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好きなものを好きと言えること。『金魚屋古書店』7巻感想(ネタバレあり)

「この絵だって“見る目”のあるヤツからしたら、たいした事ないどーでもいい、安っぽい絵なのかもしれないけど……でもオレは、オレはこの絵が好きなんだよ」


 『金魚屋古書店』に出てくる漫画は全て実在の作品でした。
 『サイボーグ009』にしろ、『Dr.スランプ』にしろ、『ビリーパック』にしろ―――金魚屋という漫画好きが集まる古本屋を中心に、実在する漫画を通して“人々”を描いてきたのがこの『金魚屋古書店』という作品だったのです。

 しかし、第45話「白い漫画本」には実在する漫画は登場しません。
 小田島くんが好きだという“真っ白な表紙”の漫画にしても、旺沢さん達が面白かったと言っていた『****』という漫画にしても、具体的な名前は明かされないのです。それは―――この話を読んでいる読者一人一人にとって、それぞれ“真っ白な表紙”の漫画も『****』という漫画もあるだろうから、敢えて真っ白い表紙にしたのでしょう。


 自分が大好きなものが、誰にも理解されない―――
 みんなが面白いと絶賛しているから、背伸びして自分も「面白い」と言ってみる―――


 漫画に限らず、誰だってこういう経験をしたことが一度はあるでしょう。
 こうした「価値観は人それぞれだよね」的な物語の場合、決まって最後には主人公に同調して「オレもその漫画が好きだよ」と言ってくれる人が出てくるものです。しかし、『金魚屋古書店』のこの回に出てくる登場人物は最後まで、誰一人として小田島くんに同調せずに終わるのです。


 でも、物語を通して大きくなった小田島くんは、最後に笑顔で「この漫画が好きなんだ」と言える。



 また、拙くとも創作活動なんかをしている自分、ブログの一つ一つの記事を書くのに苦しみ続けているような自分にとって―――まるで次元の違う話ではあるけれど、村尾くんの「あの絵ももう潮時だろう」と過去の作品を壊してしまいたくなる気持ちが自分のことのように思えました。
 もちろん考えついた時は「俺って天才かも」と思って形にしていくのだし、形にしていく過程では「これは凄いものだ」と思い込む魔法を自分にかけているのだけれど(そうでもなければ形にできないのだけれど)……一旦、形になってしまえば魔法は解けて後悔しか残らなかったりするものなのです。

 「作品が残る重さに耐えられない」と、絵を辞めた村尾くんなら尚更。
 でも、その作品が形として残ったことで、作者のことを知らない人であっても(小田島くんは最後まで村尾くんに気付かなかった)その作品から何かを受け取っている―――


 誰も理解しない漫画であっても、作者すら燃やしてしまおうと思ってしまう絵であっても……存在する価値はある。
 なんて暖かくて、なんて優しい話なんだと読みながら震えっぱなしの回でした。

 「好きなものを好きと言える」、「その存在を好きだと言ってくれる人がどこかにいる」
 人が、強く生きていけるのはたったこれだけがあれば十分なのかもなぁと思った1冊でした。天晴れ。


4091884202金魚屋古書店 7 (7) (IKKI COMIX)
芳崎 せいむ

小学館 2008-07-30
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 蛇足。
 この巻の話―――1話完結モノでどれも主人公が違うバラバラの話なんですけど、ところどころで微妙にクロスオーバーしているところが面白かったです。最初読んだ時は気付きませんでしたが、この回のこのキャラと別の回の同じキャラはこのシーンで同じ服を着ている!みたいな。

 おかげで途中まで「え?ひょっとして最終回なのか!?」と焦りました(笑)。

| 漫画読み雑記 | 18:11 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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