やまなしなひび-Diary SIDE-

変わらない価値のあるもの

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ペンは鉛筆をなぞらない

 『バクマン』1巻のGペンがどうのという話を読んで思い出したこと。


 昨年末、久々に友人に会い、ちょうどその頃は第4パートのペン入れが終わった直後だったので「今日は一日ずっと消しゴムかけていて肩痛くなっちゃったよー」みたいな話をしました。
 ホントは消しゴム以外にも修正液をかけたりもしていたのですけど、非ヲタ相手には「一日ずっと消しゴムをかけていた」というように単純化した方が話が広がるだろうなという気遣い(という名の捏造)があったのですが―――


 やはり違う文化圏に生きている他人というのは、想像もしないような反応をしてきて面白いですよね。その友人曰く、



 「え?漫画って鉛筆の上からペンで描くんでしょ?消しゴムで消す必要なくない?」


 毎日毎日フラフラになりながら漫画を描いている自分には決して出てこない発想です。
 これだから“自分以外”と話すのは面白くてやめられないのですが、誰もがこんな風に純粋で無垢で素朴な疑問を投げかけるワケではなくて。中には、悪意と嫌味をたっぷり込めた言葉を投げつけてくる人もいます。



 これは数年前、兄貴から言われた一言。


 「ペン入れって線なぞるだけじゃん。なんでそんな時間かかるの?」


 全国の漫画描きがブチキレそうな発言ですけど、僕にブチギレられても困ります。


 自分の中には答えがあるんですけど、それを違う文化圏の人間(=漫画のペン入れをしたことがない人)に説明するのは非常に難しいんですよ。説明したらしたで長くなるから、「あーヲタクの話は長いからウゼエ」みたいに言われるんですもの。なので、「アハハハハハ」と笑って済ませるしかないという。


回答1.「なぞるだけ」でも大変
 プロの描いている漫画を、鉛筆で構わないからなぞってみろって。
 プロの線数にビビるから。

 あとは、“太さ”を持っている線に沿って“太さ”のある線を描くのは想像以上に大変だとか、そういうこと。



回答2.鉛筆の線はあくまで「目安」の線
 最初に出てきた友人にはこう答えておきました。
 下描きの原稿に描かれている鉛筆の線全てにペンを入れるワケじゃないということです。顔のデッサンを支えている+の線とか(この線があると頬→顎のラインのペン入れが上手くいくことに最近気付きました)、集中線の中央の×印とか、キャラがフキダシとか枠外にはみ出してもそこに大まかな線(アタリ)は描いて全身のバランスをチェックするとか―――下描き状態の原稿は、完成原稿以上にゴチャゴチャと線が入っていたりするものなのです。

 あとはまぁ、「下描きよりちょっと左にズラして描こう」みたいなこともありますしね。
 「頬のラインがちょっと右にズレたので、口もちょっと右にズラそう」とか。これはあんまり威張って言う話じゃありませんけど。


 サッカーで言えば、下描きが練習で、ペン入れが試合みたいなものか。
 演劇で言えば、下描きが台本で、ペン入れが舞台みたいなものか。



回答3.ペンと鉛筆では「表現できる線」が違う
 この説明が一番メンドくさい、けどこれが一番の根本にあるんですよね。

 ペンをGペン、鉛筆をシャーペンと限定してもらうと分かりやすいんですが……
 シャーペンは基本的には“太さ”は均一で(ホントは角度によって調節は出来ますけど)、筆圧の強弱によって調節出来るのは線の“濃淡”です。強く描けば濃い線が、弱く描けば薄い線が引けます。
 一方のGペンは“濃淡”は均一で(インクを変えれば調節も出来るんでしょうけど)、筆圧の強弱によって調節出来るのは線の“太さ”です。強く描けば太い線が、弱く描けば細い線が引けます。


 ペン入れが鉛筆の線をなぞるだけならば、別にペン入れの必要はなく、鉛筆画をそのままスキャンすればイイだけの話ですもんね。それをしないということはペンでしか表現出来ないものがあるということで、均一な線で描かれた下描きに“太さ”を加えていくのがペン入れと言えるんだと思います。
 だからこそ作画作業の中においてペン入れ作業が最も重要で最もしんどくて最も楽しいんですよ。



 ……というのが模範回答ですかね。
 ただまぁ、実際に描いている身からすると「実際に線の“太さ”を調節して何が表現出来てんだテメエは?」と言われると答えに困るというのが実状です。
 喩えば、昨年の12月24日の番外漫画は鉛筆画をスキャンしてコントラストかけてアップしたら「あれ?思ったよりも見れるじゃん」という絵になって安心したのですが、裏を返せば「じゃあ普段Gペンで描いている意味って何なんだろう」とも言えるワケで……。

 それは単に僕がまだまだ未熟だというだけの話なんでしょうけど―――
 現実問題、これから先に紙媒体が絶滅して漫画がデジタルメディアにでもなったら白黒である必然性はなくなりますし、白黒印刷に特化したGペンの線というのも必然ではなくなるのかもと思うのです。Gペン大好きな自分としては寂しい話ですけどね。


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| 漫画作成 | 18:03 | comments:11 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

お話は大変分かりやすく勉強になりました。
ただ一本の線をひく。なぞる。それだけでも簡単な話ではないのですね。
ただ、漫画を拝見した感想としては、表現できる線とかいうレベルの絵か?
というのが正直な感想でございました。
いつか商業誌で漫画を拝見できる日が来ることを願っております。
これからも頑張ってください。

| ああああ | 2009/01/22 04:01 | URL | ≫ EDIT

>ああああさん

 この記事を書いてから思ったことなんですけど―――
 漫画描きにとっての「線の強弱」とは、サッカー選手にとっての「正確にボールをトラップする技術」みたいなものなんだろうと思いました。超基本だけど究極の奥義というか。デニス・ベルカンプのとりもちトラップは凄いけれど、少年サッカーでだってもちろんトラップは大事。

 ぶっちゃけた話、髪の先の△だって強弱が付けられなければ自然な形にはならないワケで。レベルとか絵柄とかそういうものを超越してでも、永遠に日々精進し続けなければならない技術なんだろうと思います。

| やまなし(管理人) | 2009/01/22 20:32 | URL | ≫ EDIT

一概に下書きといってもほとんどネームみたいな人から、あとはペンでなぞるだけでOKみたいな完成度の人までいますけどね。アマチュアの場合ペン入れや修正に時間がかかる人は下書きの段階でしっかり描けてないからというのが大半です。ペン入れは下書きという設計図を元にズバズバッと線を引いていけるようにならないと!

| 冨樫はカブラペン | 2009/01/23 02:22 | URL | ≫ EDIT

>冨樫はカブラペンさん

>あとはペンでなぞるだけでOKみたいな完成度の人
 だから、「ペンでなぞるだけ」という単純な作業じゃないんですって!

 本当に「なぞるだけ」ならばペン入れせずにスキャンしてコントラストかけてハイ完成で構わないじゃないですか。
 ペンでしか描けないものがあるからペン入れをするのであって、ズバズバッと線を引けるようにならないといけないという点には同意ですが、それはペン入れの技術の話であって下描きとは関係のない話だと思いますよ。

| やまなし(管理人) | 2009/01/23 21:46 | URL | ≫ EDIT

「書類(履歴書とか)書く時に、
まず鉛筆で書いてから、
ボールペンで清書するじゃん?
その時に消しゴムかけない?
かけるだろ。それと同じ。」

| k | 2009/01/24 12:34 | URL |

はじめまして

ここまで判ってるなら、どうして漫画の線は一本調子で描いてしまうんでしょうか。
多分「線を引く意味」とかあんまし考えてなくて引いてそうな感じです。
すごい基本ですけど、1つの絵で「太い線を引く場所」と「細い線を引く場所」の違いを意識するとか、そこから復習した方がいいんじゃないかと思います。

| 僕も言うほど判ってないですが | 2009/01/24 13:42 | URL |

>kさん
 なるほど。確かにそれが最も一般に伝わりやすい説明かも知れませんね。
 自分からするとGペンはどっちかというと筆に近いと思っているので、そういう説明には「Gペンとボールペンを一緒には語れないっ!」と抵抗があるのですが(笑)。


>僕も言うほど判ってないですがさん
 具体的なアドバイスありがとうございます。
 これでも意識して線の太さは6種類使い分けていたつもりなんですが、そこまで言われるということは効果的には使えていなかったということなんでしょうね。猛省します。流石に40ページ描き直す気にはならないので今描いている漫画はドブに捨てるものと覚悟して、次描く時には基本からやり直そうと思います。どうもです。

| やまなし(管理人) | 2009/01/24 20:58 | URL | ≫ EDIT

原哲夫、北条司、荒木飛呂彦はもはや人外魔境では無かろうかと。
コンスタントに19ページ…
そうそう、露伴先生は下描きしないんですってよ!

| (´・ω・`) | 2009/01/25 14:46 | URL |

>(´・ω・`)さん

 露伴先生はインク飛ばして原稿描くから、「ペン入れすらしない」とも言えると思うんですよ!ああなりたいですが、僕は蜘蛛食ったり出来ないからああはなれません!

| やまなし(管理人) | 2009/01/25 21:35 | URL | ≫ EDIT

岸辺露伴はインク飛ばして書いてませんよ。インクとばしてベタを塗ってるんですよ。
線はちゃんと引いています。

ちなみに、デジタルメディアになろうとも、Gペンは生かせると思うのですが。ペンタブレットでそれまでのつけペンと同じタッチを使い分けている人はごまんといるでしょう?

| ぺーさん | 2009/02/01 22:57 | URL |

>ぺーさんさん

>デジタルメディアになろうとも、Gペンは生かせると思うのですが。
 Gペンは、今の漫画が白黒印刷という「一色のインクで陰影を表現する」メディアだからこそ重宝されているペンなので。
 白黒の必然性がないデジタルメディアがもし主流になったのなら、カラーで描いたり、鉛筆の濃さを調整して陰影を付けたりする人が出てくる可能性もあるので、「これまで重宝されたからといって今後もGペンが絶対ではない」という意味でこの記事では書きました。もちろんそうならない可能性もありますけどね。
 それを言い出すとスクリーントーンの方が先に不要になりそうですね。


>岸辺露伴はインク飛ばして書いてませんよ。
 あ、そうでしたっけ。
 曖昧な記憶でいい加減なことを書いて申し訳ありませんでした。

| やまなし(管理人) | 2009/02/02 20:09 | URL | ≫ EDIT















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