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殺人、ドラッグ、オカルト……なのに爽やか群像劇!『ヴォイニッチホテル』全3巻紹介

【三つのオススメポイント】
・南国のホテルを舞台に、様々な登場人物が躍動する群像劇
・本当ならグロイはずなのに、コミカルな作風ゆえに、爽やかさまで感じられる
・風刺と、パロディと、テンポの良さが光るテキスト


[紙の本]
ヴォイニッチホテル 1 (ヤングチャンピオン烈コミックス) ヴォイニッチホテル 2 (ヤングチャンピオン烈コミックス) ヴォイニッチホテル 3 (ヤングチャンピオン烈コミックス)

[キンドル本]
ヴォイニッチホテル(1) (ヤングチャンピオン烈コミックス) ヴォイニッチホテル(2) (ヤングチャンピオン烈コミックス) ヴォイニッチホテル(3) (ヤングチャンピオン烈コミックス)

【苦手な人もいそうなNG項目の有無】
この記事に書いたNG項目の有無を、実験的にリスト化しました。ネタバレ防止のため、それぞれ気になるところを読みたい人だけ反転させて読んでください。
※ 記号は「◎」が一番強くて、「○」「△」と続いて、「×」が「その要素はない」です。

・シリアス展開:○(それほど重くはないけれど、人が死ぬ話なのでそれなりには)
・寝取られ:×
・極端な男性蔑視・女性蔑視:×
・動物が死ぬ:×
・人体欠損などのグロ描写:◎(絵柄上そんなにはグロくないけど)
・人が食われるグロ描写:×
・グロ表現としての虫:×
・百合要素:×
・BL要素:×
・ラッキースケベ:×
・セックスシーン:×


◇ 南国のホテルを舞台に、様々な登場人物が躍動する群像劇
 この作品は、2006年から2015年までヤングチャンピオン烈(隔月誌→後に月刊化)にて連載された道満晴明さんの漫画です。ヤングチャンピオン烈は「ヤング○○」という青年誌の中でも過激寄りの雑誌で、グラビアにはAV女優のヌードが掲載されたりもする雑誌です。
 自分は成年向け漫画はあまり詳しくなくて知らなかったのですが(ホントですよ!?)、道満さんは元々成年向け漫画でも活動している漫画家さんで、そうした漫画家にも積極的に作品を描いてもらおうというヤングチャンピオン烈の方針に合致したということみたいですね。

 でも、一応言っておきますけど『ヴォイニッチホテル』はエロくはないです。
 殺人も麻薬も幽霊も出てくる作品なので、下ネタというか性の話も出てくるくらいで。過激さは、「エロイ」というよりかは「何でもあり」という方向性での過激さです。



 舞台は太平洋南西に浮かぶブレフスキュ島、そこに建つ「ヴォイニッチホテル」を中心に描かれます。
 一応の主人公格として、ヴォイニッチホテルの従業員であるエレナベルナという二人のメイド、日本からやってきてこのホテルに長期宿泊しているクズキ・タイゾウという男の三人がいるのですが……

 その他にも、同じように長期宿泊している日本人の漫画家、日本人の殺し屋、麻薬の密売人、連続殺人犯、それを追う警察、少年探偵団、ホテルのコック、ホテルのオーナー、幽霊、悪魔……これでもかというほど多種多様なキャラクターが登場し、回によって描かれるキャラは入れ替わります。ということで、この作品は!私の大好きな「群像劇」なのですよ!!

 どのキャラも大好きなのだけど、強いて好きなキャラを挙げるならやっぱりアレかなぁ。ロボット刑事かなぁ。アイツが出てくるシーンは全部面白い、ズルイ。



 この漫画を機に、私が「群像劇」を好きな理由を改めて考えてみたのだけど……
 一つには、「一つの出来事を(読者だけは)色んな“視点”から見ることが出来る」というのがあるのかなと思います。
 “視点”となるキャラクターが回によって入れ替わるので、例えば殺し屋が“視点”になる回もあれば、その標的が“視点”になる回もあります。どちらの立場にも読者としては感情移入が出来てしまうし、標的に対して「殺し屋が迫ってるよ!早く気付け!」とドキドキしてるのに、殺し屋に対しては「早くしないと標的に逃げられるよ!急げ!」とワクワクできて、一粒で二度美味しいという。こういうことが全3巻ずっと続くんですね。


 二つ目には、「“視点”となるキャラクターがたくさん出てくるために、話がどう転がっていくのかが全く予想できない」という魅力も群像劇にはあります。
 例えば先ほどの殺し屋の例で言えば、「殺し屋の“視点”でしか進まない話」だったら殺しが成功するか失敗するかなんだろうなという予想が出来てしまいます。しかし、「殺し屋」「標的」「標的のことが好きな人」「標的のことが好きな人を好きな人」といったカンジに“視点”となるキャラクターが増えると、これらのキャラクターがどう作用するのか予想できなくなります。だから、「この後どうなっちゃうんだろう」にドキドキワクワク出来るんですね。


 私は単行本である程度一気に読むことが出来ましたが(最終巻が出るまではしばらく待ちましたが)、これを隔月誌の時から毎号読んでいた人は「早く!早く続きを読ませてくれよ!」とやきもきしていただろうなと思います。そのくらい、後を引いてしまうのが群像劇の魅力なのです。


◇ 本当ならグロイはずなのに、コミカルな作風ゆえに、爽やかさまで感じられる
 先ほど、例え話として「殺し屋」の話を書きましたが……実際にこの漫画には「殺し屋」が出てきます。なので、殺人のシーンもあれば、血みどろになるシーンもあります。
 殺人も十分に犯罪ですが、同じように犯罪描写として「麻薬の販売・購入・使用」なんかの描写も出てきます。舞台が架空の島なだけであって、やりたい放題です。麻薬が切れて禁断症状が起こってしまう描写もあります。
 精神的に病んでいる人間や、自殺しようとする描写もあります。
 もっと言うと、幽霊だったり、ゾンビ(のようなもの)だったりも登場します。


 これ……同じ題材でも、描く人によってはものすごくグロイものになっていたかもなぁって思います。ゲームだったらCEROは高めの年齢推奨にしていたかも知れませんし、ひょっとしたら18歳未満は禁止になっていたかも知れません。血がわんさか出てきますからね。


 ですが、可愛らしい絵柄に、一歩引いたところから描いているような無機質な演出、“不条理”とも言える世界観ゆえにグロさは全然感じないんですね。むしろ、コミカルに見えるし、読んでいる間は爽やかな気分になれます。
 だってさ、島中を震撼させる謎の連続殺人犯の犯行現場にやってきて捜査を開始する警察サイドのキャラがロボット刑事ですからね!世界観どうなってんだよ!と言いたくなります(笑)。


 題材的に、重い話にしようとすれば好きなだけ重く出来た題材だと思うんですよ。
 スペイン軍の侵攻と、植民地時代の話、日系企業が進出しつつも内戦が起こったことでとっとと撤退してしまったことによる反日感情、放置されて荒廃している街並み……「殺人」や「麻薬」が描かれているのならそういう罪の意識の話とか、ロボット刑事がいるのなら「人間とは何か」みたいな切り口にしたっておかしくないと思います。

 でも、この漫画はそういうことはしません。
 作者の信念とか、作者の思想みたいなことを持ち込んだりはしないのです。喋るのはあくまでキャラクターで、行動するのはあくまでキャラクターなんです。極端な話、この作品の中では「殺人は良くない」とすら言いません。ただ、殺す人の人生と、殺された人の人生が描かれるだけ。このフラットさがなければ、もっと重く押し付けがましい話になっていたかも知れません。



 これだけ血がわんさか出てくる話なのに、可愛らしい絵柄の白黒の漫画ゆえにグロさを感じさせず、むしろ爽やかに思えてしまいます。命に対しては冷淡に殺す人も殺される人もたくさん出てくるのに、「人間って捨てたもんじゃないよなぁ」と思えてしまう暖かみもある―――これは作者の作風の力であって、他の人には出来ない芸当だと思います。



◇ 風刺と、パロディと、テンポの良さが光るテキスト
 この漫画、1話1話はとても短いんですね。
 1話6ページとか、8ページとか。終盤はちょっと長くなりますが、それでも12ページとか。

 それが大きく繋がって全体的には破綻なく話が進んでまとまるのも凄いんですけど、それぞれの話は“視点”となるキャラが変わって6ページとか8ページとかで一応の区切りが付くことが多いです。この短いページ数の中で話をまとめるのはよほどの技術がないと難しいと思うのですが、そこはやはり「短編の名手」と呼ばれた道満晴明さん。短いページ数でも1話・1話が面白いんです。


 1ページの中に、ゴチャゴチャさせずにコマ数を多く押しこめる技術とか。
 そのコマの中に必要なキャラを必要なポーズで描ける技術とか……そういうところももちろん目を見張るのですが、“1話・1話が面白い”最大の理由としては「台詞の面白さ」が大きいかなぁと思います。 


 「何でもあり」な世界観ゆえに、風刺も、パロディも、下ネタも「何でもあり」で―――それらがテンポ良く、それでいてクドくなく使われていて、数ページに1度はクスリと笑わされるからこそ1話・1話が面白いんですね。



 しかし、それを「紹介記事」で説明するのは難しいのです!
 流れを無視してその部分だけ切り取ってテキストで紹介したってその面白さは伝わらないし、ネタバレになってしまいます。だから、「面白い」以上に説明のしようもないのですが……方向性だけ言っておくと、個人的にはやっぱりロボット刑事のロボットネタと、少年探偵団のやり取りが好きだったかなぁ。


 あと、テキスト関係ない話だけど、女のコの漫画的な動きの可愛さなんかも特筆すべきところ。アリスの愛くるしさと言ったら!姉妹の話もすごく良かったなー。


◇ 総評
 全3巻と一気に読むにも負担のかからない長さで、それでいてたくさんのキャラクターのそれぞれの生き様が見られる傑作だと思います。群像劇好きならば、是非是非!

 殺人・麻薬・性の話と苦手な人は苦手かも知れない題材も取り込んでいる「何でもあり」な作品なので、そこに抵抗感がある人もいるかも知れませんが……ですが、私はこの作品を「ブラックな漫画」だとは思わないんですね。人間の欲をコミカルに、スリリングに描いて、多くの人が楽しめるエンターテイメントにしてしまっている、とてつもないバランス感覚の作品だと思います。
 「何だこの世界観は」という出だしだけど、不条理さとか意味不明さとかは皆無で、最後まで読んだ後に1巻から読み直しても「やっぱり良く出来ているなー」と感心する見事な構成になっています。

 大好きな作品です。オススメ!


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| 漫画紹介 | 17:51 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

最近のどーまん先生の作品は成年向けの雑誌で連載してるやつでも、エロはせいぜい下ネタがある程度のギャグ漫画ばかりですね。
ストーリーは比較的薄いですが、下ネタ気にならなければどれも面白いのでオススメです

| ああああ | 2015/07/14 21:19 | URL |

 面白そうですね。ご紹介のキーワードも胸をくすぐる要素満載ですし、読んで見ようと思います。

 短編の名手による群像劇で、ロボット刑事に少年探偵団……?! 紹介されてるテーマの面も含めて、とても気になる……。


 ところで、本文とは直接の関係がなくて恐縮ですが。冒頭の【NG項目】断り書きについて。
 これ、※印の注釈を上へ移動した方がいいように思います。

 上からそのまま順に目で追っていると、「このマンガにはこれらすべての要素が盛り込まれています」と書かれているように見えてしまいますので。
 ○△×の記号は透明化していますし、注釈は薄字な上に要素の並んだ後ですし。

 フォント自体はこのまま、注釈の位置だけ要素の一覧よりも上に移せば、誤解が発生しなくなるかなと。

| kanata | 2015/07/14 21:49 | URL | ≫ EDIT

>ああああさん

 キンドルで出ているのは『ぱらいぞ』くらいですかね?
 余裕が出来たら読んでみますねー。


>kanataさん
>これ、※印の注釈を上へ移動した方がいいように思います。
 修正しました。


 とても面白い漫画なので、是非是非!
 この漫画を読んで好きになる人は多いと思うので、もっともっと多くの人に手に取ってもらえたら嬉しいです。

| やまなしレイ(管理人) | 2015/07/15 21:29 | URL | ≫ EDIT

今更ながら、この記事のおかげで購入しました!出会えてよかったです!

| K | 2016/12/13 13:34 | URL |















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