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『おおきく振りかぶって』1~27巻が面白い!/続いている「もう一つの世界」の高校野球

 毎年、夏の高校野球の時期になると「1巻から読み返したいなぁ」と思っていながらなかなか読む時間が作れなかったのですが、今年は7月に入ったタイミングで1巻から読み返してそのまま「買っていたけど読んでいなかった巻」「買っていなかったのでこの機会に買った巻」も一気に読みました。
 今月22日に発売された最新27巻も読んだので、「この漫画が面白い!」というカテゴリーで紹介しようと思います。


【三つのオススメポイント】
・あたかも「もう一つの世界」があるかのような描写の細かさ
・野球漫画の面白さって「読者だけが全てを知っている」情報戦なんだ!
・描かれているのは実は「負け犬たちのワンスアゲイン」



【キンドル本・まとめ買い】
[まとめ買い] おおきく振りかぶって(アフタヌーンコミックス)

【苦手な人もいそうなNG項目の有無】
この記事に書いたNG項目があるかないかを、実験的にリスト化しました。ネタバレ防止のため、それぞれ気になるところを読みたい人だけ反転させて読んでください。
※ 記号は「◎」が一番「その要素がある」で、「○」「△」と続いて、「×」が「その要素はない」です。

・シリアス展開:○(青春に挫折はつきものだけど、三橋の過去の話はつらい…)
・恥をかく&嘲笑シーン:△(三橋の普段の行動を「恥をかく」と言ってイイのか…)
・寝取られ:×
・極端な男性蔑視・女性蔑視:×
・動物が死ぬ:×
・人体欠損などのグロ描写:×
・人が食われるグロ描写:×
・グロ表現としての虫:×
・百合要素:×
・BL要素:△(私は「チームメートとの絆」くらいだと思いますけどね)
・ラッキースケベ:×
・セックスシーン:×


◇ あたかも「もう一つの世界」があるかのような描写の細かさ
 「え?今更この漫画を紹介するの?必要なくない?」と思った人もいるかも知れません。
 この作品は2003年から月刊アフタヌーンで連載されているひぐちアサ先生の高校野球漫画で、2016年7月現在までにコミックスは27巻まで発売されていて、2007年にはテレビアニメ1期、2010年にはテレビアニメ2期が放送されていました。監督は後に『ガールズ&パンツァー』や『SHIROBAKO』を手がける水島努さんでした。

 言ってしまえば超人気作だし、超有名作なのですが……
 どんな有名作だって知らない人・食わず嫌いをしている人はいますし、長く続いている作品ほど「後から入る」のは難しいものですし。テレビアニメの2期からもう6年が経っているので、テレビアニメが放送されていた頃には夢中になっていたけどその後は読んでいないという人もいるんじゃないかと思います。

 コミックスは現在27巻まで出ていますが、テレビアニメでやったのは恐らくコミックスの14~15巻あたりまでだったと思います。そこで終わるのは確かに非常に「区切りが良い」と思うのですが、「テレビアニメで描かれた話」と「テレビアニメ以降の話」がそろそろ同じくらいの量になりますから、「テレビアニメでやったところまでしか知らない」という人にも是非その続きを読んでもらいたいなと思います。
 「この後こんな展開になるんだ!」とか「あのキャラって初期から顔だけは出ていたけどちゃんとガッツリ出番あるんだ!」と驚くと思いますから。長期連載の宿命で、7年前に張った伏線をようやく消化!とかザラにありますからね(笑)。



 さて……この漫画の特徴を一言で説明すると「すげー細かい」です。
 試合の描写も一球一球丁寧に描かれるのですが(この話は二つ目のオススメポイントのところに書きます)、キャラの設定、世界観の設定の作り込みも半端ないです。一キャラごとに家族構成やクラスが設定されていて、例えば「このキャラの親は試合の応援に来ていなかったけど何故か」とか「このキャラとこのキャラはクラスが一緒なので行動を一緒にしていることが多い」とか、膨大な量の設定に裏付けされた各キャラの行動が描かれているのです。


 まー、長い連載なので「この設定は後付けなんでは……?」と思うところも正直あるんですけど(笑)、作者がこの作品の世界を好きで細かいところまで設定を考えているため、メインストーリーにはさほど絡まないところでも人間が生きているのがしっかり分かって……『イチゴーイチハチ!』を紹介する時にも使った表現ですが、「実際にこの世界があるんじゃないのか」と思わせる圧倒的な実在感を持っているのです。

 高校野球の漫画ですが、父母会とか、応援団とか、チアリーダーとかまでしっかり描かれていて……
 例えば、父母会が分担して他校の試合をビデオで撮影、その配球をマネージャーがデータ化して、バッテリーがそれを覚えて試合に活かすという描写があって。試合に出ている選手以外のキャラのおかげで、如何に試合が成り立っているのかが分かるという。
 メンタルトレーニングや栄養学とか故障しないためのトレーニングとか……「試合に入る前」の描写も数多く。私は子どもの頃から野球漫画をたくさん読んできましたけど、こんなところまで描写されている作品は初めて読みました。



 私はこの漫画、連載開始当初から大好きで新刊が出るたびに1巻から読み返していたのですが……流石に10巻を越えたあたりから「新刊が出るたびに1巻から読み返す」時間はなく、しかし前巻の内容は覚えていないということで、ここ最近は「数年に1回1巻から読み返して読んでいなかった巻も全部読む」というサイクルにするようにしました。
 今回は27巻まで読みましたけど、前回はどうやら2012年に20巻まで読んでいたようで、21巻以降は今回が初めて読む内容でした。

 こういう楽しみ方が正しいファンの楽しみ方なのかは賛否両論ありそうですが、私はそうすることで「自分の見ていないところでも彼らの高校生活は続いていて、知らない間に成長しているんだな」という感覚がして、それがすごく楽しいんです。「もう一つの世界」があって、久しぶりにそこを覗いてみたら随分と人々が成長していた―――みたいな。


 読書メーターとかメディアマーカーのコミックス1冊ごとの登録者数を見ると、1巻~16巻までは安定した人数が続いていたのに対して、17巻以降や21巻以降でグッと人数が減っている傾向があります。アニメが終わってから原作も追わなくなっちゃったという人も結構いるみたいなんですね。

 そういう人も、続きを読んで久しぶりに「おおきく振りかぶっての世界」を覗いてみましょう!「今こんなことになっているんだ!」「高校生なんか、しばらく見ない内に随分と変わるんだなぁ」と思えるでしょうから。



◇ 野球漫画の面白さって「読者だけが全てを知っている」情報戦なんだ!
 一つ目のオススメポイントは「青春モノ」の部分に焦点をあてましたが、二つ目のオススメポイントは「野球漫画」としての面白さについて語ろうと思います。


 私は漫画ではないリアル野球の試合を観るのも好きなのですが、「リアル野球」と「野球漫画」の最大の違いは「キャラクターの心理」が分かるところです。この選手は今こういうことを考えているんだなということが、野球漫画では知ることが出来るのです。しかも、両チームの。

 例えば、ピッチャーのキャラが「ストレートを投げるぞ」と考えているとします、バッターのキャラが「カーブを待つぞ」と考えていたとします、読者である我々は「いやいやいや!来るのはストレートだよ!カーブ待ちじゃ打てないよ!」とやきもきさせられるのです。つまり、野球漫画というのは「読者だけが全てを知っている」ことでハラハラさせられるのが面白いのです。

(関連記事:「視聴者だけが全てを知っている」というシチュエーションに私は弱い


 また、野球というのは「情報戦」です。
 相手ピッチャーの球種、相手バッターの得意なコース・苦手なコース、作戦、選手のコンディション……などなどなどなどが重要で、如何にして「手の内を隠すか」と、どうやって「相手の手の内を読むのか」が勝敗を左右します。


 あんまり書きすぎるとネタバレになってしまうので、一つだけにしますが……
 『おおきく振りかぶって』を「野球漫画」として分類していくと、「豪速球」も「魔球」も投げられない貧弱なピッチャーが「配球」で相手を打ち取っていくという野球漫画です。そのポイントとなるのが「遅いんだけど浮いたように感じる」=「ストレートではないまっすぐ」というクセ球。

 クセ球なので、慣れてしまったり、カラクリが見破られてしまったりすれば簡単に打たれてしまうのだけど……相手はそんな球を持っていることを知らないので、「配球」によってそれに気付かせないように、それでいてここぞという時に打ち取るために使うのです。
 読者は「主人公チームの会話」も「敵チームの会話」も両方知ることが出来るので、この「ストレートではないまっすぐ」がいつバレるのかとか、バレていないのにバレているんじゃないかと疑心暗鬼になって投げられなかったりとかにハラハラさせられるのです。


 今のはあくまで一例ですが、この作品の試合はいずれも「相手の手の内に気づくか」がポイントとなっています。
 そのため試合のシーンは一球一球細かく描写され、「この打者には1打席目に何と何と何を投げて何を振って何を振らなくて、2打席目に何と何と何を投げて何を振って何を振らなくて―――」という過去のデータから、バッテリーとバッターの読み合いが行われて……ということを細かくやっているから、1つの試合を描くのに膨大な時間がかかって、13年も連載が続いているのに作中時間はまだ数か月しか経っていないという(笑)。

 ここまで来たら「何十年かかっても構わないから、このキャラ達が3年生になって夏の大会で引退するまで描いて欲しい」「中途半端なところで打ち切らないで欲しい」と私は思っているのですが……単純な「作中で経過している時間」と「それを描くのに使ったリアル時間」を計算すると、3年の夏の大会まで描こうとすると60年くらいかかるという(笑)。

 「打ち切られるかどうか」とか「漫画雑誌という媒体がそれまで生きているかどうか」どころか、私が生きていられるかどうかも微妙だぞこれ!



◇ 描かれているのは実は「負け犬たちのワンスアゲイン」
 一つ目のオススメポイント、二つ目のオススメポイントはともに「この漫画が持っている“この漫画にしかない魅力”」を書きましたけど……三つ目のオススメポイントは「みんなが大好き」な王道な話を書こうと思います。この『おおきく振りかぶって』を久々に1巻から読み返して思ったんですけど、『おおきく振りかぶって』という作品は「王道中の王道」を突き進んでいるからこそ面白いんです。


 構造的には「弱小チームが、強豪チームに挑む」話ですからね。
 主人公チームとなる西浦は「1年生が10人だけいるチーム」な上に、この選手だけは全国レベルだからこの選手の力だけで勝てるみたいな選手もいません。


 エースピッチャーの三橋はコントロールは良いけど球速は遅く、クセ球である「まっすぐ」と「配球」で何とか何とかかわして打ち取っていくことしか出来ません。
 三橋は中学時代に「経営者の孫」ということでヒイキでピッチャーをやらせてもらい、それによってチームが負け続けたことでチームメートからは「いないもの」のように扱われるイジメを受け、野球をやめるつもりでエスカレーター式ではない別の高校(西浦)に入学してきました。

 キャッチャーの阿部は、中学時代にシニアで1つ上の榛名というスーパーピッチャーとバッテリーを組んでいたのだけど、問題を抱えている榛名は「今」よりも「将来」を考えて野球をしていたので「今の試合」に全力になってもらえず。榛名のいる武蔵野第一ではなく、野球部が新設されたばかりの西浦に入学してきました。


 二人とも「中学時代」には悔しい思いがあって、一念発起して“別の高校”に進んだことで出会い―――三橋にとって阿部は「ダメな自分でも勝たせてくれるリードをくれるキャッチャー」として、阿部にとって三橋は「自分の求めた通りに投げてくれるピッチャー」として、お互いに足りない部分を補いあっているんです。

 女性的な絵柄だとか、非常に理論的な描写ばかりに気を取られて、今まであまり意識してこなかったんですけど……この漫画、根っこにあるのは「悔しい思いを抱えた男たちが集まって、“高校野球”で今度こそ!」と強豪校に挑んでいくという泥臭い熱血要素なんですよ。


 三橋と阿部以外のキャラも……
 例えば、チームのムードメーカーで4番である「田島」は抜群の野球センスで誰もが一目を置いているんだけど、体が小さいことでホームランが打てないと自覚していて、そこにコンプレックスがあって。
 キャプテンの「花井」は体が大きくて攻守の要になれるはずの素質を持っているにも関わらず、「田島」という輝かしい才能の前にコンプレックスを抱えていて―――と。


 みんなどこかしらに「悔しい思い」を抱えていて。
 ストーリーが進んでいくと、それは決して主人公チームだけの話じゃなくて、対戦している敵チームだったりの中にも色んな思いを抱えているキャラが登場していて。そういう思いがぶつかりあうからこそこの漫画は面白いのだし、理論的な部分だけでなくて、熱血的な要素があるからこそ「王道の高校野球漫画」として君臨しているのだと思います。





 27冊もコミックスが発売されていて、その上ストーリー的にも「まだまだ続きそう」なので、この記事を読んで「今まで食わず嫌いで読んでいなかったけど読んでみようかな!」と思った人もなかなか手を出しづらいかも知れませんが……
 目安として、テレビアニメの1期は8巻まででしたし、2期は14~15巻までだったので、そこらを区切りとしてひとまずその区切りまで読んでみるのも手かも知れませんね。「テレビアニメ以降の話は知らない」という人は20~21巻あたりで区切りがあって、26~27巻あたりにも区切りがあるのでそこを目安にすればいいかなぁ。


【紙の本】
おおきく振りかぶって (1) おおきく振りかぶって (2) おおきく振りかぶって (3) おおきく振りかぶって(4) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(5) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(6) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(7) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(8) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(9) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(10) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(11) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(12) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(13) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(14) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(15) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(16) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(17) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(18) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(19) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(20) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(21) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(22) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(23) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(24) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(25) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(26) (アフタヌーンKC) おおきく振りかぶって(27) (アフタヌーンKC)

| この漫画が面白い! | 20:00 | comments:3 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

おお振りをここまでつまらなく紹介出来るのは逆に凄い

| あ | 2016/07/27 23:58 | URL |

わたしは近隣高校のコーチが集まってモモカン以外全員が男の場面が好きです。
がっついてるとかいやらしい視線とか思われないように気を使っているオトコ連中の挙動が、あーこれ分かるわぁ…って感じで。

| 児斗玉文章 | 2016/08/01 00:28 | URL |

>あさん

 別に無理して読んでもらわなくて結構です。


>児斗玉文章さん
 すっげえ細かいところピックアップしますねぇ(笑)。
 「男だらけのコミュニティの中での女性の扱い」の微妙さが、やけにリアルで痛々しいですよねぇ。水谷と泉のやり取りとか、榛名と先輩マネの関係とか。

 元々恋愛漫画畑の人ではあるのだけど。

| やまなしレイ(管理人) | 2016/08/01 21:30 | URL | ≫ EDIT















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