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今ならばラストまで一気に読める幸せ。『鋼の錬金術師』全27巻紹介

 この夏から「自分が読んだ漫画をオススメする」ということを始めるとは言ったものの、まさかこんなドメジャータイトルを紹介するだなんてと自分でも思うんですが。


鋼の錬金術師全27巻 完結セット (ガンガンコミックス)

 この作品は2001年から2010年まで月刊少年ガンガンで連載されていた漫画で、大ブームになった1度目のアニメ化は2003年~2004年に放送されていました。2009年~2010年に2度目のアニメ化はされてはいるものの、若い世代の中には2003年頃の大ブームを知らない人も多いんじゃないかと思ったことと。

 あれだけ大ブームになったからこそ、「後から入りにくい……」と躊躇した人もいるだろうし。作品自体は観たことないけどイメージで「中二っぽい作品なんでしょ?」とか「同人人気の高いヲタクっぽい作品なんでしょ?」という偏見を持って手を出していないって人もいるだろうし。


 長期連載がゆえに、「最初の頃は追いかけていたんだけど途中で脱落しちゃったわー」という人も多いんじゃないかと思ったのです。というか、私がそうでしたし。



 この漫画は、たくさんの登場人物が別々に行動して事態が予測不能な方向に展開していくため「前の巻の内容を覚えていないとサッパリ分からない」ところがあって。新刊が出る度に1巻から読み返していたのですが、10巻を超えた辺りから「1巻から読み返す時間が足りない!」ということになって……
 結局、14巻で脱落して15巻以降は読んでいませんでした。「時間が出来たら一気に読もう」と全巻購入はしていたんですけどね。



 でも、同じ作者の作品である『銀の匙』がこの夏にアニメ化されて。
 これが凄く面白くて。やっぱり自分はこの作者が描く“世界”がすごく好きなんだなーと思い、本棚に置いてあった全27巻を一気に読んだのです。すげー面白かった!3年遅れくらいの話題なんだろうけど、すげー面白かった!


 この作品を全く知らない人も、この作品を知っているけど敬遠していた人も、この作品を読んでいたけど途中で脱落してしまった人も―――完結した今なら一気に最後まで読めますんで、そういう人達に向けて紹介記事を書こうと思います。




1.「錬金術」とはなんぞや
 この作品は「バトル漫画」です。
 この作品における「錬金術」は、他のバトル漫画における「魔法」とか「超能力」とか「スタンド」とか「念能力」みたいなものです。もちろん元々は学問なのだけど、それを応用してバトルに使い、このキャラは炎を練成して戦う「焔の錬金術師」とか、このキャラは人体を分解して破壊する「破壊する者」だとか、キャラによって得意な能力が違うとなっているのです。

 タイトルだけ聞いた人から「学問とか研究所とかを舞台にした学術漫画なのかい?」と言われたことが(昔に)あったので……一応。



 んで、多くのバトル漫画の「能力」には「ルール」とか「制限」のようなものがありますよね。
 スタンドを攻撃されるとスタンド使いもダメージを喰らうとか。電撃使いは電撃以外の能力を使えないとか。強化系の能力者は変化系の能力をマスターしづらいとか。それぞれの作品によって、異なる「ルール」や「制限」があるものです。

 『鋼の錬金術師』の「錬金術」は一見すると何でも出来る魔法のように思えてしまうのですが、彼らに出来るのは「変化」のみであって、「無から有は作れない」等価交換の法則や、「元あるもの以上のものは作れない」質量保存の法則などの「制限」があって―――彼らは万能でも最強でもないのです。

 登場人物の大半は「錬金術師」じゃないですしね。銃を持って戦う者も剣を取って戦う者もいるし、戦わない者もたくさん出てきますし。





 そして、自分がこの漫画を大好きなのは……
 バトル漫画における「能力」である「錬金術」の「制限」が、この作品が描かれている“世界”や作品が描いている“メッセージ”と密接に結びついているところなのです。
 「錬金術」が等価交換の法則や質量保存の法則などの「制限」を持って万能ではないように、この“世界”で生きていくためにも等価交換の法則や質量保存の法則などを守らなければならないと描いているのです。

 食事をしなければ人間は生きていけないし、その食事は動物や植物の命をもらうことだし、しっかり寝ないと体は回復しないし、死んでしまった命は決して生き返らないし、命が生まれるためには父親と母親がいて母親のお腹の中で280日かけて成長しなければ生まれてこれないし――――この作品はそういう「当たり前なこと」を愚直に描くし、魔法のように見える「錬金術」もその「当たり前なこと」に則っていると描くんです。


 だから、この作品における「錬金術」はバトルを盛り上げるために用意された「能力」だけでなくて、この作品自体が描こうとしているものを体現しているとも言えて―――その「取って付けてない」感が自分は好きなのです。



 この漫画の主人公エルリック兄弟は、死んでしまった母親を「錬金術」で生き返らせようとしたのだけど、それは自然の摂理に反することなので「肉体を失う」という大きな罰を受けてしまうところから始まります。
 機械鎧の手足を持つ兄と、全身鎧の弟という主人公は、「自然の摂理に逆らった」という過去をその体で表しながら生きて。それでかつ、自分達の肉体を取り戻すという「自然の摂理を超える」目的で旅をしていることがその姿で説明できて。
 (キャラクターデザインの時点で「過去」と「目的」が読者に提示されるというのも凄い)


 では、「無から有は作れない」「元あるもの以上のものは作れない」この作品世界で、どうすれば自分達の肉体を取り戻せるのか―――というのは、この作品の一番重要な結末なので是非作品をお読みください(笑)。




2.色んな人間がいるから作品は成り立っている
 「この漫画の主人公はエルリック兄弟」と書きましたが、自分達の肉体を取り戻すための旅をしているエルリック兄弟だけでなく、色んな登場人物がこの作品には出てきます。
 軍事国家のトップを目指す若き将校マスタング大佐、国家錬金術師のみを狙って暗殺している“傷の男”、国を裏から操っているホムンクルス、不老不死の法を求めて異国の地にやってきたシンの国の皇子、その皇子と対立する部族の皇女……などなどなど。


 列挙しきれないくらいたくさんの登場人物が出てきて、それぞれに別の目的があって、それぞれがそれぞれの目的のために動いていくので―――明確な主人公がいるので定義に当てはまるかは微妙なんですが、「群像劇」のような面白さが強い作品なんです。
 脇役だと思っていたキャラが実は重要なことをしたり、何のために出てきたんだと思っていたキャラが後々に活きてきたり―――自分は14巻までしか読んでいなかったので、今回全27巻を一気に読んで感動するところがいっぱいでした。あのキャラがちゃんと活躍してる!!とか、まさかあのキャラに最後泣かされるだなんて!!とか。


 この作品にまだ興味を持ってもらえていない人に、敢えて他の作品を例に出して「○○みたいな作品」と説明すると―――「少年誌版 浦沢直樹漫画」みたいな。『MONSTER』とか『20世紀少年』みたいな構造の作品を、少年誌で“ちゃんと”作るとこうなるという例のような。


 「“ちゃんと”」の部分に含意があるようなないような(笑)。




 「オレもアルも、その大きい流れの中のほんの小さなひとつ。全の中の一。
 だけど、その一が集まって全が存在する。
 この世は想像もつかない大きな法則に従って流れている。
 その流れを知り、分解して再構築する…それが、錬金術」



 これは子どもの頃のエドが「錬金術とは何か」を理解するシーンなのですが。
 これはこの作品における“登場人物達”にも言えることで。

 エルリック兄弟も、たくさんいる登場人物の中の一人でしかなくて。
 でも、そんな一人一人が集まって作品は成り立つんです。


 『銀の匙』でも思うことなんですが、この作者さんは本当に心から“登場人物”達が大好きなんだと思うのです。メインキャラもサブキャラも、良いことをする人も悪いことをする人も、人間も人間以外も、生き残るキャラも死んでしまうキャラも。
 一人一人のキャラをとてもとても愛情をこめて描いているのは、「そんな一人一人が集まって作品は成り立つ」と分かっているからでしょうし、「世界はそうやって成り立っている」と理解をしているからでしょう――――


 そうして様々な思惑を持ったたくさんの登場人物が一つの点に集中するクライマックスは「圧巻」の一言でした。
 さっきの「“ちゃんと”」の部分がここに繋がってしまうんですけど(笑)、クライマックスの「ああそうだ。俺が欲しかったのは」辺りは号泣を禁じえないレベルでした。

 まさか、あのキャラに泣かされるとは……!




 この作品における「錬金術」とは―――
 バトル漫画における「能力」でもあり、
 作品を形作る「世界観」と「メッセージ」でもあり、
 色んな人間がいるから成立する「群像劇」でもあり、

 そして最後にエドがたどり着いた「真理」でもあるんだろうって思います。




 見事な作品でした。
 あれだけの大ブームになった作品でありながら、その喧騒を「我関せず」とマイペースに描き続け、見事な完結まで着地したというのは本当に凄いことだと思います。
 欠点があるとすると「話が壮大になり過ぎてなかなか進まない」ところだと思うのですが、完結した今ならば一気に読めますし、「途中までしか読んでいないなー」という人は特に最後までどうぞ。




 ちなみにたくさんいる登場人物の中で私が一番好きなキャラはメイ・チャンでした。
 私、ロリコンの気がありますから。




| 漫画紹介 | 17:58 | comments:6 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

この企画はずっと楽しみに待っていたんですけど、まさか初っぱなから全巻持ってる漫画を紹介されるとは思いませんでした(笑)
ただ、やまなしさんの丁寧な紹介文を読んでしっかり読んでいると分かったので、次回を楽しみに待っています。

| もつやま | 2013/09/01 20:17 | URL |

>もつやまさん

一応、第1弾は『この世界の片隅に』で
http://yamanashirei.blog86.fc2.com/blog-entry-1620.html

第2弾は、「パブーで読める無料マンガ」だったのですよ(笑)
http://yamanashirei.blog86.fc2.com/blog-entry-1621.html

| やまなしレイ(管理人) | 2013/09/01 21:44 | URL | ≫ EDIT

あちゃ~、すいません。
どの記事も読んだはずなのにすっかり忘れてました…
『この世界の片隅に』は機会があれば読んでみたいと思います。

| もつやま | 2013/09/01 22:27 | URL |

個人的にはバトル描写はあれど「そこがメインではない」というのがセンセーショナルでしたね。
バトルで決着をつける=勝った方が正しい、は少年マンガの基本ですから。
このマンガでそこらへんがちょっとだけぶれたような気がしています。大げさに言えば革命を起こしたんではないかと。

銀の匙も一見一昔前のサンデーっぽいノリですけど、どこか違う方向を向いてるような気がしています。
作者のエッセイ?の百姓貴族も合わせてみると面白いですよ。

| t2 | 2013/09/02 01:12 | URL |

作品としては完成度が高くて好きですけど、錬金術に関してはあまりに技術と道徳とが紐付けされ過ぎているのは自分にとっては気に入らない所ですね
技術としては我々の社会とは全く違う発展も可能にできるものなのに既存の職人や技術者の立場を奪わない程度の脇役に甘んじ、一神教の神様のような絶対者として振る舞う「真理」の存在を前提としている
1話でエドが「錬金術師は科学者」と言ってましたけど、善も悪もなく時に社会を振り回し続け、人間の倫理と哲学で制御していく事を求められる科学技術とはまるで別物に感じます

グリードの「ありえないなんてことはありえない」というセリフが好きなんですけど、このセリフは道徳的に当たり前なことは受け入れようという考え方とは真逆ですし、おそらく荒川先生自身も信じてなかったのではないでしょうか

| 烏賊丸 | 2013/09/03 00:06 | URL | ≫ EDIT

最後の一文にハッときた俺って・・・w

| p15 | 2016/04/27 22:01 | URL |















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