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クリエイターかサラリーマンか。『テレキネシス 山手テレビキネマ室』全4巻紹介

【三つのオススメポイント】
・「昔の映画」を題材にした、「昔の映画」に詳しくない人に向けた漫画
・クリエイターでもあり、サラリーマンでもある「テレビ局の社員」の物語
・1話完結で読みやすい、けど大きな流れもある漫画


テレキネシス 001―山手テレビキネマ室 (ビッグコミックス) テレキネシス 002―山手テレビキネマ室 (ビッグコミックス) テレキネシス 003―山手テレビキネマ室 (ビッグコミックス) テレキネシス 004―山手テレビキネマ室 (ビッグコミックス)


○ 「昔の映画」を題材にした、「昔の映画」に詳しくない人に向けた漫画
 久々の漫画紹介です。
 とある記事を書くために、どうしても1話だけ読み返さなきゃ……と本棚の奥から引っ張り出してきたところ、ついつい他の話も読みたくなって全巻読破してしまいました。

 昔好きだった漫画って、何年も経ってから読み返すと「あれ……記憶にあるより面白くないなぁ……」と思うことが多いです。年齢を重ねることで好みも変わるでしょうし、思い出は美化されますし、それはそういうものだと私は割り切っているのですが。この『テレキネシス』は数年ぶりに読んでも、リアルタイム時と同じくらい面白かったし、今だからこそ分かることも多かったです!


 この漫画は2004年~2007年にビッグコミックスピリッツに不定期連載されていた作品で、全4巻で完結です。この記事を書いている2014年10月14日現在、どうもこの漫画の電子書籍はどこででも出ていないみたいですね……名作なのに勿体ない。

 作画は『金魚屋古書店』の芳崎せいむさん。
 原作は“浦沢直樹のブレーン”として有名な長崎尚志さんのペンネーム「東周斎雅楽」。


 なので……「題材が映画になった『金魚屋古書店』」とか「舞台がテレビ局の『MASTERキートン』」と言えば、分かる人には分かりやすいと思うのですが。それらの作品を知らない人だってたくさんいるよね、というのがウチのスタンスなので。「○○みたいな作品」という説明を敢えて使わないで説明しようと思います。


 主人公は、関東大手の民放テレビ局「山手テレビ」の社員:東崋山と野村マキノ。
 担当する番組は、「金曜深夜テレビキネマ館」―――昔の映画を放映する深夜番組です。ドラマ制作をしたくて山手テレビに入ったマキノは、ドラマ制作でも映画制作でもなければ、ゴールデンでもない深夜番組の担当になることにショックを受けるのですが……

 出会った東崋山という男。
 「昔の映画」に詳しいだけでなく……悩んでいる人や傷ついている人に、相応しい「昔の映画」を見せることで前を向かせることが出来る人で、その崋山の姿を見てマキノも変わっていきます。言ってしまえばこの作品、悩んでいる人や傷ついている人を応援していく作品なのです。


 なので、この作品の各話タイトルには『風と共に去りぬ』や『めぐり逢い』などの「昔の映画」のタイトル名が付いていて、その映画の話が出てくる1話完結のストーリーになっているのですが―――――「昔の映画」に詳しくないと楽しめないなんてことはなく、むしろ「昔の映画」に詳しくない人に向けた漫画となっています。
 主人公の片方である野村マキノが「昔の映画」に詳しくない新人なので、読者はマキノ視点によって「昔の映画」のことを知ることが出来るのです。だから、別に読者も「昔の映画」に詳しくなくて全然構わないのです。

 私も、この漫画の中に出てくる「昔の映画」で以前から観たことがあった映画は多分1~2本だけで。この漫画に出てきたことで興味を持って観てみた映画は何本もあります。そういう意味でも、「昔の映画」の入門作品としても楽しめるんじゃないかなーと思います。


○ クリエイターでもあり、サラリーマンでもある「テレビ局の社員」の物語
 私がこの漫画に出会った頃は、ちょうど私自身が漫画を描き始めようかと思っていた時期なので……この漫画を「クリエイター達を応援する漫画」として捉えていました。

 テレビ局も、コンテンツを作る場所ですからね。
 ドラマを作る人、バラエティ番組を作る人、報道番組を作る人―――この漫画には様々な“クリエイター”が出てきて、彼ら彼女らが傷つき悩み、それでも前を向いていく姿が描かれています。また、題材となる「昔の映画」だって監督やら俳優やらの様々な“クリエイター”が作り上げたもので、その姿が現代を生きる登場人物達と繋がってくることで、自分自身にも創作する勇気が湧いてくるものでした。


 しかし、今……冷静になって全巻を読んでみると、この漫画を「クリエイター達のための漫画」と評するのは一面的だったなと分かりました。テレビ局の社員は、“クリエイター”であり“サラリーマン”なんです。

 彼らは大組織の中で生きている。
 「面白いものを作れば許される」ワケではなく、人と人との繋がりがあって、予算があって、査定があって―――という中で生きているのです。主人公の一人:東崋山が、ドラマ作りには天才的な才能を持っていたのだけど、組織の中ではなかなか生きられずに「深夜に映画を放映する番組」に異動させられてしまったキャラですからね。

 この漫画のキャラクター達は……そうした“クリエイター”なのに、“サラリーマン”だからこその悲哀を持っていて。そうした微妙なバランスを描いている、「サラリーマンを応援する漫画」でもあったことにようやく気付きました。



○ 1話完結で読みやすい、けど大きな流れもある漫画
 この辺は、今なら……なるほど『MASTERキートン』っぽいと思う話なのですが、前述したようにウチのブログは「MASTERキートンを知らない人」にも分かるように書くスタンスなので。そういうスタンスで説明していこうと思います。

 この漫画は、構成としては「1話完結」のストーリーです。
 その回で話が決着して、次の回ではまた全然違うストーリーが始まるし、それぞれの回に違うキャラクターが登場します。なので、すごく読みやすい。ちょっとした飽き時間に「1話だけ読もうっと」と、ちょっとずつ読みやすいのです。1話の長さも大体同じだから1話を読む時間が計算しやすいですし、次はもう別の話だから後を引くこともないという。

(関連記事:「続きが気にならない」型エンタテイメント


 ただ……一気に読むと分かる話の繋がりも、なくはないストーリーでもあるんですね。
 この回で左遷された人が、ここでまた出てきたり。ここで名前が出てきた人が、後に登場する人だったり。同じキャラが出てくることで、テレビ局という“組織の中の話”だとカンジさせられる―――というのは、サラリーマンとしてのテレビ局社員を描くこの作品においては重要な要素だと思います。



 それと。
 あんまり書くとストーリーのネタバレになっちゃうので躊躇われることなのですが。この漫画のストーリーを引っ張る推進力には二つあって。

 一つは、東崋山が探している「父親の遺作」の行方。
 ドラマ部から映画放映の深夜枠に飛ばされても、まだ崋山が山手テレビにしがみついている理由は、父親が最後に撮ったテレビ作品『国民の手品師』のフィルムを探しているから―――で。どうして崋山がこのフィルムを探しているのか、このフィルムが何処に行ったのか、このフィルムを崋山は見つけることが出来るのか、という興味で視聴者を惹きつけるのです。

 そして、もう一つはマキノの成長です。
 ドラマを作りたくて、山手テレビに入って、でも映画を放映する番組にまわされて、「マスコミの最前線」とは縁遠いところに追いやられてしまったマキノが……この場所で、何を学び、どう成長するのかという物語でもあるのです。
 “クリエイター”になりたくて、でも“サラリーマン”だから望まぬ部署に配属されて、という主人公の成長物語は……誰もが望んだ人生を歩めるワケではない世の中で、その中でも必死に生きている人達への励ましにもなっていて。これが描けているからこそ、この作品の「最後の一ピース」が埋まったのだと思うのです。


○ 総評
 ということで、自分にとっては大好きな漫画なので「今更紹介するまでもない」と思っていたのですが……Amazonのレビューも3~4件しか付いていなくて、『金魚屋古書店』なんかと違って電子書籍化もされていないし。

 「あれ?ひょっとしてこの漫画ってマイナーなのか……?」と思い、今更ですけど応援の意味を込めて紹介記事を書きました。全4巻だからそんなに量ないし、1話完結だから読みやすいし、みんな読むとイイさ!

| 漫画紹介 | 17:48 | comments:1 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

知らなかった…。
金魚屋、好きなんで、これは楽しめそうです。

| 児斗玉文章 | 2014/10/16 19:02 | URL |















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