の話が全て計算されて描かれたとは思えず、「鳥山先生が毎週“面白いもの”を考えて描いていたら、奇跡的にそういう風にキレイにまとまった」としか思えないという辺り。鳥山先生の人徳というか天才っぷりというか奇才っぷりというか、こういう作品を狙っては作れないよなーと思うばかりなのでありました(笑)。


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| 漫画読み雑記 | 17:56 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

そういえば……

なるほど、悟飯の左腕の件については知っていましたが、こういう見方もできるのですね。
曖昧な記憶なのですが、現代の世界がトランクスの未来と異なる歴史を歩んだキッカケは未来のトランクスがフリーザ一味を皆殺しにした事だ、と聞いたことがあります。
なんでも本来のトランクスの世界の歴史では悟空はメカフリーザとコルド大王の部下の中で命乞いをした者はトドメを刺さずに逃がしていたそうです。
その時悟空が見逃した連中は結局虐殺などの悪事を行い、Z戦士にやられるのですが、この悪事がウイルス性心臓病の流行を早めたり、17号、18号の姉弟の性格が悪党化する原因になったりしたのだと言う話です。
非常に筋の通った話であり納得した覚えがあります。

また、PSPで発売されたゲーム「真武道会2」ではセルを倒した未来世界にもブウとバビディが現れ、タイムマシンで駆けつけた現代世界の悟空たちや老界王神から命を貰い復活した未来悟飯、占いババの力で一時帰還したパイクーハンやバーダックによる連合軍が、こちらの世界では倒されていなかったブロリー、クウラ、ジャネンバの力も得て超パワーアップを果たしたブウと一大決戦を繰り広げるエピソードが収録されていました。
この考察と絡めると非常にしっくりくる、感慨深いものを感じます。
(ちなみに一作目にはセル編終了直後の世界からタイムスリップしてきた少年悟飯が地獄から甦ったセルとの再戦で発狂してしまうエピソードなんてのがあるのですが、二作目では未来悟飯が人造人間に敗れて死亡した後、あの世で発狂していたと言うトンでもない設定になっています……。)

| ホームズ | 2013/06/18 23:54 | URL |

DB考察

>>やまなしさん
大変興味深く読ませて頂きました。
ドラゴンボールの話は単純そうに見えて、考察すると奥が深いですよね。特に人造人間編は。
「悟飯は「セルゲームが行われた現在」でも左腕を失っていた」というのは最近自分も知りました。
(自分は、鳥山先生自身による未来の悟飯へのオマージュ、あるいは暗示的なものだと感じていましたが)
「悟空が結局死んでしまう」「17・18号が世界に与えるハズだった恐怖はセルが行った」というのは、コチラの文章を拝見して気付きました。
また、「トランクスがベジータに影響を与えて未来が変わった」という考察は面白いと思います。
つくづく、DBの物語の奥行の広さはすごいですね。


ところで、文章を拝見して少し気になったことがありました。
「トランクスがベジータに影響を与えたせいで、悟飯が片腕を失った。」ということです。
未来変わったけれど、本来の歴史どおりになりそうだった部分ですねw

他にも、※2の『今思うと、あの描写も「歴史が変わって悟空が間に合わなくても、トランクスがコルド大王達を皆殺しにするので未来は変わらない」という描写だったんですね』という部分が気になりました。
あれは悟空が瞬間移動で到着して一味を倒すハズだったところを、トランクスが(悟空が間に合わないと)勘違いして倒してしまったということなので、「トランクスが歴史を改変してしまったという描写」だと思います。
さらにこれが原因で、悟空の心臓病の発病が遅れることになるわけです。


また、トランクスが悟空たちに未来の情報を与えたせいで17・18号のロールアウトが早くなって性格が穏やかになったりと、結構トランクスは未来を変えていますね。


それを帳消しにしたのが、同じく未来からやってきたセルだというのもストーリーとしての妙ではないでしょうか?

| kz_tk | 2013/06/19 21:29 | URL | ≫ EDIT

トランクスが未来に帰った後も魔人ブウに地球人もZ戦士も皆殺しにされているので、確かに未来は変わってないんですよね(寧ろ悪化してるかもしれない)。ドラゴンボールがあるから元に戻せたというだけで。

ただ、ベジータがトランクスのお陰で変わってなければドラゴンボールを使ったときにバビディも生き返っていただろうし、ベジータの功績は大きいですね。

| ななしのよっしん | 2016/04/28 22:22 | URL |

トランクスがいたずらに過去を変えたくなかったから、
間に合わないなら俺が、って言ってましたね
歴史変わるか変わらないかはその人の意志の問題ですよ
(まぁパラレルだけど)
で、セルは変えたがるほうの存在だった
そうやっていろいろ感化しあったわけだね

ちなみにトランクス殺されてからの逆上ベジータの攻撃はほぼ効いてなくて悟飯を窮地に追い込んだ行為そのものでしたけど、
御飯が片腕でかめはめ波を撃つ気になってセルもそれにのって超かめはめ波対決になったときに、
「エネルギー弾でスキを作ったのがベジータだった!」ですね あれは御飯への贖罪もありますね多分 直前に すまんな御飯 ですからね
ベジータはきっとここで孫親子に対しての感情が大きく変わったんでしょう
私はそうとれると思ってます

| ああああ | 2016/08/02 08:44 | URL |















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