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冨樫義博短編集『狼なんて怖くない!!』紹介/“ちょい外しの天才”の片鱗

【これさえ押さえておけば知ったかぶれる三つのポイント】
「王道」のように思われているかもだけど、実は「ちょい外し」こそが真骨頂
スポーツ、推理、ラブコメ、オカルトなど多様なジャンルの「ちょい外し」が楽しめる
天才が駆け出しだった頃に考えていたこと


【紙の本】
狼なんて怖くない!!―冨樫義博短編集1 (ジャンプコミックス)

【キンドル本】
狼なんて怖くない!! (ジャンプコミックスDIGITAL)

【苦手な人もいそうなNG項目の有無】
この記事に書いたNG項目があるかないかを、リスト化しています。ネタバレ防止のため、それぞれ気になるところを読みたい人だけ反転させて読んでください。
※ 記号は「◎」が一番「その要素がある」で、「○」「△」と続いて、「×」が「その要素はない」です。

・シリアス展開:△(どれも明るい話としてまとめられてるけど)
・恥をかく&嘲笑シーン:◎(『HORROR ANGEL』は共感性羞恥な人はキツイかも)
・寝取られ:×
・極端な男性蔑視・女性蔑視:×
・動物が死ぬ:×
・人体欠損などのグロ描写:◎(ホラー映画などの描写として出てくる)
・人が食われるグロ描写:○(ホラー的な演出としてそれっぽいシーンはある)
・グロ表現としての虫:○(ホラー的な演出としてそれっぽいシーンはある)
・百合要素:×
・BL要素:×
・ラッキースケベ:×
・セックスシーン:×

↓1↓

◇ 「王道」のように思われているかもだけど、実は「ちょい外し」こそが真骨頂
 今日はいつもとは趣を変えて、漫画短編集の紹介です。
 紹介するのは、後に『幽☆遊☆白書』や『HUNTER×HUNTER』で国民的人気を博す冨樫義博先生が1989年に発売していた短編集になります。1989年というのは、『幽☆遊☆白書』も『HUNTER×HUNTER』も連載開始になっておらず、連載デビュー作である『てんで性悪キューピッド』が始まった頃です。

 つまり、後に超人気作家になっていく冨樫義博先生が、まだ連載を持てていない駆け出しの頃に描いた読切漫画を集めた本なんですね。時系列順に並べると、こんなカンジになります。

・1986年:読切『センセーは年下!!』 投稿作、ホップ☆ステップ賞最終候補
 (『てんで性悪キューピッド』最終巻に収録)
・1987年:読切『ジュラのミヅキ』 投稿作、ホップ☆ステップ賞佳作
 (『てんで性悪キューピッド』最終巻に収録)

・1987年:読切『ぶっとびストレート』 投稿作、手塚賞準入選
・1987年:読切『とんだバースディプレゼント』 プロデビュー作
・1988年:読切『オカルト探偵団 PART1』
・1989年:読切『HORROR ANGEL』
・1989年:読切『オカルト探偵団 PART2』
・1989年:読切『狼なんて怖くない!!』
・1989~1990年:連載『てんで性悪キューピッド』 連載デビュー作
・1990~1994年:連載『幽☆遊☆白書』
・1995~1997年:連載『レベルE』
・1998年~:連載『HUNTER×HUNTER』


 短編集に収録されているのは、薄字になっていない6作品です。
 手塚賞に準入選した投稿作から、プロデビュー作、連載枠獲得へとつながったと思われる読切までが入っています。言ってしまえば、後に超人気作家になっていく前の「原点」が読める1冊なんですね。



 さて。
 『幽☆遊☆白書』や『HUNTER×HUNTER』といった大ヒット作を生み出した人ということで、「冨樫義博という漫画家」を「王道ど真ん中」な作家だと思っている人も多いかと思うのですが……私は、冨樫義博先生は本質的には「パロディ作家」だと思っています。
 「パロディ」という言葉だと「コメディ」のように受け取られるかも知れないので適当ではないとしたら、「“漫画のお決まりごと”を読者が知っていることを前提に、そこから絶妙な具合だけ外す」のが得意な作家だと思うんですね。


 例えば、連載デビュー作である『てんで性悪キューピッド』―――
 「冴えない男主人公」の元に「可愛いヒロイン」がやってくるというド王道のラブコメなのだけど、その男主人公は「現実の女性に興味がない」ために、男主人公がエロに目覚めるように悪魔であるヒロインが教育するという作品です。

 代表作の一つである『幽☆遊☆白書』も、序盤は「幽霊などのオカルト事件を主人公達が解決していく」という王道作品でしたが、よく考えると「主人公も死んでいて幽霊」だとか「しかもヤンキー」だとか「喫煙・飲酒・パチンコ・カツアゲの常習犯」だとかはかなり異質な設定ですよね。

 バトル路線になってからも、「暗黒武術会編」は当時のジャンプでは多かったトーナメントバトルなのですが、「公平ではないトーナメント表」や「一度負けた選手が、再び登場してまた戦う」などトーナメントバトルというシステムを皮肉った展開も多かったですし。「魔界の扉編」の“領域”は、『ジョジョ』のパロディのつもりだったという話もありますし。

 『レベルE』は言うまでもなく、「王道だと思ったら外し」のオンパレードな作品ですよね。
 記憶をなくした宇宙人と、彼を保護した高校生―――という話だと思ったら全然ちげえ!みたいな話を詰め込んだ作品になっています。

 『HUNTER×HUNTER』はそう考えると、「王道だと思ったら外し」と「少年漫画的なカタルシス」をうまく両立した作品だと思うのですが……

(関連記事:“パクリ”と紙一重の“パロディ”だった『幽遊白書』



 閑話休題。
 冨樫先生の初期作品を集めたこの短編集を読むと、実はそういった作風はこの頃からずっと続いていることが分かるんですね。初めてこの短編集を読んだときにはさほど刺さらなかった作品も、『レベルE』や『HUNTER×HUNTER』を通過した現在に読んでみると「なるほど!『レベルE』っぽい!」とか「『HUNTER×HUNTER』に通じるものがある!」と気付くところが多いんですね。

 そういう意味では、「冨樫先生の作品は『HUNTER×HUNTER』しか知らない」というような人にも、その原点と片鱗が垣間見える1冊として覚えておいて欲しいなと思います。

↓2↓

◇ スポーツ、推理、ラブコメ、オカルトなど多様なジャンルの「ちょい外し」が楽しめる
 ここからは収録されている6作品の紹介です。
 漫画家として確立されていく流れを追うため、「収録されている順」ではなく「描かれたと思われる順」に紹介していきます。


◇ 『ぶっとびストレート』
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<画像は『狼なんて怖くない!!』収録『ぶっとびストレート』より引用>

 アマチュア時代に投稿された作品で、手塚賞準入選作品です。
 なんと「野球漫画」なんです。

 冨樫作品にはところどころに「野球」要素が垣間見えて、例えば『幽☆遊☆白書』のメインキャラである桑原和真はPL学園出身のKKコンビ「桑田真澄」と「清原和博」を足した名前で、敵の攻撃を打ち返す「首位打者剣」という技を使いますし。『レベルE』の筒井雪隆は野球部員ですし、『HUNTER×HUNTER』は「ナックル」や「シュート」といった野球の変化球の名前のキャラが登場します。

 そんな先生の原点が「野球漫画」というのは、『幽☆遊☆白書』や『HUNTER×HUNTER』しか知らないような人にも感慨深いんじゃないかと思われます。
 ストーリーは、熱血派の直球ピッチャーである主人公と、知性派の変化球ピッチャーであるライバルが、どちらが部に残るかを賭けて紅白戦を行うというものです。ここまではまぁ「王道」というか「なくはない」話だと思うんですが、終盤の展開は「ええええええ!?そんなのアリ!?」と意外性バツグンで『HUNTER×HUNTER』に通じるものがあるかもと思わなくもないです。


◇ 『とんだバースディプレゼント』
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<画像は『狼なんて怖くない!!』収録『とんだバースディプレゼント』より引用>

 プロデビュー作となった読切です。
 ケンカとゲームが大好きな不良少年である主人公に、祖父が誕生日プレゼントとして「ゲームを疑似体験できるマシーン」を作ってあげるという話―――そうなんです、これってVRなんですよ。1987年の時点でVRのゲームを描いているんです。

 説明不要かも知れませんが、冨樫作品にはところどころで「VRゲーム」が出てきます。
 『幽☆遊☆白書』ではゲームマスター:天沼月人が「ゲームを現実化させる能力」を使って、主人公達とゲームで対決するという展開がありますし。『レベルE』ではカラーレンジャーが、バカ王子の作った『RPGツクール』のRPGの中にワープさせられる話がありますし。『HUNTER×HUNTER』ではMMORPGのような『グリードアイランド』というゲームの中に入って戦う話があります。

 しかし、プロデビュー作からして「VRゲーム」を描いていたというのは、『幽☆遊☆白書』や『HUNTER×HUNTER』しか知らないような人にも感慨深いんじゃないか―――って話はさっき書きましたね(笑)。


 1987年というとファミコンの『ドラクエ』ブームの頃なので、そうした流行のファンタジー要素をこういった形で取り入れるのはすごい発想力ですし、捻りのある作品だと思います。オチも美しい。


◇ 『オカルト探偵団 PART1』
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<画像は『狼なんて怖くない!!』収録『オカルト探偵団 PART1』より引用>

 プロデビューから1年、「読者に受ける漫画とは何か」に悩んだ末にたどり着いたのが―――自分が面白いと思うジャンルをやるしかないと、「推理」と「オカルト」を足した作品になったという。

 「オカルト」要素は『てんで性悪キューピッド』でも『幽☆遊☆白書』でも『レベルE』でも垣間見えるのは言うまでもないですが、「推理」要素も言ってしまえば「読者の盲点を突く」ジャンルなので『レベルE』や『HUNTER×HUNTER』にも通じる要素ですよね。
 この2つのジャンルを足したことで「殺人事件の被害者が証言者になる」という現実にはありえない設定から始まり、それを活かした展開になっていくのが面白いです。

 「チョイ外し」の要素はあまりなく、「王道」とも言える作品だとは思うのですが……「幽霊」と「ヤンキー」と「事件解決」という組み合わせは、『幽☆遊☆白書』序盤のそれに近いものがありますし、この作品がちゃんと評価されたことで後々『幽☆遊☆白書』が生まれると考えると貴重な1作だと思います。


◇ 『HORROR ANGEL』
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<画像は『狼なんて怖くない!!』収録『HORROR ANGEL』より引用>

 収録されている6作品の中で、私が一番好きな作品です。
 ホラー映画が大好きで、ホラー映画をぶっ続けで観ていた主人公の元に「ホラー映画の精」がやってくるという話で……言ってしまえば「冴えない男」のところに「願いを3つ叶えてくれる妖精」がやってくるという王道展開なのですが。この「ホラー映画の精」は「ホラーにまつわることしか出来ない」ため、ちっとも役に立たないという。

 「王道ラブコメ」に「ホラー要素」を加えてチョイ外しに成功したところは、「推理」と「オカルト」を足した『オカルト探偵団』の進化形に思えますし、『てんで性悪キューピッド』や『幽☆遊☆白書』の序盤につながっていく作風なような気がします。



◇ 『オカルト探偵団 PART2』
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<画像は『狼なんて怖くない!!』収録『オカルト探偵団 PART2』より引用>

 『オカルト探偵団』が人気だったためか、その第2弾が描かれました。
 幽体離脱をした少年と出会ったオカルト探偵団が、彼の願いを叶える―――といったカンジに、『幽☆遊☆白書』の序盤にありそうな話です。探偵要素はどこに行ったんだ(笑)。

 でも、「王道に見えてチョイ外し」が最後の最後に上手く効いていて、人情ドラマとしてよく仕上がっています。「泣かせる話」を描かせても超一流なんだぜって片鱗を感じさせますね。



◇ 『狼なんて怖くない!!』
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<画像は『狼なんて怖くない!!』収録『狼なんて怖くない!!』より引用>

 短編集の表題作で、『てんで性悪キューピッド』直前の読切なので、この作品が評価されたことでの連載枠獲得になったのかなーと思われます。
 「冴えない男」が「クラスのアイドル」に恋する王道ラブコメながら、実はその男主人公が「満月の夜に狼になってしまう」狼男だというチョイ外しですね。『てんで性悪キューピッド』と同ジャンルの作品だと思いますが、エロ要素はあまりなく、ヒロインも超王道の清楚黒髪ロングで可愛い。

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<画像は『狼なんて怖くない!!』収録『狼なんて怖くない!!』より引用>

 あと、悪役として登場するのが「気に入った女子をモデルにエロ同人誌を描いちゃう漫画研究会」だというのが酷い(笑)。


↓3↓

◇ 天才が駆け出しだった頃に考えていたこと
 冨樫義博先生と言えば『幽☆遊☆白書』以降は超人気作家で、現在でもまだ(不定期とは言え)『HUNTER×HUNTER』を大人気連載中なワケですが……そんな大先生であっても駆け出しの頃があって、「どうすれば上手くいくのか」が分からずに悪戦苦闘した時期があって、そうして足掻いている中で自分の武器を見つけた瞬間があって。

 そうした時期の作品を収録したこの短編集は、そうした漫画作品そのものも貴重なものだと思うんですが、更に作者本人が各作品に「この作品はこういう意図で描きました」とコメントを付けているのがものすごく貴重だと思うんですね。
 それはまぁ、連載デビュー作となる『てんで性悪キューピッド』や『幽☆遊☆白書』初期の頃もそうなのですが、冨樫先生ってコミックスのスペースで近況報告をしてくれたり作品の狙いを解説してくれたり、ファンサービスに熱心だった作家だったんですよね。作品が大ヒットしていくに従って、徐々にガードが固くなっていってしまうものですが。


 そういう意味では「冨樫義博という漫画家」を知るためにはそうしたコメントこそが大事なのかもと思いますし、「天才作家様にもこういう時期があったのか」と思うことで勇気が湧くとも考えられます。



◇ 結局、どういう人にオススメ?
 「冨樫義博先生の作品のファン」なら、もちろん彼のルーツが知れて面白いと思うのでオススメです。「昔読んだけど、もう内容忘れちゃった」という人でも、『レベルE』や『HUNTER×HUNTER』を通過した今読み返すと新たな発見があるんじゃないかと思います。

 というか、私も随分前に買って一度読んだだけでベッドの下の奥底にしまって読み返していなかったのですが、今になって読んだら「こんなに面白かったのか!」と驚きましたからね。


 「冨樫義博先生の作品は一作品も読んだことがない」という人がこの記事を読んでいるのかは分かりませんが(笑)、そういう人であっても様々なジャンルの「ちょっと王道から外れた話」が好きな人ならオススメです。なんだかんだ、女の子が可愛いというのもポイントが高いです。それを活かした連載デビュー作が、かなりえっちな『てんで性悪キューピッド』だったというのも必然というか何というか。

| 漫画紹介 | 17:59 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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