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どのゲームハードも愛おしくなる!『P.S.すりーさん』1~4巻紹介

【三つのオススメポイント】
・激動だった2006年~2012年のゲーム業界を切り取った作品
・擬人化したからこそ、彼女達の健気さに心を打たれる
・変なキャラ達と、4コマ漫画としての上手さ


<紙の本>
P.S.すりーさん (GAME SIDE BOOKS) P.S.すりーさん・に (GAME SIDE BOOKS) (ゲームサイドブックス) P.S.すりーさん・さん (ゲームサイドブックス) (GAMESIDE BOOKS) P.S.すりーさん・よん (GAME SIDE BOOKS) (GAMESIDE BOOKS)

<キンドル本>
P.S.すりーさん P.S.すりーさん・に P.S.すりーさん・さん P.S.すりーさん・よん

○ 激動だった2006年~2012年のゲーム業界を切り取った作品
 この漫画紹介は基本的に「完結した作品」を紹介してきた記事で、『P.S.すりーさん』に関しては明確に4巻が最終巻だとはされていないみたいなのですが(カラーページに「END」という文字は書かれている)……2012年の4巻発売以後は音沙汰がなく、企画されていた続編も頓挫されてしまっているみたいです。

 事情はよく分からないのですが、とりあえず4巻までで「PS3発売の2006年」~「Wii U登場の2012年」を網羅したとも言えて、個人的にはこれが良い一区切りだと思ったので紹介することにしました。もちろん続きや続編が描かれたのなら追いかける気は満々ですけど。


 この漫画は、元々『IKaのマホ釣りNo.1』さんというブログで描かれた4コマ漫画に、大量の描き下ろしや、雑誌その他で連載されたスピンオフ作品などをまとめた本です。ブログに掲載されている「本編」は今でも無料で読めますんで、こちらのセットからどうぞ。

 内容は、「PS3」や「Wii」と言ったゲームハードをアイドルに擬人化して、彼女らの奮闘を描く4コマ漫画です。一応公式には「登場人物に特定のモデルはいない」ということになっているみたいですが、紹介記事を書く立場からすると「ゲームハードの擬人化だよ」と言わないとオススメのしようもないので(笑)。

 記念すべき1本目が公開されたのは、2006年の11月。
 PS3が発売された月ですね。

 現在のところ公開されている最後の1本は、2012年の7月です。
 Wii Uがこれから発売されるという時期で、「うぃーゆーさん」と「ぱっどさん」の二人が登場する話です。


 つまり、ちょうどPS3やWiiが発売された「2006年末」から、その次の世代機であるWii Uが登場する「2012年」までに描かれていた作品ということで―――PS3やWiiやXbox360が活躍したこの激動の6年間を切り取った漫画になっているんですね。
 ブログという媒体の特性上「(ゲーム業界にとっての)時事ネタ」が多くて、「時事ネタってリアルタイムで読む分には面白いけど数年経ったら微妙じゃない?」と思う人もいるかも知れませんが、私は逆に「この漫画を読むと激動だった6年間を思い出すことが出来て面白い」と思うんですね。

 今回、私は家にあった紙の本を自炊して1巻から読み返したんですけど……1巻のネタなんかは本当に懐かしいですよ。「ヘブン状態」とかね。当時を知っている人ならば「あったなー、そういうの」と思い出してニヤリと出来るネタが満載です。

 また、リアルタイムに描かれたからこそ、「作者の思わぬ方向に進んでしまった面白さ」を切り取れたとも言えて―――
 例えば、2007年2月に描かれた40本目は、すりーさんが『ガンダム無双』を歌わされるという話です。2007年3月1日にPS3専用ソフト『ガンダム無双』が発売されるというのが元ネタなのですが……

 2007年5月に描かれた53本目は、はこまるさんが『ガンダム無双』を歌っている様をすりーさんが眺めるという話になっています。これは『ガンダム無双』が海外ではXbox360版も発売されることが発表されて(実際に発売されたのは2007年8月、12月には日本でも『インターナショナル』がXbox360で発売されました)が元ネタです。
 今では信じられない話ですけど、当時のPS3はソフトが少なく、『ガンダム無双』はその中でも「PS3でしか遊べないゲーム」として非常に貴重な存在でした。そんなソフトのXbox360版が発表された時の気持ちがあのすりーさんの表情に表れているのです。

 で、オチが付くのは2008年1月に描かれた74本目。その『ガンダム無双』を、まさかのお姉ちゃんであるつーさんも歌わされるという話です。これはその『ガンダム無双』が『ガンダム無双 Special』として2008年2月にPS2専用ソフトとして発売されたことが元ネタです。
 当時のあの「お、おぅ……」という感情はなかなか文章にはしづらいのですが、「時事ネタを扱う4コマ漫画」という形で一気に読むと当時の感情を追体験できるのです。


 これはほんの一例です。
 この他にもこうした「当時を思い出させられる話」がたくさん詰まっていて、単行本には元ネタが分からない人用に詳しく解説が書かれていて、これを読むのも面白いです。Wikipediaを読むだけでは分からない当時の空気感がここにあるので、これはもうゲーム業界にとって貴重な資料と言ってイイと思います!

 惜しい点があるとすると……
 このブログでの4コマ漫画が人気になって、単行本を出すことになって、その続刊がどんどん出るようになって、描き下ろしやらその他媒体での連載やらの作業に作者が追われるようになってしまって、「本編」とも言えるブログに描かれた4コマは少なくなってしまうんですね。
 もちろん「描き下ろし」や「その他の連載」も面白いんですが、ブログに4コマ漫画をガンガン投稿されていた頃に比べて「リアルタイム感」というか「時事ネタのタイムリーさ」がなくなってしまっていったのは残念です。

 人気になることが、作品にとって必ずしも幸せなことではない―――と思い知らされた一件でした。


○ 擬人化したからこそ、彼女達の健気さに心を打たれる
 「どのゲームハードを買うのか」に悩んだり、「自分の買ったゲームハードを信奉する」あまりに他のハードを憎んだりということは、最近に限った話ではありません。スーパーファミコンに対するメガドライブやPCエンジンだって、プレイステーションに対するNINTENDO64やセガサターンだって、それぞれのハードの所持者には複雑な想いがあったものです。
 「ドラクエがセガサターンで出るって話だったからサターンを買ったのに、プレステで出るだなんてエニックスは絶対に許さん!」って言っていた友達がいたっけかなぁ……


 しかし、Xbox360・PS3・Wiiの世代は、そうした各ハード所持者の感情がインターネット上に蓄積されるようになったこともあるし、それぞれ違った特徴を持ったハードだったために「完全勝者」のいない世代だったし、それ故に「こっちのハード独占と発表されていたのに後からマルチ化が発表」とか「こっちのハード独占で発売された1年後に別のハードで完全版が発売」みたいなことが頻出して憎しみも膨れ上がり、ネット上で「ゲームハードの話をする」のは「政治思想を語る」ことくらいの炎上案件になってしまいました。


 『P.S.すりーさん』という漫画は、こうしたゲームハードを単に擬人化しただけでなく、「アイドル」として描いているのがポイントだと思うのです。
 熱烈なファンに支えられていること、売れるアイドルと売れないアイドルに明暗が分かれること、アイドル自身は仕事を選べないこと、“偉い人”の判断でいつかは引退しなければならないこと、その短いアイドル生命を必死に生きていること―――「ゲームハード」と「アイドル」は非常に似た存在で、それが絶妙に風刺になっているところもあれば、でもこの作品で描かれているのは「どのアイドルだって一生懸命でファンに愛されているように、どのゲームハードだって愛すべき存在なんだ」ということだと思うのです。

 作品には現役世代だけでなく過去のハードのキャラも多数登場するのですが、それらのキャラは「かつてのアイドル」として登場します。彼女らも、かつてはすりーさんやうぃーさんやはこまるさんのように現役バリバリのアイドルだった。そうした姿を見せることで、作品に奥行きが生まれているのです。
 自分にとって印象的なキャラは、やはりどりきゃすさんかなぁ。苦しい時期のすりーさんが、小さなライブハウスで頑張っているどりきゃすさんのライブを観に行く回が好きです。これは、セガがハード事業を撤退した後もドリームキャストは長く愛され、2007年まで新作ソフトが発売されたことが元ネタなんですが……こうした姿を見ると、どんなゲームハードだって必死に生きているし、そのハードによって救われているファンがいるのだと思えます。


 だから、私はこの『P.S.すりーさん』という漫画をゲームハードの論争に利用しようとする人達を好きになれませんし、この作品が「どのゲームハードが勝ったか」みたいな話をしなかったことを批判する人達を好きになれません。
 この作品が描いてきたことは、「カレーせんべい」が1枚あればすりーさんはそれを支えに頑張れたということじゃないですか。普及台数がどうのとか勝者がどうのみたいな話で締めくくったら、それこそこの漫画が大切に描いてきたものが全部台無しになってしまいますよ。


○ 変なキャラ達と、4コマ漫画としての上手さ
 とは言え、単に「業界を切り取った」だけの「擬人化したキャラの漫画」だったなら、そんなにオススメ出来る漫画ではなかったと思います。この作品の魅力は、たくさんあるゲームハードを個性的なキャラに仕立ててしまったことと、不条理系とも言える4コマ漫画の上手さゆえにだと思います。つまり、ゲーム業界ネタどうこうだけじゃなくて、普通に4コマ漫画として面白いんです。


 自分の好きなキャラは、やはりつーさん。
 すりーさんのお姉ちゃんで、全世界で普及したPS2がモデルのキャラです。

 トップアイドルでありながら妹想いのお姉ちゃんと、そんな姉を持つが故の重責を背負ってしまっている妹の、姉妹愛の物語として自分はこの漫画が好きなんです。4巻を最終巻と考えるのなら、この漫画の主人公はつーさんだったのかなぁと思わなくもないです。


 あと、他のキャラだと作者のお気に入りであろうせがさんのワケの分からなさも良いです。この漫画は4コマ漫画としては「1コマ余った」みたいなネタをぶちこんでくるので“不条理系”とも呼ばれているのですが、それを何となく許してしまうのはセガさんというかセガの人徳だよなぁと思ったり。
 すりーさんやうぃーさん等のゲームハードはアイドルとして登場しますが、せがさんやこーえーさんなどのゲームメーカーはプロデューサーとして登場します。アイドルに曲を提供する立場ってことですね。せがさんは常にワケの分からないようなことを言っているバカキャラのようでいて、長く業界にいて色んなアイドルをプロデュースしてきて、その無念な姿を見てきたという背景があるから深みがあるんですよね。

 先ほどは“不条理系”と書きましたけど、スタンダードな4コマ漫画から、幾つかの話が繋がっている4コマ漫画や、切ない話・泣ける話もあるし。4コマ漫画として非常にバリエーション豊かで、技術があるなぁって思います。



○ 総評
 ゲームハードを元ネタにした漫画ですが、「ゲームハード論争とかもう見たくない……」という人にこそ手に取ってもらいたい優しい漫画です。決して「どのハードが優れているか」とか「どのハードが勝ったのか」みたいな作品ではなく、「どのハードだってみんな頑張っているんだ」と描いている作品なんです。

 ゲームの話題が殺伐としてしまったあの時期に、こうした作品があったことは奇跡だと思っていますし、自分も随分と救われました。コメント欄が目も当てられない状況になった時も、この漫画に出てくるキャラクター達を思い浮かべて「ゲームハードに罪はないんだ」と自分に言い聞かせていたほどです。


 「ゲーム業界とか全然興味ないや」という人が読んで楽しめるかというと、流石にそれはちょっとと思いますが……ゲームが大好き&どのゲームハードも応援しているって人は「2006年~2012年のゲーム業界を切り取った作品」として保管しておいて、10年後・20年後に読み返してみるのも面白い作品だと思います。

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