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後悔を背負って生きる者の物語。『銀河パトロール ジャコ』全1巻紹介

【三つのオススメポイント】
・「これぞ鳥山明の漫画!」という世界観
・過去を変えようとする主人公「大盛博士」が何を意味するのか
・徹頭徹尾ムダのない“完成度の高いエンターテイメント作品”


銀河パトロール ジャコ 特装版 (ジャンプコミックス)


○ 「これぞ鳥山明の漫画!」という世界観
 この漫画は2013年7月から週刊少年ジャンプに短期集中連載された鳥山明先生の最新作です。自分はもうしばらく少年ジャンプ本誌を読んでいないので、この漫画のことも知らなかったのですが……入院している父に兄が差し入れていたのを見て、自分も借りて読んでみました。

 すんげえ面白かったです。
 「これぞ鳥山明先生の漫画だぜ!」と唸ったほどに。

 恐らく私が紹介するまでもなく御存知の方も多い作品でしょうけど、作品を御存知の方には「やまなしがこの漫画のどこをススメるのか」を楽しんでもらえればなと思って書きます。ネタバレはなるべくしないように紹介するので、みなさんもコメント欄などで物語の核心部分には触れないようにお願いします。



 「鳥山明」という漫画家に対してどういうイメージを持っているかは、恐らく世代によってちがうんだろうなと思います。『Dr.スランプ』のイメージの人も、初期『ドラゴンボール』のイメージの人も、後期『ドラゴンボール』のイメージの人も、漫画は一切読んだことがなくて『ドラゴンクエスト』のモンスターの絵を描いている人だって認識の人もいらっしゃることでしょう。

 私もこの作品を読むまでは、どうしても後期『ドラゴンボール』のイメージが強かったので、すっかり忘れていました。鳥山明という超天才は、“世界を魅力的に描く天才”だったのだ―――と。

 メカを“メカっぽく”描き、背景にも動物達を描きこむことで“背景”が“舞台”になり、どの角度からも空間を描くことができるデッサン力を持っていて……その技術の高さと描き込みの細かさにより、魅力的な世界を作り出していた漫画家だったと思うのです。


 後期『ドラゴンボール』は確かにバトル漫画家としてのイメージが強くなっていましたが、初期の短編~『Dr.スランプ』~初期『ドラゴンボール』は“魅力的な世界を描く人”という認識で作品が楽しまれていたと思うのです。
 『Dr.スランプ』はペンギン村が非常に魅力的に描かれていて「あの村が大好きだ!」と思わせられたし、初期『ドラゴンボール』はそこから更に進んで「何も知らない主人公:孫悟空が世界を冒険して世界の魅力を知っていく作品」でしたものね。



 この『銀河パトロール ジャコ』も、まさにあの頃の鳥山明先生の作品にワクワクさせられた気分を思い出す作品でした。メカも、動物も、都会の賑やかさも、自然の美しさもしっかり描かれていて、この世界に入り込まされてしまうのです。
 こういう作品を描かせても、やはりレベルがとてつもなく高いですね。



○ 過去を変えようとする主人公「大盛博士」が何を意味するのか
 自分がこの漫画を「すごく好きだ」と思ったのはこの部分です。
 この漫画の主人公は、一応名目上は「凶悪宇宙人から地球を守るために送り込まれた銀河パトロール隊員:ジャコ」なのですが……自分はやはりこの漫画の主人公は、「ジャコが出会う地球人:大盛徳之進」だと思うのです。

 大盛博士は67歳のおじいちゃん。
 元々は時空工学の権威でタイムマシンの研究を島で行っていましたが、大事故により妻やスタッフを多数失い、タイムマシン研究も凍結してしまいます。その後悔を背負った大盛博士は島に残り、たった一人でタイムマシンの開発を続けるのです。死なせてしまった妻やスタッフ達を、過去に戻って救うために。


 つまり、大盛博士というキャラは「死んでしまった者達のために過去を改変しようとしている」キャラなんです。



 こういうキャラ自体はそれほど珍しいキャラではないかも知れません。
 しかし、この作品におけるこのキャラというのは、実はダブルミーニングになっていて。詳しくは核心部分のネタバレになるので書きませんけど、大盛博士というキャラは鳥山先生自身であって、この物語は鳥山先生自身が「過去を改変すること」に向き合って描いた物語じゃないかと思うのです。

 そういう視点で考えれば、このダブルミーニングが作中でどういう結末を迎えるのかの意味が更にちがって見えるんじゃないかと思いますし。同じようにたくさんの後悔を抱えて生きている私達に対して、非常に優しい結末だったなと思うのです。



○ 徹頭徹尾ムダのない“完成度の高いエンターテイメント作品”
 『ドラゴンボール』は超長期連載になってしまった上に、後期の人造人間編や魔人ブウ編は路線変更・設定変更・伏線無視が目に付くこともあって……「鳥山明という漫画家は行き当たりばったりでストーリーを描いている」みたいな認識の人もいるんじゃないでしょうか。

 しかし、このブログで散々書いてきたように、『ドラゴンボール』ってものすごくよく考えられているストーリーなんですよ。「○○編」ごとに飽きさせない工夫、盛り上げる工夫がしっかりされているという。

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 この『銀河パトロール ジャコ』は最初から短期集中連載とのことで「10+1話」と決まってのストーリーですから、ものすごくキレイにまとまっていて、序盤の何気ない描写が後半にしっかり活きてくるところが多いです。
 ムダなシーンのないコンパクトにまとめられた良質なストーリーになっているのです。『Dr.スランプ』なんかは1話完結の話が多かったですし、元々短編がものすごく上手い漫画家さんだったのでしょうしね。


 それでいて、やはり鳥山先生は生粋のエンターテイナーなんです。
 読者を楽しませる、ワクワクさせる、ドキドキさせる、スカッとさせる―――それが最優先で、確かにダブルミーニングで考えさせるところがないワケでもないのですが、そんな小難しいことを考えなくて頭空っぽで読んでもしっかり面白い作品になっているのも見事です。



○ 総評
 この紹介記事は「核心部分のネタバレ」にはなるべく触れないように書きました。
 ただ、その「核心部分のネタバレ」はプロモーション等でガンガン押し出されているし、Twitterで感想を呟いている人もそこを第一に触れる人が多かったですし、私の兄が父に差し入れした時にもそのネタバレをしてから渡したみたいですし。確かにそこを言わないと興味を惹かれないと、そこを言いたくなる気持ちも分かるのですが。


 私は、なるべくなら「何も知らない」状態で読み始めて欲しいなぁと思います。


 鳥山明という20世紀後半を代表する漫画家の最新作として、当時を知っている人はもちろん、知らない人にも是非手に取ってもらいたい一作です。そこで興味を持ったのなら、過去作に手を出せばイイのですしね。


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| 漫画紹介 | 17:51 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

ホントにこの作品は面白いですよね。

| しじみ | 2014/04/23 13:44 | URL |

紹介していただいたことに感謝

 いや、面白かった! こちらの紹介がなかったなら読まなかったと思いますので、まずは何よりも感謝を。
 これは確かに傑作です。

 例のネタバレだけは知っちゃってたのが残念ですが……。できることなら知らずに読んでみたかったですねえ、この作品。
 知ってても十分以上に面白かったものの、知っているのと知らないのとでは楽しみ方が微妙に違いそうですから。

| kanata | 2014/05/01 04:58 | URL | ≫ EDIT















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