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犯罪者はどこから生まれるのか―――『おっとり捜査』全10巻紹介

 久々に「漫画紹介」書きます!

 『おっとり捜査』は1995年から週刊ヤングジャンプ増刊・漫革にて読みきりが掲載され、1996年から週刊ヤングジャンプにて週刊連載が開始、1997年から再び増刊での読みきり連載に戻り、2000年に別冊ヤングジャンプにて完結したサイコサスペンス漫画です。

 小手川ゆあ先生のデビュー作で、それ故に“荒削り”というか“洗練されていない感”がどうしてもあって……自分は小手川先生の作品ではこの後の作品の方が大好きでした。
 『ARCANA』はコンパクトにまとまった良作で、『死刑囚042』は「描きたいもの」のために設定からキャラから一縷の無駄もない完成度の高い作品だと思っていたため。『おっとり捜査』に対してはそれほど思い入れがありませんでした。


 しかし、先日、本棚に置いてあったコミックス全巻を自炊して、ちゃんと電子書籍化出来ているかを確認しがてらに読み返してみたところ。
 あれ?こんなに面白かったっけ?と驚きました。


 「後の作品の方が完成度が高い」のは確かだと思うのですが、『おっとり捜査』は作者の「描きたいもの」が剥き出しで襲ってくるところがあって。
 10年前の自分は「完成度の高い作品」の方が良い作品だと思っていたからか『おっとり捜査』にそれほど思い入れがなかったのですが、オッサンになった今になるとこういう「作者の熱量が感じられる作品」も良い作品だなぁと思えるようになりました。


 それと、やはりこの漫画は小手川先生の原点だと思うんですね。
 後の作品の方が好きだった自分からしても、『ARCANA』や『死刑囚042』が描いていたものが『おっとり捜査』の中にも描かれていると思いますし―――『ARCANA』や『死刑囚042』を読んでから『おっとり捜査』を読むことで、この作品が描こうとしたものの意味がようやく分かったところもあります。




 主人公は秋葉辰也という刑事。
 日本一の大量殺人犯である橘圭吾を逮捕したという過去を持っています。

 刑事モノですが、1巻で作者自ら「リアルよりロマンを優先しています」と描いているように、リアリティのある漫画ではありません。武装したテロリスト集団を刑事一人で制圧したりしますし(笑)。

 主人公が刑事のサイコサスペンスなので、橘だけでなく、たくさんの犯罪者が登場し、たくさんの事件が起こります。「この漫画の世界には殺人犯と強姦魔しかいないのかよ!」というくらい次から次へと犯罪者が出てきて、刑事である秋葉は彼らを逮捕していくのだけど……
 小手川先生の他の作品を観れば分かるように、この作品も犯罪者を「生まれながらの犯罪者」としては描きません。犯罪者も私達と同じように生まれ、生きてきたし。私達もいつ犯罪者になるのか分からない―――と描くのです。


「僕が昔見たB級映画で、ある殺人鬼の腕を移植された主人公が
人殺しの悪夢を見て悩むとゆうものがあります。
主人公は同じように足などを殺人鬼から移植された人にこう問います。

「邪悪はどこに潜むのか。
脳か、あるいは心臓か、
それとも……この右腕に?」」



 この台詞はこの作品の後半、殺人鬼・橘圭吾のルーツを辿る検事の台詞です。
 小手川先生の作品では、「英雄である秋葉」も「殺人鬼である橘」もほとんど違いはなく、秋葉も一つ踏み外せばそちら側と変わらない危うい存在だと描くのです。『死刑囚042』は「殺人鬼」の方を主人公にした漫画でしたしね(『Anne・Freaks』もそうだっけ)。

 では、「英雄」と「殺人鬼」を分けるものは何か――――
 ここまでものすごくヘビーでシリアスな面ばかり紹介してきましたけど、こここそが小手川先生の作品の魅力とも言えて。デフォルメされた絵柄のギャグパートだったり、可愛い女のコだったり、“仲間”だったり。「世界ってそんな悪くないよな」と描いてくれるのです。

 殺人事件が頻繁に起こる漫画なので、血やら死体やらの残酷描写がわんさか出てきます。そういう意味では「誰にでもオススメ!」とは言えないのだけど……血やら死体やらを見ていて気が滅入ってくる読者の心理と、刑事という職業ゆえに人間の汚い部分ばかり見せつけられる秋葉の心理とが、絶妙にシンクロされていて。

 だからこそ、そこから先に「世界ってそんな悪くないよな」と描いてくれることに読者としても救われるし、私は小手川先生の漫画が大好きなのです。




 10年ぶりくらいに読み返して思いましたが……
 『おっとり捜査』は「小手川先生の原点」であるとともに、「自分の原点」でもあると思い返しました。自分でも忘れていましたが、「人間の危うさ」だったり「それでも世界は捨てたものじゃない」と描いてくれるところだったり、“自分という人間”を形成するのに力をくれた作品だと思っています。

 後に自分も漫画を描くことになるのですが、『コマンド?→A/B/C』なんかはまさに「英雄」と「殺人鬼」が表裏一体であることを描こうとした漫画ですし。人間としても、漫画描きとしても、ものすごく影響を受けました。すっかり忘れていましたけど(笑)。



 小手川先生のデビュー作ですから、1巻と10巻では絵のクオリティが全然違いますし。
 前述したように血みどろの展開も多い作品なので「誰にでもオススメ!」とは言いませんけど、自分にとってとても大切な作品だったのでリアルタイムには読んでいなかった人も是非どうぞ!

 紙の本は現在絶版になっているみたいで、古本しか買えませんが。
 角川書店から電子書籍版が発売になっていますね。電子書籍にはこういう恩恵もあるのか。


<紙の本>



<キンドル本>

| 漫画紹介 | 17:52 | comments:1 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

なつかしい。
本屋で見かけた単行本が気になって読んでいた記憶があります。
これとモンスターと昴は、当時子供だった自分がヤング系雑誌の作品にふれるきっかけになりました。

| ああああ | 2014/02/15 12:06 | URL |















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